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第十二章 由美の秘密

  『第十二章 由美の秘密』


 異能力養成学校の男子寮は、学校から見てすぐ南側にある。


 女子寮はさらにその南側に位置しており、由美が俺の部屋にやってくるには寮長に怒られるというリスクをわずかながらも冒さなければならなかった。


「……ふう。なんとか着いたわ」


(ですぅ)


「おつかれ。由美」


 現在、俺は自分の部屋にてくつろいでいた。


 とはいえ、ここはFランク部屋。


 六畳一間に卓袱台が置いてあるだけの質素な部屋だ。


 一応、私物として本棚や洋服箪笥、ミニ冷蔵庫などを揃えたが、ひもじい感は否めない。


「今日は私がカレーを作ってきてあげたわ」


「すまない。いつも助かる」


 妹は自身の「時間を操る能力」を使い、本来行き来が不可能である女子寮から男子寮までを自由に時を止めて移動していた。


 時間を操る能力は、ただそれだけで便利なのだと痛感する。


 もしもテロリスト集団に襲われた時だって、妹が優秀でなければ俺は何の力も得られなかった。


 この能力も、まだまだ色々な使い方がありそうだ。


 俺はテロリストに対して行使した「時間を操る能力」について振り返る。


 「時間を止める使い方」は、もっともシンプルなものだろう。


 自分と同じ能力を持っている者、そして自分が能力の対象外と認識した者を除いて、時間を止める使い方。


 ぶっちゃけ、一番オーソドックスな使い方ながらもとても有効だった。


 相手は自分が殴られていることにも気づくことができず、時間を元通り動かし始めた瞬間、敵は止まっていた時間の中で受けたダメージを一気に受ける。


 そのため、たとえば一か所にダメージを集中させたい時などにも便利だろう。


 俺は時が止まった世界の中で銃弾を回収して回ったが、おそらく相手が剣などの近接武器を持っていたとしても、同じ要領で白刃取り、攻撃をいとも容易く躱すことができるはずだ。


 次の「時間を逆行させる使い方」は、とても応用が利きそうなやり方だ。


 俺は全校生徒全員の異能力を封じていた結界を魂の状態で触れ、その装置の時間を逆行させた。


 もしもテロリストに向けて発った台詞通り、人間にこのちからを使ったならどうなるだろう。


 肉体は、骨と血のみになるだろうか。


 もしくは大人を青年に、青年を少年に、少年を子どもに逆もどりさせることだって可能であると思う。


 物体を元の形質に戻す使い方であるから、枯れた花を再び咲かせたり、壊れたロボットを再起させたりもできるだろう。


 この使い方によって俺は、銃弾を受けた自分の身体さえ復活させて蘇ることができた。


 最後に「時間を巻き戻す使い方」だ。


 これはもう本当に、絶対無敵の能力であろう。


 二番目の時間逆行の使い方と似ているが、こちらは世界の時間線そのものを巻き戻す。


 つまり、世界を再編成するという使い方だ。


 俺はまだこの使い方を試してこそいないが、「時間を操る能力」である以上、きっとできるはずだ。


 電車の路線のようにいくつもの”もしもの未来“を創り出せる能力は、世界をも変えられるものであると信じている。


「今日も由美のごはんは美味しいな」


「ふ、ふんっ。褒めても何も出ないって」


(おにいさまに褒められてしまいました! おにいさまに褒められてしまいましたっ!)


 由美には今日も晩ご飯を作ってきてくれたりと、あらゆる面でお世話になっている。


 俺も何か、恩返しができればいいのだけれど。


 すると晩ご飯を食べ終わった時、由美がちょうどいいタイミングでお願い事をしてきた。


「あのさ……兄貴」


(どきどき……どきどき……)


「ん?」


 由美は食べ終わった二人分の食器を片づけながら、もじもじと身体を揺り動かしながら言葉を発った。


「私の病気……知ってるでしょ?」


(おにいさま……)


「ああ」


 結晶性白血球硬化症。


 それが一年前から由美が抱える病気の名前だ。


 由美はある日を境にその病気になり、夜寝る前、その症状を抑えるために自分の能力を全身に掛けていると言う。


 世界に数人しか病状を訴える人間がいないという稀有な病気は、今も刻一刻と妹の身体を蝕んでいる。


「兄貴が私の能力を使えるっていうならさ……、兄貴にも私の病気を治すの、手伝って欲しいんだけど」


(おにいさまにユミルの身体、捧げます……)


「由美……?」


 驚くことに、由美は突然その場にて立ち上がると、自分の衣服を脱ぎ始めた。


 あっという間に桃色の下着が露わとなり、俺はどうしたって目を逸らさずにはいられなかった。


「由美、いきなり何を……!」


「こんなこと頼めるのあんたしかいないの! だからお願い!」


(ユミルはもう恥ずかしさで爆発しちゃいそうですぅ


この美しい

ーっ!)


 あろうことか、由美は目線を逸らした俺の視界に入るよう、その肢体を動かしてきた。


 そうなると、もう抵抗むなしく彼女の細く透き通る肌色が目に入ってしまうわけで……。


「由美……その痣……」


「ええ、これでわかったでしょ。あんたにこの痣を治して欲しいの」


(はううぅ……っ)


 俺の視界に映った妹の身体には龍がいた。


 青白くほのかに光り輝く龍は由美の全身を這うかのように巻き付いており、凹凸は無い。


 タトゥーと呼ぶには神秘的過ぎ、ボディーペイントと言うには美し過ぎるその紋様。


 俺はしばしのあいだ由美の身体に見惚れていると、これまた唐突に妹が言葉を発つ。


「私の身体に、さわって欲しいの」


 普段強がって憎まれ口ばかり叩く妹の涙ぐむ姿が、そこにはあった。

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