第十一章 生徒会へのスカウト
『第十一章 生徒会へのスカウト』
「あなたをぜひ、生徒会にご招待したいと思いますわ!」
テロリスト事件が終息してすぐ、俺は再び妹と共に生徒会室へやってきていた。
用件は、どうやら俺を学園屈指の最強メンバー、「生徒会」に招くためらしい。
「はあ」
けれども俺は、生徒会長・如月きさら先輩に向けて、やる気のない生返事しか返すことができなかった。
「お言葉を返すようですが、生徒会にはSランクの人間しか入れなかったはず」
そう言うときさら先輩は、
「今さら何を言っているのですか? あなたは脳味噌までも家畜と同等レベルなのですか? 腐っているのですか?」
と、ここぞとばかりに罵倒してきた。
あれ、俺ってたしか生徒会長の生命も護ったはずだよな……?
俺はその本心を聴くため、「時を止める能力」とは別に自身に具わった、もう一つの能力を使うことにした。
「第一、Sランクの称号なんてものはこの際どうでもいいのです! Sランクのわたくしたちでも歯が立たなかった相手に勝利したという事実こそが大事なのです! そんなことすら理解できないのですか? この豚は」
(はわぁああああんっ。わたくしいま、全校生徒を救った英雄様とお話しておりますのね! なんて光栄! なんて名誉なことなのでしょう! まさかこの学園にここまでの能力者がいたなんて、そのことに気づけずにいたわたくし、一生の不覚ですわ!)
大絶賛だった。
毒舌生徒会長、本心では俺のことを大絶賛してくれていた。
「まっ、豚にも豚なりの特技があるということです。あなたにはFランク教室という家畜小屋から、最上級のVIPルームへと移る権限が与えられたということです。感謝するがいいわ」
(うへへへへぇー。わたくしってば冴えてますわ! このままこの英雄様をわたくしたちの生徒会へとお招きして、日々を共に過ごすとなれば、毎日男の子とあんなことやこんなことをお話しできますわ! やれやれ、天才的な発想に至った自分の才能がおそろしいですわ……)
きさら先輩の内心を知っているからこそ言うが、この人二重人格説あるぞ。
人間とは、こうも口に出す言葉と本心とを乖離させて生活できるものなのだろうか。
実に不思議極まりない。
「ですが、それでは不公平です。俺だけがFランク教室から抜け出していきなり生徒会に入るだなんて、他の生徒は許すでしょうか?」
気がかりなのは、そのことだ。
この学校には「ランク」という、厳格なルールが存在していた。
SランクからFランク。
その七段階の評価システムは、この学校において絶対なる基準として確立されていたのではなかったか。
それをたった一人の特例としてルールを捻じ曲げてしまえば、他の生徒たちに示しがつかない。
最悪、下位ランクから上位ランクに対する暴動のきっかけになるやも知れない。
しかしそんな心配を、我が校の生徒会長、実質一番位の高い女子高生はあっさりと掻き消してみせた。
「それには心配及びません。さっきの胴上げを見たでしょう。今やこの学校にいる全ての人間が、あなたのことを認めているのです。いやはや、そんなこともわからないとは、あなたの脳は鶏以下ですわね」
(ふへへへへへっ。今日二回! 今日二回目! 一日に二回も男子生徒とお話できるなんて、今日は最高にツいていますわよ! 今日は帰って打ち上げパーティーをおこないませんと! そうですわ! それが良いですわ!)
本当に生徒会長の言うとおり、俺がみんなに認めてもらえているのだろうか。
今まで人から否定されてきた人生を送ってきた人間にとって、そんな言葉は信じられない。
信じる気にもなれない。
ちょっとテロリストを倒して上手くいったからって、そうそう赤の他人が俺のことを認めるだろうか。
いや……正直さっきの胴上げには驚いたが。
「そうよ! 兄貴はもはやこの学校を救った英雄! 誰もあんたが生徒会に入ることに異論は唱えないでしょうし、唱えても黙らせるまであるわ!」
(ユミルもそう思います! さすがはわたしのおにいさま! きっとやってくれるとユミル、最初から信じておりました! おにいさまが生徒会に入ってくれれば、これまでよりももっと長く一緒にいられますねっ!)
どうやら由美とユミルも、俺の生徒会入りに賛成のようだった。
しかし、本当にどうしたものか。
俺自身は生徒会に入ることに対して抵抗は無いが、同じFランクの連中はどう思うだろうか。
昨日までの俺と同じ、あいつらはコンプレックスの塊。
自分に自信が持てないどころか、同じ学校に所属する能力者たちに嫉妬することが日常茶飯事の人間だ。
そんななか、能力測定で見事にFランク認定を受けた人間がいきなりSランク集団の仲間入りだなんて、きっとあいつらからしてみればよく思わないに違いない。
目の上のたんこぶ。
十中八九、恨み言を言われるに決まっている。
そこまで考えると、俺は生徒会長・如月きさら先輩に向けて、答えを返すことにした。
「答えは明日まで保留ということでお願いできませんか? 一日考える時間をください」
それがいま俺にできる、精一杯の返事だった。
「いいでしょう。ただその代わり、明日には必ず答えをいただきます。逃げようなんて思っても、こちらには大勢の能力者たちが味方になってくれること、お忘れ無きよう」
(あした……!? 明日まで待たなければならないというの……!? ああ……せっかく唯一の男の子が生徒会に入ってくれると思っていましたのに、あと二十四時間も待たなくちゃならないなんて、なんてもどかしい! いっそのこと由美さんに時間を進めてもらうのは……? いえいえ、そんなことをすれば英雄様の時間を奪ってしまうことになりかねませんわ! それにわたくし、なんて口の利き方なんでしょう。たとえ大勢の異能力者で挑んでも勝てるわけないのに、まるで英雄様を脅すような言い方を……。あああ……、どうか不躾なわたくしを嫌いにならないで、英雄様…………)
心の声長いなあ……、と思っていた俺だったものの、どうやら自分の口が悪い自覚はあったようで、少し安心した。
とはいえ、本心とは裏腹に俺に対する毒舌が変わることはないんだろうけれど。
「それでは、本日は失礼します。色々あって、疲れてしまいましたので」
「ええ。ではくれぐれも答えをはぐらかさないよう。わたくし自身が、明日あなたに答えを聞きに直接伺いますわ」
(たとえ火の中水の中、お風呂の中にだって追いかけて行って答えを聞きに行きますわよ! ああっ、明日が待ち遠しいですわね……っ!)
「じゃあ由美も、またあとでな」
「うん。またあとでね、兄貴」
(おにいさまの妹に生まれて、ユミルは本当によかったですぅー!)
こうして俺は学園のトップ、生徒会にスカウトされたわけだが、果たしてどうしたもんかねえ……。
今回のお話から生徒会編がはじまります!
途中データが消えたりと色々ありましたが、毎日こつこつと書いておりますので、応援よろしくお願いします!(笑)




