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ここは日出ずる国  作者: 銀河乞食分隊
南海鳴動
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南シナ海 饗宴

誰に捧げるのか

 第一機動艦隊へ攻撃隊は帰ってきた。問題は空母一隻が着艦不能であること。母艦からは損傷機と燃料残が少ない機体を優先して降ろすと指示がきた。

 損傷の酷い機体を投棄して場所を作るらしい。二十機ほどが投棄されたようだ。それでもギリギリで収容した。

 報告のため艦橋に上がった雲龍雷撃隊隊長亀田大尉は挨拶もそこそこに報告と、第二次攻撃隊は出さない事を知らされる。

 

「何故第二次攻撃隊を出さないかお聞きしてもよろしいでしょうか」


「飛龍の状況を見て分かるとおり、敵の攻撃があり第二次攻撃隊を出すには時間がなくなってしまった。今は海南空の陸攻隊が攻撃を掛けている」


「海南島も攻撃を受けたと聞き及びましたが」


「空中退避する時間が有ったようで、陸攻のほとんどは無事だったという連絡はある」


「ではその陸攻が?」


「そうだ」


 雲龍飛行長細川中佐は悔しそうに言った。




「雷撃隊全機。低くだ、低く飛べ。俺の垂直尾翼より高く飛んだ奴は靖国行きだと思え。生きて帰っても三亜庵には踏み入れさせないぞ」


「「えー」」「「「酷い」」」「「勘弁」」


 など多数のわめき声が帰ってくる。いいじゃないか。生きているぞお前ら。

 海南空陸攻隊隊長野中五郎大尉は思う。

 陸攻の装備はバラバラだった。自分の機体にはちゃんと魚雷をぶら下げている。四十三機の陸攻隊の内、魚雷装備が出来たのは十六機だった。後は八十番や五十番、二十五番二発の奴もいる。全機一式陸攻なのが編隊を組むには良かった。

 水平爆撃で動きを制限して、射点を確保しようと思ったが演習通りには行かない。


「雷撃隊、目の前の奴にぶつけろ。射点を確保するのはちと危険だ」


「「「了解!」」」


 と言いつつ、自分は戦艦を狙おうとしている。空母には遠かった。遠目には墜落していく陸攻が見える。


「三機付いてきます」


 後部機銃手、太田一飛曹からの報告だ。バカな奴が三機か。俺に付き合う必要はないのに。


「一機被弾、火災発生」


「落ちました」


 まあ俺もそっちへ行くから活躍を見ていろ。

 戦艦が見えた。乾舷が低い。浸水しているようだ。プリンス・オブ・ウェールズか。相手にとって不足はない。

 ガン、衝撃が来る。

 致命的なところには喰らわなかったようだ。

 対空砲火は弱い。空母の連中が仕事してくれてみたいだな。


「ヨーイ、テ!」


 軽くなって浮き上がる機体を抑える。今浮き上がったら対空砲火の的だ。機体を滑らせ艦首の前を抜ける。


「命中!命中!二本命中」


 太田が言ってくる。叫んでいる。判らんでも無いが五月蠅い。


「一機火災発生。落後します」


 助かってくれよ。

 艦隊から離れて集合を掛ける。敵の戦闘機もいない。何機残った?


「爆撃隊。平井大尉に変わり沢木中尉指揮を執っています」


「そうか。平井は征ったか。何機やられた?」


「直援機に四機、対空砲火で六機です」


 十一機か。雷撃隊は六機落とされた。先程避退中に火災発生した鈴木飛曹長機もダメだった。

 零戦が二十機付いていてこれだ。こんなデカブツで艦隊攻撃は無謀なのだろうか。



第一機動艦隊と海南空攻撃隊の上げた戦果は新司偵によって確認された。

撃沈または撃沈確実。

 アークロイヤルは洋上で停止。

 ダンケルク級戦艦一隻確認されず。沈没したものと思われる。

 デュケーヌ級重巡一隻は洋上で停止。

 駆逐艦三隻発見されず。沈没したものと思われる。

 

大破状態

 プリンス・オブ・ウェールズは低速で移動中。

 イラストリアスも低速で移動中。

 フランス海軍の物と思われる大型駆逐艦一隻が低速で移動中。


中破または小破状態

 カウンティ級重巡一隻損傷とみられる


 かなりの戦果であった。何より世界で初めて戦闘中の戦艦を航空攻撃で撃沈した。戦闘中の戦艦を航空攻撃で沈めるのは不可能と言った人間の多いことか。


 敵残存艦隊はシンガポールへ移動中であり『第一機動艦隊はこれを捕捉撃滅すべし』と電文があった。


 第一機動艦隊はこれを受け、飛龍・雲龍・青葉の損傷艦三隻に駆逐艦二隻を護衛として本土へと帰還させた。

 金剛は右舷対空能力が無くなっただけで主砲戦には影響なかったので、そのまま帯同する。

 

 いざ決戦と張り切る面々に立ちはだかったのが、英仏の潜水艦だった。味方艦隊を追ってくるのであり、予想進路を絞ることが出来た。

 全力出撃でわずか八隻だが、対潜能力の低かった開戦当初の日本海軍には荷が重かった。

 仏印沿岸を進む英仏艦隊を追うには西沙諸島東側を進み仏印航空戦力の範囲外を進むだろうという予測が立てられた。

 プリンス・オブ・ウェールズとイラストリアスの速度からすればその進路でもサイゴン東方海域で充分追いつく。

 英仏潜水艦部隊はカムラン東方120キロから150キロ地点で待ち構えた。

 南沙諸島沖海戦である。


 

 英仏艦隊の所在は新司偵によって報告されていた。クアンガイやカムランから戦闘機が飛んでくるが少数で速度も新司偵の方が速かったので躱すことが出来た。

 現在の戦力でサイゴンから南に行きたくない第一機動艦隊はカムラン沖で決着を付けるべく増速。夜戦に持ち込もうとしていた。夜戦の後、フィリピン沖を通過して帰還する予定だ。

 同時に残った三隻の空母で迫り来る日没までに一回だけ攻撃をする。零戦二十八機、九十九艦爆二十二機、九十七艦攻二十八機。計七十八機の攻撃隊だった。後二十機は出せるのであるが、護衛の戦闘機が少ない事を問題にしてこの機数になった。

 攻撃隊には速度の出ていないプリンス・オブ・ウェールズとイラストリアスを無視して襲いかかった。


 英仏艦隊にはもう攻撃隊を撃退できる能力は無かった。ヴィクトリアスから十機程度の戦闘機が上がった。仏印各地からも戦闘機が来ていたが、元々配備機数が少なく航続力不足で短時間の上空援護しか出来なかった。

 この時も迎撃できたのは三十六機だった。それでも護衛の零戦よりも機数が多く、艦爆・艦攻の被害が増えた。零戦が奮闘し迎撃機を二十機あまり撃墜したものの、零戦十二機、九十九艦爆八機、九十七艦攻十一機の被撃墜を出してしまった。

 損傷して攻撃困難となった機体は爆弾・魚雷を投棄して帰路に就いた。残りの攻撃隊は零戦十四機、九十九艦爆十機、九十七艦攻十四機で突撃をした。

 攻撃隊は突入機数が少なく対空砲火を集中されてしまい、投弾できた機体は艦爆六機、艦攻八機だった。

 戦果はレパルスに魚雷一本命中。軽巡に魚雷一本命中。駆逐艦に魚雷一本命中撃沈。ダンケルクに爆弾一発命中するも砲塔天蓋で弾かれた。ダンケルクに至近弾二発。

 それが全てだった。


 帰ってきた攻撃隊の損害の多さに呆然とする首脳部だった。ここで一航戦、二航戦は分離、この海域で待機する。

 

 夜戦を挑むべく増速して敵艦隊に向かう伊勢を旗艦とする砲戦部隊は意外な伏兵に足下を掬われる。

 カムラン-南沙諸島間で待ち構えていた英仏潜水艦だった。日没前に八隻の内四隻が接触・雷撃に成功。

 二十ノットまで単縦陣を取って増速していた艦隊は、潜水艦に気付くこと無く魚雷の接近も夜間と言うこともあり至近に雷跡を発見して始めて分かった。

 この襲撃で、日向二本、那智二本、羽黒一本、那珂一本、子日一本、夕霧二本、合計十本もの魚雷を浴び、子日と夕霧が沈没。特に夕霧は二本も被雷したことであっという間に転覆。生存者は少なかった。

 日向と那智は中破、羽黒も推進器根元に被雷、魚雷一本とは思えない損害を受けてしまう。日向と那智は羽黒・那珂を伴い後退。護衛に一駆が付いた。

 反撃ははかばかしくなく、潜水艦一隻の撃沈確実と二隻撃破だった。後の記録で一隻撃破だけだった事が分かる。魚雷のように発射された臭いパンツやシャツに救命胴衣とわざと漏洩した重油で撃沈したと思ったらしい。


 艦載機・艦艇の余りの損害に連合艦隊司令部が狼狽えている内にサイゴン沖カムランやや南で逃げる英仏艦隊の捕捉に成功。お互い水上機を射出する。日本側は零式観測機に敵観測機の排除を命じた。夜間であり困難な命令だった。

 英仏艦隊はヴィクトリアスを護衛駆逐艦二隻と共に分離、退避させた。イラストリアスは最悪陸地にのし上げる気だろうか。陸に進路を取った。

 残りの艦艇は迎撃を選んだ。


 サイゴン沖夜戦が始まる。


三亜庵 

三亜基地の片隅に勝手に作った掘っ立て小屋。野中流野戦茶道がチョイチョイ開かれている。まあいいかと黙認されている。


次回は艦隊戦。十六日頃投稿予定。




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