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竜殺し、国盗りをしろと言われる。  作者: 大田シンヤ
第五章
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悲劇への予兆

普通に昨日投稿することを忘れていた。トホホ(涙)

 

 場所は狭い一本道を敵が駆けてくる。荒々しく水飛沫を上げて駆けてくる様は正に怪物。だが、ミーシャは怯えることなく後退しながらも敵に向けてルーン魔術を使用する。

 先程の顔面への一撃で炎に耐性があることは分かっている。わざわざ効果の薄い魔術を使うほどミーシャも馬鹿ではない。

 ルーン石(ルーンストーン)を取り出し投石する。怪物が腕を振るうだけで石は粉々に砕かれてしまうが、ミーシャは気にしない。あの程度の牽制で殺せるなどとは思っていない。


(イング)


 石の壁にルーンを描く。描いたのは大地の力を宿したルーンだ。大地の力。即ち土、そして岩。あらゆる植物を支え、恵みを与える大地。いつもはあらゆる命に恩賜を与える大地の力を攻撃に転じさせるためのルーン。

 石の壁が怪物を押し潰すために動き出す。


「■■■否■■■」


 だが、それでも怪物の鱗には傷を付けられない。ガリガリッと石と鎧が擦れ合い、火花を散らす。


「それで充分なんだよ」


 精々、脚を一瞬止めるだけ。それでもミーシャにとってはそれで充分。

 壁にルーンを描くと同時に、足場を作ったミーシャはその上に立ち、(ティール)のルーンを描いた。


 青白い閃光が怪物の体を焼く。

 石の壁で足止めし、水場で威力を増した雷を喰らわせる容赦なしの攻撃。そして、更に――。


「アルスヴィス・イコルス!!」


 狼が怪物に襲い掛かる。

 狭い空間でのありったけの魔力を込めた最大攻撃。風の牙が黒い鎧に喰らいつく。壁を纏めて破壊していき、壁を十突き破った所でようやく止まる。


「ハ――どうした!? 口ほどでもないな!!」


 地面を転がり、放り出された怪物にミーシャが距離を詰める。暗闇を照らすために光明(オセル)のルーンを使用しているおかげでハッキリと怪物が歯を食いしばる様子が見て取れる。


「■■■餓■■■鬼■■■」


 そして、それは怪物も同じ。

 迫る小娘に向かってブレスを放つと魔術によって相殺される。ブレスと炎によって発した煙幕から防壁(アルジズ)で身を守ったミーシャが飛び出す。


 怪物が右手を大振りに振るう。狙いはミーシャを薙ぎ払うためではない。この動作が相手の目に入っている。それだけで良い。

 その動作を視界に捉えたミーシャの意識が、落ちる。そして、当然意識が落ちれば魔術も解ける。ミーシャの体を覆っていた光の膜は消え、無防備に立ち尽くす。


 怪物――まだ人間だったグレアム・ハーメルンが得意としていた無詠唱の幻術。既に意識をなくし、執念のみで動いている状態でも、体に染みついた動きは錆びつかない。

 腕を振るう。正確には親指以外の指の隙間をなくした掌を見せることで相手を幻術に嵌めることができる魔術だ。

 合わせる指のパターンを変えることで幻術の効果を変えることができ、今ミーシャに見せているのは自身の望むものを見せる幻術だ。


「――こんのっ」

「■■■遅■■■」


 一度は幻術を破ったミーシャ。しかし、破るにしても僅かなタイムラグは発生する。時間にしてみれば、ミーシャが幻術にかかっていたのは三秒程度。戦闘中に三秒も敵の前で意識を失うと言うことがどれほど致命的なのかは言うまでもない。

 ミーシャが戻ってきた時には目の前には爪を構えた怪物の姿があった。


「■■■眠■■■」


 危険、とはいかなくとも魔術を行使されるのが厄介だと認識した怪物が、今度こそ手足を切り落とすために、腕を振るう。


 鋭く、鋼鉄を簡単に引き裂ける爪がミーシャに迫る。足止めしてからの追撃。戦術をそっくりそのまま返されたミーシャは悔しそうに表情を歪め。痛みに耐えるために歯を食いしばる。





 ――その後方で、紅い光が奔った。


「――――」


 ミーシャから見れば、相手の腕が勝手に吹き飛んだようにしか見えなかっただろう。

 くるくると宙を舞う怪物の腕。そして、腕があった場所を見る怪物。傷口は焼けて塞がれており、血が流れることはなかった。

 遅れて自分の腕が斬り飛ばされたと理解した怪物が、残った片方の腕でミーシャの首を斬り落とそうとするが、その顔面に靴底が減り込む方が早かった。


 体長二メートルにもなる蜥蜴顔の怪物が再び吹き飛んでいく。それをやったのはミーシャではない。彼女には体格が倍ある敵を蹴りで吹き飛ばすなんてことはできない。


「殿下!!」

「お前達……」


 後ろからの声にミーシャが振り返る。と同時に、すぐ横をすさまじいスピードで駆け抜ける人影を視界に隅に捉えた。


「殿下、申し訳ございません。御身の傍を離れてしまい――」

「今は後回しだ。それよりさっきのは」

「はい――レイ殿にございます。幻術に捕らわれておられて——」


 謝罪の言葉を口にし、跪こうとするレティーを制止し、先程の人影について問いかける。すると予想した人物の名がレティーの口から出てきた。


「知ってるよ。私達も同時に幻術に掛ったからな。それよりも行くぞ。手早く済ませるために私達も加勢する」

「御意に…………その、殿下? 一緒に居られたガンドライド殿は今何処に?」

「知らん、行くぞ」


 特に気にすることじゃないと言い残してミーシャは走り出す。

 ミーシャの態度に一瞬呆気に取られるレティーだったが信頼の表れだろうと思い直し、遅れて駆けだす。


 両者がシグルドに追いつく頃には、片腕になった怪物とシグルドが鍔迫り合いをしている状態だった。

 シグルドの背中に向けてミーシャが叫ぶ。


「腕に注意しろ!! そいつは無詠唱で魔術を使ってくる。詳しくは分からないが主に腕の動きを見せて幻術をかけて来るぞ!!」

「了解、腕の動きね」


 魔剣と黒い鱗が生えた腕で鍔迫り合う二人。片腕しかない以上有利なのはシグルドだ。片腕を抑えておけば警戒する幻術を発動することはできないし、詠唱をして発動しようとするのならばその間に潰せる。


「■■■邪■■■魔■■■」

「何が狙いかは知らないが、どく訳にはいかんぞ」


 魔剣で腕を引いて斬り、怯んだ所で姿勢を低くし懐に入り込んですれ違いざまにもう一太刀。

 距離が開いた瞬間にブレスが放たれるが、それら全てを躱し、切り裂き距離を詰める。


「お前がアルゥツかどうかは知らない。俺には判別を付ける手段がない。だから、ここでお前を殺す」

「■■■■■■」


 シグルドが怪物に向けて語り掛ける。名前を呼んでも返事はなく。明らかにこちらに敵意を示す怪物。それは、元々的だったからか、それとも黒竜の血がそうさせるのか。判断することはシグルドにはできない。

 だからせめて言葉に出す。今からお前を殺す。死ぬことが嫌ならばすぐさま逃げろ―—と。


「■■■死■■■」


 侮られていると受け取ったのか。怪物は咆哮を上げた。


「うわぁ()()()()()。あんまりアイツを怒らせるなよ。見ていて気持ち悪い」

「ミーシャ……」


 一撃で頭部を破壊しようと企むシグルドに後ろからミーシャが声を掛ける。そして、その少し前でレティーが矢を番え、怪物に狙いを定めていた。


「アイツの魂、見たことがあるな。スラムの上空に漂っていた奴だ。僅かだが色が見える」

「会ったことが?」

「あぁ、私がではないけどな。だけど、混じってる。おい、アルゥツと言う奴はまだこの下水道にいたんだよな?」

「あぁ、多分な」

「……はぁ。馬鹿な手段を取ったな。アイツ、自分の魂を生きた怪物相手に付加するなんて」

「ミーシャ、やっぱりアイツは」

「アルゥツとやらの魂を見ていないから分かないが、お前が言葉を喋れない怪物全員を殺したのなら、お前の予想通りじゃないのか?」


 魂の視認——既にシグルドも知っていたことだが、その様子を目にするのは初めてだ。

 ミーシャは汚物でも見るように顔を顰め、レティーの体の陰に隠れる。


「あぁ、くそ。見ているだけで気持ち悪くなる。助けようなんて思うなよ? あれだけ混ざってしまったら元に戻す何てできないぞ」

「…………」


 胸中を言い当てられ押し黙るシグルド。何とかならなかと考える自分がいるが、その考えを捨て去る。別々の存在が一つになろうとすれば、拒絶反応で死ぬか廃人になるのは間違いない。もしかしたら、例外(ガンドライド)が彼らを助けるカギを握っているかもしれないが、彼女はここにはいない。

 今シグルドができるのは、一刻も早く人間性が消えかけている怪物を殺すことだけだ。


 僅かに怪物が腕を動かそうとするとレティーが矢を放ち、動きを封じる。怒りを瞳に宿した怪物は鋭い視線で三人を睨み付けた。


「■■■三■■■」

「——ッ。魔力が高まっている!! デカいのが来るぞ!!」


 ミーシャの声にシグルドが前に出て防御の姿勢を取る。後ろではミーシャが障壁を障壁を張ろうと動き出す。だが、彼らを嘲笑うように怪物は溜め込んでいた魔力を上方に放った。



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