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竜殺し、国盗りをしろと言われる。  作者: 大田シンヤ
第四章
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ガンドライドの戦い

 

 騎乗槍(ランス)を握りしめ、相手を押しやり体制を崩そうとする

 ガンドライドは力で、ベルムは技量を以って相手を崩そうとする。


「こんっのっ!!」


 ガンドライドの体制が大きく崩される。

 ベルムの巧みな体重移動によって左右に揺さぶられ、体幹のブレが大きくなっていく。何とか寸前の所で踏みとどまっているものの、その反動を活かしてベルムは揺さぶりをかけてくる。

 意識を切り替え、相手をただ道端の石ころから敵と認識し、驕りをなくしたとしてもそれで技量の差が埋まった訳ではない。それに徒手空拳と騎乗槍では間合いが違う。騎乗槍を振るわせぬようにベルムがピッタリと距離を保ってくるせいでガンドライドは満足に戦闘ができていない。

 このままいけば敗北するだろう。だが、ベルムにないものをガンドライドは持っている。


「■■■■!!」

「串刺しになりなぁ!!」


 水流操作の魔術。

 適量の水量を選び取り、操作下に置き、推進方向を定め、加速させる。

 ルーン魔術とは違い、一工程でも複数の命令術式が必要な魔術。最初から備わっていたその魔術を彼女は()()()()で行使する。

 四方の水面から囲むように水の槍が飛び出し、ベルムを襲う。その数は八つ。


 鍔ぜり合う状態を解き、ベルムが防御態勢に入る。

 グラム・クーゲルを防いだ時のように黒い鱗が再び濃く染まり、水の槍を受け止め、流す。


 シグルドは知らないだろうが、ベルムが上から降り注ぐ水の槍や増殖する棘を無視してシグルドに接近した時も鱗を濃くしてあの包囲網を突破していた。

 全体を見渡せる位置にいたガンドライドは勿論それを目にしている。そして、考えたのだ。どうすればあの鎧を突破できるか。


「(目に物を見せてやるって思ったけど、その目がなくなれば見えなくなるわよねぇ)」


 二度も見せてくれたおかげで気付く。体をいくら強化しようと人間の頃と変わらぬものがあるということ。

 全ての生物においても共通の弱点とも言える目――そこへ向けてガンドライドが魔術を放つ。


「――ブッ!!」

「■■ギ■■」


 だが、ベルムは腕を滑り込ませて防御する。

 眼球を狙う水の棘がベルムの腕によって防がれ、同時にお返しとばかりに打ち出された脚蹴りが腹に突き刺さる。


 全身鎧(フルプレート)で守っているはずなのに、全く威力が殺されていないように感じる打撃力。

 衝撃が背中まで突き抜け、一瞬脚が地面から離れる。再び、あの連撃が来る。


「(――させるかっての!!)」


 ベルムとの間に水の障壁を作る。

 けれど、それではベルムは止められない。ベルムよりも劣る怪物達が水の檻の中を悠々と泳いで距離を詰められたのだ。そんなもの、ベルムにとってはガンドライドが纏っている全身鎧より脆いものだ。


 しかし、ガンドライドも同じことを何度も行うほど馬鹿ではない。

 ――止められなくとも、押し流すことはできる。


 水の壁を難なく突破しようとするベルムに襲い掛かったのは真下から来た水の噴射。

 言わば目の前の水の障壁はただの目くらまし。狙いは、攻勢に転じるベルムに防御をすると思わせ、回避不能の一撃に繋げること。


「喰らえッ」


 水の噴射で上昇するベルムに水の槍を真上から降らせる。

 こちらの攻撃が相手の鎧を突破できないのならば、その鎧が完成するまでに叩き込むまで。

 上と下からの挟み撃ち、互いに距離を縮めていくため、体感速度と威力は上がる。

 逃げることはできない。真っ先にその可能性を潰すために足場のない場所へと打ち上げた。手足をどれだけ伸ばしたとしても壁や天井にギリギリ届かない範囲だ。

 虚を突かれた反撃にベルムも防御態勢を整えていない。


 だが、それは防御が間に合わないのではなくそもそもする気がなかったのだと思い知らされる。


 腕を大きく振るい始めると体もそれに釣られて大きく揺れる。何をしているのかなど考える暇はなかった。

 かつてベルムという人間になかった体の部位――尻尾。長く、二メートルもありそうなその尾が鞭のようにしなり、水の槍を横から打ち払った。そのまま体を回転させ、水の噴射から体の軸をズラし水面へと着地する。


 人間には存在しないはずの尾。怪物になってから突然生えたものを理性が残っていたとしても困難。しかし、ベルムはそれを可能としていた。

 彼の中にあるのは自己研鑽のみ。

 討伐をしに来た者達を蹴散らした後も、ただ一人のみで新しい体を使い鳴らすために研鑽を重ねてきた。たまに手合わせをしたい時には這いずり回っている奴を探しまわしては、挑んでもいた。

 そのおかげで彼は人間の頃と変わらぬように怪物の体を使いこなせるようになったのだ。


 静寂が再び戻ってくる。

 戦いを再開して未だに決定打は打たれていない。

 接近するベルムに近接戦は不利と認めたガンドライドが魔術による応戦に切り替えたおかげで五分近くまで渡り合えている。

 そう、五分近くだ。

 未だに動きの先読みができていないガンドライドが一歩とは言わずとも半歩ほど出遅れている。その半歩が遠く、命を狩り取る刃が首筋に徐々に近づいている感覚をガンドライドは感じ取っていた。


 舌打ちを打って不機嫌さを隠そうともせずに、苛立ちのまま暴れる。いつもならそうしていたかもしれない。いや、今も暴れそうになっている。今はただ相手を殺すことだけに集中して考えないように……見ないふりしているだけだ。

 少しでも見れば、また暴れるかもしれない。

 これがなくなるのは自分以外に強者がいなくなる時だろう。それぐらいの焦りがあるのが自分でも分かる。


 ――もし、もしあの人の目が他の奴に移っていったらどうなってしまうのだろう。そんなことを考えてしまう。

 だから、全員を超える。だってあの人は強い力を望んでいるのだから――。


 これまでと同じ方法ではもう駄目だと気付かされた。それには感謝はしよう。しかし、アイツも超えるべき者の一人であり、思い通りになるつもりはない。

 当然戦士になるつもりはないし、弱い奴らを守るのだってごめんだ。





 だから――相手が苦しんで死のうが、泣き叫ぼうが、後悔しようがどうでも良いのだ。


「――――!!」

「ようやく効き始めたみたいね」


 苦しそうにベルムが喉を抑えて膝をつく。

 表情が分かりにくいが間違いなく苦しんでいる。瞳を大きく広げ、何かを取り除こうとしているのか、自分の体を自分の爪で引っ掻き回している。

 本来ならば自分で自分を傷つける行為だが、ベルムの爪には肉片どころか血の一滴もついてはいない。硬すぎる鱗が爪を少しも通していないのだ。最も爪が体を切り裂いてしまえば、致命傷になるのだが……。


「全く……馬鹿げた防御力ね。 殆どを通さないって何よ」


 苦しむベルムをよそにガンドライドが一人で愚痴る。

 戦闘技術では未だに及ばない。水の槍や棘も効果が薄い。例え目を狙おうとも警戒されているため、防御が早く、不意を打とうとも反応される。

 ならば、毒を仕掛けるのみ。


 ガンドライドが仕掛けた毒は、この下水道に流れる水だ。

 水を吸収するのは何も口からだけではない。皮膚からも吸収される。ベルムの体に水を浴びせ続けたのはこのため。

 殆どが黒い鱗に弾かれてしまったが、それでも少しは体に浸み込ませることはできた。

 体に浸み込ませることができれば後は簡単。

 内側に鱗がある生物何て存在しない。皮膚をはがし、血管を切り刻み、臓物を串刺しにする。体に侵入した小さな針のような水が内部からベルムの体を壊していく。


 目は赤く充血し、口からは血を吐き出す。

 それでも破壊は終わらない。徹底的に、ベルムの爪の先に至るまで、破壊し尽くす。

 その所業は戦士にするものでもなく、戦士がやることでもない。しかし、そんなことはガンドライドは気にしない。

 何故なら彼女は戦士ではなく。そして、既に人間ですらないのだから――。


「私が正々堂々アンタと決着付けると思ったかよ。 残念でしたぁ。 私はアンタ達みたいなのが嫌いなんですぅ」


 倒れ込んでベルムに舌を出し、挑発する。

 顔を上げるベルムの瞳には怒りがある。それを理解すると益々ガンドライドは嬉しそうな顔をした。


「私を思い通りに動かせるのはこの世でたった一人だけだ。 アンタ等の思い通りになってたまるかよバ~カ!!」


 本当に、清々しい程の笑みをガンドライドが見せつける。

 これまでの借りを返すように、戦士として死なせないことがこれまでの仕返しだというように……。

 それが、ベルムが見た最後の光景だった。


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