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竜殺し、国盗りをしろと言われる。  作者: 大田シンヤ
第四章
65/124

ディギルの下水道8

 

「■■きょ■■う■■しゃ■■」

「――――っ!!」


 壁を突き破ってきた怪物がガンドライドに殴り掛かり、そのまま向かいの壁をぶち抜いていく。咄嗟に腕で防御したものの丸太のような腕から繰り出された一撃はガンドライドの腕を一時的に麻痺させる。

 じんわりと腕が痛むが、それ以上に格下と思っている相手に吹き飛ばされるという屈辱的な出来事に対して歯を食いしばる。

 言葉を発したことに驚いたものの一瞬のこと。巨大な騎乗槍(ランス)を出現させ、追撃を加えようとしている怪物に反撃(カウンター)を仕掛ける。


「――――」


 しかし、その反撃は意味をなさない。

 これまでの怪物達の戦い方とは異なる戦闘方法――跳びかかったり、爪で反撃したり、ブレスを放つのではなく、体を前傾にしてやや低めに、両腕を前へと構えた戦闘(ファインティング)状態(ポーズ)を執り、騎乗槍の下を掻い潜った。


「テメ――――」


 怪物の右拳が顔面を捉え、ガンドライドの体が大きく仰け反る。苦し紛れに騎乗槍を数度振るうが華麗なステップで触れることなく懐に入り込み、拳を叩き込んでくる。

 騎乗槍で防御をしようにもスルリと蛇のように隙間を見つけては入り込み、巧みなフェイントでガンドライドを翻弄する。


「ざっけんじゃねえぞおぉおぉおおおおおおおおおぉおお!!」


 いいように殴られ、翻弄されたガンドライドが力任せに騎乗槍を振り回す。騎乗槍に当たった壁や床、天井が破壊されていくが、怪物は恐れるどころか一歩前へと踏み出す。

 考えを放棄し、頭に血が上った状態の獲物ほど殺りやすいものはない。


 振り回される騎乗槍、落ちてくる瓦礫、行く手を阻もうとする魔術を難なく掻い潜り、ガンドライドの腹部に拳を叩き込む。

 これまで味わってきた衝撃よりも強烈な一撃。体がくの字に折れ曲がり、もう一枚壁を突き破って沈殿池にまで到達する。

 それでも怪物の追撃は終わらない。

 ガンドライドの足が地に着くまでに距離を詰め、下を向いている顔目掛けてアッパーを繰り出し――


「そこまでにして貰おうか」


 後ろに迫っていたシグルドの拳によって壁に叩き付けられた。





 まともに打撃を食らい、フラフラになっているガンドライドに肩を貸しながら壁に突き刺さる怪物を警戒する。

 これまでの怪物達とは違い、洗練された動き。人間の頃の経験が受け継がれているのか、ガンドライドの攻撃を避けた時の足運び、強力な一撃を与えるまでの繋ぎは見事であり、闘技場でよく目にする拳闘士の動きそのものだった。

 これまでの怪物は、知性はあっても理性はなかった。しかし、どの動きが最適かを判断して戦う姿を見るとこの怪物には理性もあるようだ。

 おまけに頬骨を殴った感触からしてより装甲は厚く、頑丈になっている。


「ガンドライド、無事か?」

「うるさい、黙れ」


 かなりの打撃を食らったガンドライドを心配して声を掛けたにも関わらず、返ってきたのは素っ気ない返事。額には青筋が浮かんでおり、既に沸点を超えていることが分かった。


「アンタは下がってろ。こいつは私が片付ける」

「待て待て、冷静になれ」


 頭に血が上った状態でシグルドに壁に叩き付けられることになった怪物に向かっていこうとするガンドライドの肩を抑える。

 ハッキリ言ってガンドライドの戦い方は単純だ。遠くの敵には魔術で水の槍を飛ばし、水圧の檻で閉じ込める。近距離戦となれば、巨大な騎乗槍の突きを叩き込む。その騎乗槍も型に則ったものではなく自己流だ。

 良く言えば伸びしろがある。悪く言えば未熟だ。

 これまで相手との身体能力の差によって圧倒してきたが、ここに来て同じ人間を超えた身体能力をした相手にぶつかり、圧倒された。


 シグルドは別にガンドライドが負けるとは思っていない。しかし、場所が悪い。相手は被害が出ようがお構いなく全力を出せるだろうが、こちらは違う。

 これまでの悪臭に加えて、鼻の奥を刺激するようなこの臭い。一人で旅をしていた時に一度嗅いだことがある臭いとよく似ている。

 温泉地帯によく噴出し、被害も出していた。そう――可燃性のガスだ。


 知り合いの話から聞いたことがある。下水道でも溜まり場には下水からガスが発生することもあると。もし、こんな場所で火種でも出してしまったら最後、ガスに引火して大爆発だ。

 しかし、そんなことはガンドライドにとってどうでも良かった。

 彼女の頭の中にあったのは膝を屈しかけたこと唯一つ。それ以外のことは考えておらず、耳を貸す気もなかった。


「三秒以内に手をどけろ。誰の許可得て私に触ってやがる」


 肩に置かれた手を振り払い、シグルドに騎乗槍を突き付ける。


「……分かった。触ったのは悪かったよ。でも、この場はガスが充満してる。戦って火花でも出せば被害は俺達だけでなく上の民間人にも及ぶぞ」

「それがどうした? 私にとってはどうでも良いことだ」

「この戦いに無関係な人間だ」

「あぁ、だけどお姉様の敵の国に住む人間達だ」


 敵国の人間がどれだけ死んでも良い。そう考えるガンドライドにシグルドが眉を動かす。

 敵国の人間だということは分かっている。だが、それでも悪戯に被害を出すということは間違っている。

 喉元を騎乗槍に突き付けられても怯えることなく、むしろ眼を鋭くしてガンドライドを睨みつける。


「ガンドライド、それは唯の殺戮者の言い訳だ。戦士ならば己を律するべきだ」

「アハハッ!! 面白い。戦士の誇りってやつ? 残念だけど私はそんなもの持ち合わせてないわよ」

「ならば、今直ぐに誇りを持て。でなければ、お前は怪物のままだ」


 欲に溺れず、弱者を守り、主に忠誠を誓う。それが騎士や戦士としての在り方。それを守らなければ戦いなど唯の殺し合いに成り下がる。相手に敬意を、敵に温情を掛けなければ世界はもっと悲惨になる。


「…………下らねぇ」


 だが、ガンドライドはそれを下らないの一言で片付ける。


「意味がないんだよ。アンタらの騎士の誓いだの戦士の誇りだのって奴は」


 手に持っている騎乗槍がミシリッと音を立て、体感温度を冷やす圧を発しながらガンドライドが口を開く。


「誓い?規律? 何の意味がある。戦争でそんなこと守ってる奴なんて一部の奴らだけだろうが」


 戦争で略奪が起こる――よく耳にする話だ。それは誰もがシグルドが言ったことを守るような奴らではないということ。

 そんな奴らがいるのに一人だけ守ってどうするのか、一人だけ信念を通したとしても意味がないと口にするガンドライドにシグルドは――


「話を逸らすなよ。今は他の奴らの話なんてしてないんだ」


 正面から目を見返し、指摘する。


「他の奴らはやってる。だから何だ。それは自分自身が間違いを犯していい理由にはならないだろうが」

「…………」

「お前は強い。お前が暴れればこの街だって落とせるだろう。だが、お前がミーシャに従っていると分かれば、その行動はそのままミーシャの意思だと周りに考えられる。それぐらい分かっているだろう?」

「――――っ」


 ミーシャのため、その言葉に一瞬反応を示す。冷水を掛けられたように頭は冷静になるが、屈辱が消えたわけではなかった。


「うるさいって言ってんだろ!! やればいいんだろ!? やれば!!」

「うぉっ!? 危ねぇ!!――って待てガンドライド!!」


 もう話は終わりだと騎乗槍を振り回す。思わず当たりそうになった騎乗槍を交わしながら走り出すガンドライドに呼びかける。

 何か焦っているようにも見えるガンドライドはシグルドの呼びかけに答えず、ぐったりと壁に突き刺さる怪物へと騎乗槍を突き出した。


ガンドライドの苛々メーター90%

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