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竜殺し、国盗りをしろと言われる。  作者: 大田シンヤ
第四章
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ディギルの下水道6

 

「あぁ、もう!! 汚いなりで私に近づくんじゃない‼」


 騎乗槍の連続突きで怪物の体を穴だらけにしたガンドライド。飛び散る臓物は気にしないが、奴らが動くたびに飛び散る糞尿が嫌らしく器用に避けながら戦っている。


「……よくそんなに気にして戦えるな」

「むしろ何で気にならないんだよこの馬鹿が‼ クソだぞ⁉ そんなものを被りたいと思うのかお前は⁉」

「思ってはいないよ。 だが、戦いの間は汚れることが多いからな。 後で洗い流せばいいって大抵思っている」

「大雑把‼」


 悲鳴を上げながら迫りくる怪物達を突き、薙ぎ払い、斬り伏せる。

 黒竜のブレスには程遠いものの複数合わされば破壊力は増す。前後から一斉に放たれたブレスにシグルド達は逃げ場をなくした。しかし、逃げ場がないなら作れば良いだけ……岐宿も同じ考えだった二人は拳で横の壁を破壊し、隣の通路と繋げてしまう。

 標的を失ったブレスはぶつかり合い、威力を相殺――二人は傷一つ負うことはなかった。なかったのだが、通路が広がり、敵に囲まれる可能性が高くなってしまったのだった。


「アンタ、彼女作ったことないだろ!? だから、汚いなりでも普通でいられるんだ!!」

「確かに彼女はいないが、戦場で汚れること何て当たり前だぞ。 子供のお遊戯とは違うんだぞ」


 互いに背を合わせ、迫ってくる怪物を斬り伏せる。

 戦場は全員が命がけの戦いをしている場所だ。いくら訓練で型にはまった剣技を会得しても、強力な魔術で体を強化しても敗れることはある。

 鍔迫り合っている最中に後ろから斧で頭を割られる奴だって見たことあるし、死人に見せかけて奇襲を仕掛けてくる奴だっていた。

 そんな奴ら相手に綺麗な戦い方ができることなんて数える程しかない。それは魔物との戦いでもそうだ。


「うるさいわ!! 何を言ってもアンタが童貞な男なのには変わらん!!」

「待て、変な勘違いをするな。 卒業ぐらいはしている」

「所詮はそこら辺の娼婦だろうがっ!! 春を売った女だろうが!!」

「それがどうかしたか?」

「開き直りやがったこいつ!?」


 放浪の旅をしていたのだから、現地に女を作るわけがないだろう。しかし、何が開き直りなのかが分からない。あるがままの事実を伝えただけのなのに……。

 ガンドライドの言葉に首を傾げる。しかし、答えは出てこない。


「えぇい!! もういや!!」


 怪物達よりも自身が汚れていくのが我慢ならなくなり、ガンドライドが魔術を行使する。造り出すのは水の檻――無から水を生み出せないガンドライドの魔術では、周囲にある下水を使うことになるが、体に飛び散ることに比べればどうってことない。


 足下にある水も巻き上げ、怪物達を一網打尽にする。水の檻でもただ閉じ込めているだけではない。水圧で拘束もできれば、中に激流を起こすことだって可能だ。今回は、体力を奪うために、中に複雑な激流を起こしている。

 外に出ようと体を動かせば動かすほど消耗していく。閉じ込められた者は、意識がなくなるまで翻弄され続けられる――――はずだった。


「はぁっ!?」


 声を上げて目を見開く。

 もうこれ以上汚れずにこの場から抜け出せると思ったのに予想した出来事とは全く違う光景が目に入ってしまう。

 息が続かなくなるまで激流の中で弄んでやろうとしていた怪物達。どうやら彼らは、ガンドライドの予想よりも水中戦が得意のようだ。


「何でアイツら泳げるんだよっ」


 巨大な迷宮で出口に繋がる通路を分かっているかのように、悠々と水の檻の中を泳ぐ怪物達。魚のように尾を使い、四肢を胴体にくっつけ、流れに乗って次々と檻から飛び出してくる。


「そう言えば、蜥蜴でも海を泳ぐ蜥蜴はいるって話を聞いたことがあったな」

「言うのが遅い!!」


 思い出したように呟かれた言葉にガンドライドが噛み付く。早く言ってくれれば無駄な魔力を消費しなかったのに、と不満を口にしようとするが、その前に怪物達がガンドライドに迫る。その数は、何故かシグルドよりも多く――。


「鬱陶しいっ!! 私ばっかり狙いやがってっ」

「お前が下がりながら戦っているからだろ、前に出ろ前に」


 ガンドライドとシグルドの二人は既に一人で十匹以上怪物を斬り捨てている。実力は向こうが完全に上……そんなこと怪物も本能で分かっているだろう。しかし、その戦い方は対照的だ。逃げながら戦う、真っ正面から戦う。ガンドライドとシグルドのこれまでの戦い方は正にこれだ。

 ガンドライドが後ろに下がる理由は、汚れたくないから――鼻で笑い、見下されても仕方のない理由だが、今はそれは置いておこう。

 怪物達はそのことを知る由はない。ただ、単純に後ろに退いている……前に出て敵を圧倒する者よりも、倒せる可能性が見えるから襲いかかっているのだ。


「絶対に嫌だっ!! お前が前に出ろ!!」

「へいへい」


 前に出ても後方からも来るため意味がないと思うのだが、もう今更言っても間に合わない。既にガンドライドは後ろへと下がってきており、入れ替わる気だ。

 短く息を吐き出し、加速――ガンドライドと位置を入れ替わるように前に出て、瞬時に怪物達を斬り伏せた。


「しかし、キリがないな」

「ギャアア!? 後ろから回ってきやがったコイツら!!」


 後ろで悲鳴が聞こえるが実力的に討ち取られることはないので無視して、思考に陥る。後から後から出てくる怪物の群れ。ひっきりなしに出てくる怪物に終わりは無いのではないかと思ってしまう。


「一体一体相手にしているだけじゃ、いつまで時間が掛かるか」


 正確な数が分からない以上、時間を掛けることは不味い。はぐれた怪物が外に出ることだって考えられる。しかし、魔剣を全力で発動してしまえば、上の街に被害が出てしまうため、一網打尽にすることもできない。

 なら――――


「ガンドライド!! 全員こっちに寄越せ!!」


 殺せる程度の力で殺すだけのこと。

 魔剣を解放して、過剰殺戮(オーバーキル)をする必要などない。単純な魔力操作しか出来なかったシグルドだが、ミーシャのおかげもあって細かな魔力操作を可能にしてきていた。

 これまでは零か百、全力で魔力を流し込み、それを解放するしかできなかったシグルドだが今はもう違う。魔剣に流す魔力を操作して、威力の調整を可能とした。


「何するつもりか分かんないけど、しくじったら殺す!!」


 さっさとここから出たいガンドライドは口は悪いものの素直にシグルドの指示に従う。群がる怪物達を魔術で絡め取り、シグルドの方へと押し流す。


「しくじるかよ」


 魔剣を携え不敵な笑みを作る。

 流す魔力は本来の半分にも満たない。しかし、それで十分。目の前の怪物達を殺すにはこれで良い。

 魔剣から発せられるのは、いつもの時のような全てを燃やし尽くす大火力の豪炎ではない。本来の半分にも満たない魔力では、精々怪物の肉を焼く程度しか火力は出ない。それでも、吹き出る水の出口を抑えれば勢いが出るように、範囲を限定すれば被害を最小限にして怪物程度ならば殺せる威力にはなる。


「魔剣、銃撃型――――グラム・クーゲル」 


 薄暗い下水道の中で一つの紅い閃光が走った。


「うん、使えるな」


 群れていた怪物達が胴体に風穴を開けて倒れ伏す。結果は上々。範囲が狭いため横一列に並べた相手に対しては効果が薄いが、縦の相手にはどんな壁を挟んでも貫く炎の槍になる。


「■■■■■■ッ」


 一瞬にして複数の怪物の命を絶ったシグルドを威嚇するようにうなりを上げる怪物。


 再び、――ボッ!!と紅い閃光が走る。誰も反応できず、唯気付けば胴体に穴が空いている。ブレスよりも強く、飛び掛かるよりも速い魔剣の一撃。


 彼らにそれから逃れる手段は、最早なかった。


ガンドライドの苛々メーター 75%

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