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竜殺し、国盗りをしろと言われる。  作者: 大田シンヤ
第四章
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ディギルの下水道2

 

 嫉妬心で怒りを増大させたガンドライドと一悶着あり、ようやくまともに会話をすることができるような状態になると二人で下水の通路を歩き出す。

 騒いでいる時に怪物が出てこないか宥めながらも警戒していたシグルドだったが、魔物の気配はなく、杞憂に終った。


「本当にこんな場所に怪物がいるの……」


 しばらく歩いていると、後ろからガンドライドが早くも根を上げた。ミーシャの命令とは言え、嫌いな人間が直ぐ傍を歩いており、女として入りたくない場所に来ている。絶賛彼女の気分は急降下していた。


「うぅ……お姉様とイチャイチャしたい」

「お前の本体はどうせイチャついてんだから良いだろう」

「私がいちゃつけてないことが問題なんだよっ」


 どうやら本体がイチャついていてもそれが共有できなければ分身体も満足しないらしい。全く以て面倒である。


「ぐぬうぅ、早く出てきなさいよ。 怪物風情がっ……肉片も残さず消滅させて一行も早くお姉様の胸の中に」

「その前に本体が分身を強制解除するのが先だろうな」

「あんのクソアマアアアアァアアアァアア!!」


 その嫉妬の対象はお前自身じゃねえか。そんなに許せないのだろうか……自分自身を呪い殺しそうな勢いのガンドライドは全く別の怪物になりそうだ。

 ――早く来てくれ怪物。じゃなきゃまた別の怪物が生まれそうだ。


「それにしても……本当に何もいないな」


 後ろの分身の叫びは置いておくとして、それ以外には何も聞こえない。あらゆる街の地下道や下水道などは城壁の下を通って街付近にある川へと繋がっている。これはどの街でもそうだ。外の世界には魔物が当然生息しているため、街の者達がどんなに下水道や地下道に繋がる通路を防いでいたとしても潜り込んでくる奴らはいる。

 魔物は勿論、柵をすり抜けることができる鼠や虫もだ。

 それなのにこの下水道には紛れ込むはずの鼠や虫といった動物一匹いやしない。


「本当に……何もいないな」

「別に良いじゃない。 こんな状況で虫やら鼠やらが出てきたら最悪よ」

「…………復活したのか」


 本体へと憎悪を向けていた分身体が小さく呟いた言葉に応えたことで正気に戻っていたことに気付く。

 虫や鼠が一匹も出ていない状況を軽く見ているという訳ではない。状況は理解し、可笑しいとは感じている。しかし、警戒するほどでもない。

 ここにはシグルド一人しかおらず、この男のために命を賭けて戦おうとする気はない。それにここにいるのは本体ではなく分身体。仮初めの命が消えたとしても本体がミーシャの傍にいれば守り続けることはできる。だから、無防備にも隙だらけなのだ。


「少しは緊張感を持ってくれよ。 死んだらどうするんだ?」

「私は分身だし、死ぬのはアンタだけよ……あれ?そうなった場合、私はお姉様を独り占めできるわね………………うん。 むしろ死になさいよ」


 真顔で考え事し始めたと思ったら、これっぽっちも仲間意識のない提案を出して、顔を輝かせる。シグルドと二人っきりになって初めての笑顔だ。


「はぁ……そんな余裕かましてていいのか? 嫌なものを見ることになるかもしれないぞ?」

「死体なんてこれまで大量に見ているけど、それ以外に何があるのよ」

「ん~……死人(ゾンビ)になった人間と鼠とかに襲われるとか?」


 襲うつもりならいつでも来い。こいつ(シグルド)が頑張るからというスタンスで足下を気にしながら歩くガンドライド。魔術を使って敵を割り出すことすら可能なのにやる様子もない彼女を少しはやる気にさせようと嫌な想像を沸き立たせようとする。

 ここにいる怪物が不死者(アンデッド)を操るなんて情報もないし、他の生物もどうなっているかの確証もない。

 しかし、どんな能力を持っているかも分からない以上全てに可能性は存在する。というか地下に騎士や傭兵達が入って死亡したとしたら、その死体に幽鬼(レイス)が取り憑いて死人になっているだろう。

 狭い通路一杯に引き締め合って波のように襲ってくるかも知れない。場所が場所名だけに変な病気にもかかるだろう。


「いや、それはないわよ」


 しかし、シグルドの言葉をガンドライドがバッサリと斬り捨てる。


「何でそんなことが言えるんだよ。 少なくとも騎士や傭兵の不死者はいるだろう」


 放置してしまった死体には幽鬼が取り憑き死人になる。誰でも知っている知識だ。だから、傭兵達も死体が出れば出来る限り燃やすか埋めるかして不死者化を防いでいる。一番最初に騎士達が下水道に入っていったのは1ヶ月前――不死者になるのに十分な時間だ。


「いいや、たぶんいないわよ。 だって近くに幽鬼の存在は感じないもの」

「何? そんなことあるのか?」

「さぁ? 私だってあの谷から出たのは初めてなんだから、そこら辺はアンタの方が詳しいんじゃないの?」


 質問に質問で返される。そう言われるとあまり大きな街での依頼など受けたことがないシグルドとしては返答に困ってしまう。

 大体、村や地方の街などでは地下で依頼に失敗した傭兵達が不死者になっていることが多かったことから幽鬼も地下に存在していると考えていただけだ。


「俺もあまり詳しくはないが……魔除けのない所から魔物が入って来られるなら幽鬼も入って来られると思うんだがな」

「それでもここには幽鬼はいないわよ」

「随分とハッキリ言うんだな」


 あくまで可能性――あり得る可能性を述べるシグルドに対してハッキリと確信して口を開くガンドライド。

 その自信が一体どこから来るのか疑問に思ってしまう。


「そりゃぁそうでしょ。 だって私、幻影の騎士(ワイルドハント)だし」

「――――」


 幻影の騎士――そうだった。幻影の騎士だった。

 ガンドライドから出た言葉に今更ながらに思い出す。普段はミーシャを襲っている見た目は美しい女性はそういえばあの絵本にも出てくる幻影の騎士だった。

 人間に肉体を器として魂を混ざり合わせることで誕生する魔物。その魂の中には悪霊の一種である幽鬼も入っている。三分の一とは言え、同じ霊体を感知することができていても可笑しくはなかった。


 何でそんなことに気がつかなかったのだろう。むしろ何でこいつが幻影の騎士だって忘れていたのだろうか。

 言い訳をさせて欲しい――――普段の態度が悪いと……。

 せめて、もう少し威厳を持って接してくれれば良いのに……というか何で冥界から来たと言われている奴が人間の肉体を器として不死者と妖精の魂で誕生するんだ。冥界に住んでいるんじゃないのかと言いたい。


「急にどうしたのよ。 気持ち悪い」

「いや…………何でもない。 ただ自分の間抜けさに打ち拉がれてるだけだ」

「? まぁ良いわ。 元々いないのか、それとも寄り付かないのかどちらか知らないけど、後者なら不死者すら恐れる何かがあるかも知れないわね」


 ガンドライドが壁に片手を付き、肩を落とすシグルドに声を掛けるが、訳の分からない言葉に首を傾げる。可笑しなものを見るように目線がキツくなるが、取りあえず、自分の考えを述べて先へ脚を進めようとするが、数歩歩いた所で止まる。


「――――シグルド」

「あぁ、俺も見えたよ」


 歩を進めたのは数歩ほど、先は未だに闇に覆われているが、驚異的な視力を持つガンドライドがそれを捉える。

 固まった声色で名を呼ばれる前にシグルドもそれを捉えていた。


「先に調査に入った騎士達だな」


 そこにいたのは帝国騎士だった者。彼らの死体が無惨にも倒れていた。


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