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竜殺し、国盗りをしろと言われる。  作者: 大田シンヤ
第四章
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ディギルの下水道1

 

「ここが、怪物が頻繁に出入りするであろう場所です」


 役所から馬車で半刻——

 シグルドは、鉄条の黒い鉄格子で覆われている下水の入り口に立っていた。太く、そこらの魔物でも簡単には破壊できないような黒塗りの鉄格子。これでも中に潜む怪物は簡単に突破してくる。


「残念ですが、下水の地図などを渡すことはできません」


 そうだろうなと思う。例え、都市の住民を怯えさせる魔物が地下に潜んでいたとしても外部のただの雇っただけの連中――――しかも国境をまたいで活動する傭兵達にそんな重要なものが渡せるはずがない。

 もし、この依頼を達成してもその者が悪意のあるものだとしたらどうする?下水で地図を写していないと言い切れるのか?そして、それが原因で地下から攻め込まれたとしたら?

 これっぽっちもする気はないが、あちら側からすれば別だ。こちらの身を心配してくれている情の厚い人だが、それとこれとは話は別なのだ。


「構いませんよ。 それよりも鍵を頂いても?」

「はい」


 青年から鍵を受け取る鍵穴に差し込み、入り口を開く。

 鉄の軋む音が響き、黒い柵がゆっくりと開かれる。太陽の光が入るのは入り口付近のみ、十歩ほど歩けばそこはもう暗闇だ。

 故にシグルドは腰のポーチから一つの霊薬を取り出して、目に垂らす。これを目に垂らせば、少しの光も見えない場所でも問題なく先を見据えることができるのだ。金がないこれまでの状況では手に入らなかったが、盗賊団のおかげで今の懐は温かい。


「では、お気を付けて」

「えぇ……怪物の死体を担いで帰ってきますよ」


 そう言って内側から鍵を付けて、軽く笑いかける。主に似てこちらを心配しすぎている青年はそれを見て態度が和らいだ。

 中へと目線を向けるとやはり暗闇。それに、酷い臭いが漂ってくる。下水道なので当然だが、確かに少女はここへは来たくないだろうなと今更ながらに思うシグルドであった。


「それじゃ、仕事を始めますか」


 酷い汚臭のする地下へとシグルドは踏み込んでいく。そして、その侵入を感知したものがいた。

 それはシグルドとは正反対に位置する街の隅にいた。それでも尚感知できたのは、相手がシグルドであったから……。


 ――――やっときたやっときたやっときた!! お前が来るのを待っていた!!


 それの表情に映し出されたのは歓喜と憎悪がごちゃ混ぜになった最早表情とは言えないようなもの。

 ここへと入ってきた者がシグルド・レイだと理解して、それは歩を進める。そこには既に元となった者の名残はなかった。









 静かな場所だと余計に足音が大きく聞こえる。しばらく聞くことのなかった自身の足音。やけに響くのは音が反響することもあるが、それ以上に最近の道中が騒がしかったおかげだ。頭を悩ませることも多いが、自分でも知らずにあの生活が気に入っていたのかも知れない。

 口角を緩ませながらシグルドは下水道を進む。

 今の所、ただ進んでいるだけで魔物の魔の文字もない。ただただひたすら空虚で寂しい光景と汚臭がするだけだ。耳を澄ましても下水の流れる音しか聞こえない。

 シグルドの仕事は二つ。

 一つは怪物の捜索――そして、生き残っている者がいれば連れ帰ること。明確に依頼されている訳ではないが、生き残っていれば、無事に地上へと連れ帰るつもりだ。


「……また、同じ所に来たか」


 一度歩みを止め、足下を見て呟く。

 そこにあったのは一つの置き石。通常なら暗闇で気付かないだろうが、霊薬で闇に目を適応させたシグルドの目には昼間のようにハッキリとそれが確認できた。


こっち()は結局ここに戻っていたか」


 二つへと別れた道を右へと進み、しばらく歩いた結果再び同じ場所へと戻ってきてしまった。同じような光景が続くこの下水道で、目印を付けていなければ気付かなかっただろう。


「これじゃあ、探すだけで一日使いそうだな。 お前もそう思うだろ?」


 唐突に、シグルドが後ろに向かって問いを投げる。入り口からここまで後ろを着いてきていた人間ではない者の気配。まだ戦う者となってから日が浅いためか、気配を殺すことは習得していないらしい。


「何よ。 気付いていたの……負ける姿を目に焼き付けてやろうと思ってたのに」


 そう言って影から姿を現わしたのはガンドライドだ。全身鎧(フルプレート)姿ではなく、夏場に着るような薄着の布地の服装だ。

 見つけられたことが不服なのか、顔を顰めていた。


「それは残念だったな。 それよりあんなに嫌そうな顔をしていたのにここに来たんだな」

「お姉様の命令だからね」

「……ホント何でもするな……お前」

「当たり前だ」


 お姉様の命令だからと胸を張るガンドライドに呆れると何を当然なことをと馬鹿にしたような目線で見られる。


「まぁ、分身とはいえ手伝ってくれるのは嬉しいよ」

「…………アンタ、気付いてたの?」

「いつもより動作が遅れていたからな。 やっぱり分身体だと本体のようには行かないか?」


 ガンドライドの目つきが鋭くなる。未だに彼女にとっての仲間の範囲にいるのはミーシャだけらしい。魔物で成人した女性の姿とは言え、実際の中身は幼い子供……そう思うとこれだけ距離を取られているのは寂しい。


「何でも見透かしているようなのがムカつくわ。 それも黒竜の叡智ってやつ?」

「いいや、こいつは経験則だよ。 人の動きとかを観察していて身についたものだ」


 幼少の頃から、剣を握り、槍を握り、弓を握ってきた。大人達に混じって戦いながら己を鍛え、誰よりも強くならんとしてきた。そうして幼少期から人の戦う動きを見ているとあるときふと気付く。

 相手の些細な動き、怪我の度合い、弱点――――誰よりも才能を持ち、磨き上げてきた結果、経験則による特殊な目を得ることになった。


「ふ~ん……どうでもいいや」

「お前から聞いといてその反応はないだろうが……」


 スキルについて語ったシグルド、それに対してのガンドライドの反応は淡泊なものだった。

 嫌われると分かっていてもそんなに反応が乏しいと喋ったこちらも寂しい気持ちになる。


「お前がミーシャとの時間を邪魔して恨んでいることは知ってたが、そんなに冷たい態度取らなくても良いんじゃないか?」

「あぁ?……アンタ本気で言ってんのか? お姉様との逢い引きの時間以外に私に大事な時間なんてあるとでも?」


 ガンドライドもミーシャとの逢い引き?を邪魔されたのを思いだし、怒りで拳をワナワナと震わせ、歯を軋ませる。

 自分にとっては至高の領域にいるミーシャ。それを邪魔されて冷たい態度を取らなくても良いんじゃないか。そうこの男は言ったのだ。


「(冗談じゃない。 あんな幸せな時間が他にあって堪るものか!!――――そういえばこの男、私が来る前までは、お姉様と二人っきりってことだったんだよな)」


 よくよく思い出せば、自分が旅に加わったのは途中から、ならばその前は?当然、シグルドとミーシャは二人っきりで旅をしていたことになる。

 実際はそんなに長い月日二人だけという訳ではなかったのだが、そんなことを言っても嫉妬心に燃えるガンドライドを止められるはずがない。


「よし――――ぶん殴ってやる」

「何でだよ」


 何故か先程より怒りに満ちた目をして拳を握るガンドライドに呆れるシグルドだった。


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