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竜殺し、国盗りをしろと言われる。  作者: 大田シンヤ
第三章
36/124

裏切り

 

「裏切ったのですか……」


 俯いた青年から声が漏れる。そこには 目の前で起こる現実が嘘であって欲しいと願いが込められていた。自分を助けてくれた人物の一人が裏切る――そんなことは嘘だ、これは夢だ。駄々をこねる子供のように現実を否定する自分がいる。

 しかし、そんなものはあっさりと破られる。


「なんじゃ……もっと取り乱すかと思ったぞ」


 残念そうに老人が肩を竦める。その様子に青年はカッと頭に血が上った。


「何故――何故ですか!?私達ならこの戦いを勝ち抜けたはずです!!」


 その通りだ。例え三人であったとしても実力はトップクラスだ。一人一人がバラバラに戦っていれば、意味がなかったかもしれないが三人であれば何とか予選であるこの戦いを抜けられたはずだ。

 故に分からない。レギンも老人が裏切る理由を教えてはくれなかった。だから青年は老人に向かって問いただす。


「ふん、下らん。そんなもの決まっておろう……金じゃよ」

「金……ですか」


 青年の問いに対しての答えは単純なものだった。


「そうじゃ、お主も薄々感づいておるように儂は戦闘奴隷じゃ」

「……」



「奴隷の扱いを知っておるか?ここでは儂らは犯罪者以下じゃ……勝つことができれば奴隷から解放される者もいるがそんな者は極少数じゃ」


 隣国のせいで幼い頃から奴隷の身分を味わった。助けて貰ったと思えば、再び騙され奴隷として売られた。それからこの年までずっと奴隷だ。

 自分は何もしていない。犯罪に手を染めてもいないし、人を騙したことだってなかった。それなのに何故扱いは犯罪者以下なのか……。そう思い、涙を流したことは一度や二度ではない。

 そんな人生から抜け出したかった。そして、それには金が必要だった。

 元より優勝になど眼中にない。体力の少ない老人に取って一番重要なのはこの戦いから生き延びることだ。


「金が必要なのだよ。戦士としての誇りなど儂にとってはそんなものは何の役にも立ちはしない」


 必要なのは金。自由になるための金。全ての者を見返すための金だ。ちっぽけな男だと笑いたければ笑えば良い。だが、譲ることなどない。それが自分にとっての願いなのだ。


「…………僕にも、譲れないものがあります」


 青年が顔を上げる。

 裏切った理由は分かった。彼の人生には同情に値する。しかし、自分にだって背負うものがあるのだ。

 ここに来て青年はここに何故戦いに来たのかを思い出す。

 自分の勝利を祈り、待っている彼女のためにここに来たのだ。


「貴方に殺されるわけにはいかない!!」


 青年が構えを取る。

 レギンと老人のために戦うことはもう頭の中にない。


「ふん……強がったところで戦況は変わらんわ」


 青年を見て老人は冷たく言い放つ。

 最早共闘する意味はなく、こちらにはまだ味方がリングに控えている。不利なのはどう見ても青年の方だった。

 だが、それでも青年は武器を構える。


「それも踏まえて負ける気はないと言っているのです」

「抜かすな小僧」


 老人と脇に控えていた二人が地を蹴った。







「オオオオオオオオオオ!!」


 咆哮を上げて迫り来る刃を盾で受け、剣で弾く。一カ所に留まりながら戦うのではなくリング上を移動しながら戦う。

 短い間だったが共に戦ったことで老人の脅威は知っている。懐に入られれば、あの妙な体術にやられてしまう。だからこそ、青年は自分の間合いで戦うことを選んだ。


「オラァ!!」「セイヤッ」

「――クッ」


 それでも戦況は苦しい。両方から攻めてくる男二人。老人が来るまでに決着を付けることができれば良かったのだが、そうなる前に老人が合流してしまった。

 自分の得意な型は守りの型なので二対一でも問題なかったのだが、そこに老人が加わったことで崩されかけている。


「(誰か――他の闘技者が乱入してくれれば)」


 周りを見れば、リングいっぱいにいた闘技者の数は殆ど姿をなくしているが、まだ戦っている者もいた。既に戦っている者がおり、乱入してくれるのは難しい。


「(こっちから行く!!)」


 ならば自分から行くまでと戦っている闘技者達に向かおうとするが、それはできなかった。


「何を考えているか、手に取るように分かるぞ」

「なっ!?」


 青年の考えを読んだ老人が行方を遮る。


「鬼ごっこは終わりじゃ」


 前後を囲まれる形になった青年は悔しさに歯を食いしばることしかできない。剣と盾を装備していても三人の攻撃を防御できはしない。

 それが分かっている老人達は徐々に距離を詰めてくる。

 これで終わり、考えたくもない結末が脳裏をよぎる。

 観客の歓声が煩わしく思えてくる。命を賭けているのにそれをだしに金を集める闘技場の者達もだ。


 最後に一言とかそんなものはなかった。

 何の合図もなく、だが示し合わせたように三人が迫ってくる。青年の目からは三人が猟犬のように見えたに違いない。


「!?――後ろじゃあ!!」


 突如として老人が声を上げる。

 それを目にできたのは老人だけだった。その予想外の光景に思わず、距離を取ってしまう。

 地面に転がるのは二つの首。青年を襲っていた男の二人だ。では、誰がこの二人の首を切り落としたのか。

 青年は後ろを振り返り、驚愕する。


「レギンさん……」


 そこにいたのは既に死んだと思っていた男が佇んでいた。


「ど、どうして」

「そんなに驚きですか?」

「当たり前ですよ!!」


 むしろ何故驚かないと思ったのかを知りたいぐらいである。脇腹には血が滲んでいるし、刺されたことは間違いない。

 そんな青年に対し、レギンは何でもないように答える。


「これがあったから助かったんです。ほら」


 そう言って服の下から取り出したのは人間の腕だった。


「うぷっ……」

「すみません。嫌な者を見せてしまって……」


 直ぐにそれを放り投げ、青年の視界から遠ざける。死んでしまった人間の体を使ったとは言え、流石に刺激が強かったらしい。


「い、いえ……大丈夫です」


 アレを見てどうやって助かったのかが予想がついた。

 恐らく、自分達の目を盗んだ際に仕掛けておいたのだろう。人の肉を一体いつ切り取っていたのかと想像したくもないが、よくバレなかったものだ。


「そうですか、では戦えますか?」

「……はいっ」


 息を整えて返事をする。

 人間の肉が出てきたことで動転してしまったが、まだ戦いは続いている。それに今は自分達を騙した相手と向き合っていることを忘れてはならない。


 青年が振り返ると老人は既に戦闘態勢に入っている。数の差をひっくり返されてもまだ戦う気は削がれていない。

 それもそうだろう。老人はトーナメントに出場し、邪魔になりそうな闘技者を排除するのが役目なのだ。ここで終われるはずもなく、邪魔になりそうな者が目の前にいるのに戦わないのは雇い主の手前ではまずい。


「行きましょう。私が盾になります」

「はい、お願いします」


 レギンを守るように盾を構え突撃する。

 盾で身を隠し、どちらから来るか分からなくする。例え、一撃を防いだとしても後ろに控えたレギンが対応出来る。


「小癪な小僧共がっ――儂は負けんぞ!!」


 対する老人が短剣を手に構え咆哮する。

 もうすぐなのだ。自分が望んだ物が手に入る所にまで来ている。そんな好機をたった二人の禄に苦しい目に遭ってもいない者達に邪魔されたくはない。


「貴様らはまだ若いではないか!!ならばこの老人に少しでも譲ってやろうと思わんのかぁっ!?」

「僕にも譲れない物があるんですよ!!それは今ここで勝たなきゃ手に入らないものなんだ!!」


 老人に取ってこの戦いは自由を手に入れるための戦いであり、青年に取っては愛する者を手にするための戦いだ。どちらも譲れない。譲ることなど出来るはずがない。だから全力でぶつかる。

 彼らにできるのは自分が後悔しないように全力でぶつかり合うことだけだ。


 短剣を盾で払い、剣を突き立てる。――が手の甲で剣の腹を叩かれ、老人の服を掠めるだけとなった。

 しかし、まだレギンが控えている。

 剣を放し、老人の腕を掴む。


「レギ――グッ」


 掴まれた腕を剥がすために老人が青年の顔に頭突きを喰らわせる。一度だけではない。二度、三度……離すまで頭突き続くだろう。

 それでも青年は腕を離さなかった。


「レギンさん!!」


 腕の力を緩めずに叫ぶ、トドメは貴方がやってくれと――。





 これまでの二人をレギンは後ろに待機して見ていた。

 守るべき物があり、戦うにふさわしい理由があって二人は戦っている。


「(願い――か……俺にはないものを持っているんだな)」


 何か欲しいと思ったことはあるが、それだけに情熱や命をかけたことなどなかった。そんな自分とは違い、自らの願いへと手を伸ばそうとする二人。

 彼らを見て感じたのは嫉妬ではない。そして、羨望でもない。レギン・ヘグスはそんな人間ではない。





「(――まぁ、だからこそ二人と組んだんだけどなぁ)」


 強いて言うのであれば、彼はそれを嘲笑し、壊す側だ。レギンが取った行動は単純だ。リーチのある両手剣を構えて、槍のように青年ごと老人を突く。


「ごぼっ」

「ガァ!!」


 二人は勘違いをしていた。老人は青臭いことを口にするレギンは人を騙せるような者ではないと思っていた。青年は自分を何度も助けてくれた男は正義に満ちた男だと思っていた。

 ――だが、違う。

 レギンにとっては彼らと組んだのは、単に面白そうだったから…………八百長が許せないだの思いを遂げさせたいだのは全て虚言である。

 しかし、彼らに力を貸したいと思ったのも事実――事実ではあるが、こちらを青臭いことを言っている子供と思っている老人、自分を善人だと助けられただけで思っている青年。そんな二人が自分に裏を掻かれればどんな表情をするのか、それが最もレギンの楽しみだった。


 血を吐く二人の目は見開かれており、特に青年に限っては何が起こっているか分からなくなっている様子だ。

 その表情がとても良い。それこそ青臭い芝居をした甲斐があったというものだ。


 剣を一気に引き抜く。支えとなっていたものがなくなり、二人の体が地面へと転がる。ドクドクと流れ出す血は止まることはなく、地面に血溜まりを作っていき、それが大きくなるにつれて二人の体は冷たくなっていった。

 体に力が入らず、最早拳を握ることすらできない。ただレギンを睨み付けるだけ……そんな姿が面白いというように二人が息切れるまでレギンは歪な笑みを浮かべていた。





 ――程なくして予選(バトルロイヤル)は終了した。

 その後、レギンはトーナメント戦でも順調に勝利することになる。前半戦によって選ばれたのは、騎士団は貴族の者で固めるべしと抗議する真・貴族一派、それらを蹴散らし、レギンは優勝した。

 彼に与えられたのは、騎士団長の座と、金一封。そして、彼自身の願いを皇帝が聞き入れた。彼が望んだのはとある青年が花嫁に欲していた貴族の令嬢との面談。

 共に戦った者として彼の最後を伝えたのだ。勿論、一部を脚色して――。







 いつしかその女性が、レギンと皇城で共に歩く姿を見かける者がいるが……それはまだ先のことである。


ようやくネットが繋がって投稿でき始めたんですけど、書き溜めたものがなくなったので今週は今日が最後になります。

できれば、できれば!来週辺りから再開したいーーと強く思っています‼︎

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