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竜殺し、国盗りをしろと言われる。  作者: 大田シンヤ
第三章
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チームの瓦解

 

「――んん!!さて、思いも知らない出来事が起こりましたが、これもバトルロイヤルの面白みでしょう。ヤマト選手は脱落してしまいましたが、戦いは続きます!!どうか皆さんリングの戦士達の戦いをご覧になって下さい!!」


 嵐のように闘技場から去って行ったヤマトに全員が呆然とする。戦いを放棄されるなど初めての経験だったが、その中で一刻も早く意識を戻したハルベルトは流石だった。

 ハルベルトの声に観客の視線はリングに戦っている戦士へと戻る。

 地位、名誉、金――戦いに勝てば全てが手に入る。欲が強い者ほど早く意識を戦いへと持ち直し、近くにいる者に武器を叩き込む。振り下ろされた者は負けじと打ち払い、応戦する。そうやってリングの上には熱気が戻っていく。


「――ほいっ」


 気の抜けるような声を発する老人だが、その技は一流。休憩したことで技のキレも戻り、素手で闘技者を再起不能に追い込んでいる。


「せい!!」


 その近くでは父親に娘との結婚を認めて貰うために戦う青年がいた。背中は仲間にカバーして貰っているのが彼の一番支えになっているのだろう。

 ここより先には行かせない――そのような気迫が彼からは伝わってくる。戦う前の臆病な半人前の戦士はもういない。


「死ねえェェェェエェェ!?」

「させません!!」


 青年を狙った闘技者に槍を投擲する。空中に跳び上がり、避ける手段を持たなかった闘技者の腹に突き刺さり、そのままリングの外まで飛ばされていった。槍は突き刺さったが、まだ死んではいないだろう。リングの外に出たおかげで治療も受けられるはずだ。彼にとっては幸運だっただろう。


「ありがとうございます!!」

「いえいえ、それほどでも」


 互いに背中合わせになり、押し寄せる敵を迎撃する。


「それにしてもっ!!疲れていませんか?戦いっぱなしでしょう」

「大丈夫です。一日中友人と剣を振るっていた時もありましたからっ」


 敵を斬り伏せながら尋ねるレギンに誇るように青年が胸を張って言う。ハッキリとした口調から、その出来事は自分の中で誇れるものなのだろうとレギンは思う。


「ならば、最初のようにはならないで下さいよ?アレは酷かったんですから……」

「――グッ」



 だが、レギンから出た言葉によって次の瞬間青年の顔はシュントした子犬のような顔へと戻ってしまう。。

 足を引っ張り、レギンと老人に助けて貰ったおかげで闘技者達に集中砲火を喰らった時を思い出したのだ。自信がなかった青年がやっと戦いに乗ってきたというのにそれを引っ張り出してくるとはレギンは中々の加虐趣味(サディスト)だった。


「もうあのようなことがないように心掛けますっ」


 喉を絞められたようなか細い声が青年の口から漏れる。


「すみません。そこまで堪えるとは思いませんでした」

「い、いえ……事実ですので」


 強がってはいるものの顔を見れば、かなり悲痛な顔をしている。それを見れば十分だ。青年にはその事実は重くのし掛かっているのが分かった。


「隙あ「ないですよ」――グボォアアアア!?」


 落ち込んでいた青年を見て何を思ったのか飛びかかってくる闘技者(アホ)を笑顔で殴り飛ばす。飛んでいった闘技者はどうなったかは言うまでもない。


「すみません。また、助けて貰って……やっぱり僕は」

「ちょっと!?ここで自虐モードに入るの止めて貰っても良いですか!?」

「お主達は何をしておるのだ……」


 ギャアギャアと戦いの最中に騒ぐ若者二人に老人が呆れ顔で呟く。そんなことをしていると、注目を集めるのは当然で――


「テメエら遊びやがって……舐めてんのかぁ!?」

「いてまうぞコラァ!!」

「どこのチンピラじゃお主らは……」


 闘技者(チンピラ)が集まってくるが、実力も大したことがない彼らは老人によって数人が薙ぎ倒されていく。…………本当に何でこんな奴らが最後まで残っているのだろうか。


「若いの……後ろの奴は頼むぞ」

「承知しました」


 それでも数が多く、数人が老人の後ろを取ろうとするが、レギン達によって阻まれる。ずるいだの何だの言っているが関係ない。これも戦術の一つなのだ。

 唾を飛ばしながら喚く闘技者達に容赦なくレギンは刃を振り下ろしていく。ついでに悲痛そうな顔をしている青年も引っぱたき、戦闘へと意識を戻させることも忘れない。

 もう、戦いは終盤へと近づいている。誰もが生き残ろうと……他者を蹴落とそうと血眼になっていた。その中で協力し合っていた者達は個々で戦っている者達よりも有利なのは間違いない。単純なことだ。一人よりも二人、二人よりも三人。しかもそれが腕が立つ者であれば、生き残れる確率は各段に上がる。だが、そんなチームが突如として瓦解することだってある。

 例えば――内部に裏切り者がいた場合などだ。







 老人にとってあらゆるものは敵だった。

 彼は元々帝国の北にあるノースウェアと呼ばれる街の出身だった。特別な観光名所も名物と言ったものも少ない平凡な街だったが、平和だった。

 その平和が突如として崩れ出す。隣国の遊牧国家(ヴァルガ)の襲撃を受けたのだ。元々遊牧民であった彼らは、略奪で生活を潤すことは珍しくなかった。ただ、自分達が襲われると思っていなかったあの頃は酷く動揺していたのを思い出す。


 帝国内部まで侵入すると思っていなかった帝国の動きは遅く、街は一夜で落とされた。男は殺され、女子供は奴隷として連れていかれた。

 そこから先は想像通り、奴隷の日々だ。

 少しのミスをした者は殺された。逃げ出そうとする者もだ。そして、教順な者には褒美が与えられた。だから、ついには奴隷通しで見張り合うことになった。


 誰も頼れず、信用できない日々が続き、精神をすり減らしていく。

 そんなある日だった。昔の友人が、ありもしない罪を自分に擦り付けてきたのだ。主の飼い犬を殺したのは自分だと……。

 そんなことがあるはずがない。その日は命令で川で洗濯をしていたのだ。犬を殺せるはずがない。しかし、死因は毒殺——与えている水に毒でも混ぜていれば殺せるだろうと難癖をつけてきた。そんな可能性なら誰もが疑われる。それに一番怪しいのは友人だと口にしたが無駄だった。

 目撃証言が多数出たのだ。

 何一つ関わっていないというのに目撃証言が出るはずもない。彼らは揃って自分を嵌めたのだ。

 自分にはどうすることもできず、死刑が確定した。

 何を叫ぼうと伝わるはずがなかった。飼い犬を殺された主は、残酷な処刑方法を思いつく。

 食屍鬼(グール)の巣穴近くに手足を縛って放置したのだ。


 そこを師に助けて貰えていなければ自分はいないだろう。

 巣穴から這い出てきた怪物を殺し、自分を助けた師に寄り添い旅をした。師からは武術を教わり、久しく感じていなかった人の温もりがあった。

 だが——それは全て奴隷として売るためであった。


 帝国の闘技場で戦う者は様々だ。犯罪者、腕自慢、金に困った者、そして……老人と同じような戦闘奴隷。

 観客に見せるために彼らは小綺麗にされているため、一見奴隷だとは見分けがつかないが扱いは底辺だ。勝ち上がった金で自分を買うことで自由になることもできるが、彼はこの年になってなお奴隷の身から解放されてはいなかった。


 この大会は犯罪者や奴隷達は強制参加だ。老人も例には漏れず、強制参加をさせられる。生き残るのが先決――だが、既に体力は落ち始め、バトルロイヤルを戦い抜ける自信が彼にはなかった。

 そんな時に、一人の貴族に声を掛けられる。

 提案に乗れば大会を生きて乗り越えられ、奴隷からも解放してくれるという。その言葉を疑ったが、前金で手渡された額を見ると彼は目を見開いた。

 前金だけで自分が自由になれる額であったのだ。それを望んでいた老人は直ぐに頷き、提案に乗ることにした。


 彼の仕事は、一人でも多く敵を排除すること。

 雇い主は、計画通り前半戦で勝利した。ならば、こちらも仕事をしなければならない。

 闘技者を騙し、味方に付けることで自分自身が生き残るための効率を更に上げる計画も人生経験も禄にない騙されそうな若者二人が手に入ったことで成功した。

 騙されやすい二人だったが腕は十分。そこらの闘技者よりも役に立つのは嬉しい誤算だった。

 そうして闘技者の数が減っていき、終盤となったこの時こそ……老人の最後の仕事があった。


「(悪いのう。一応急所は外してやる。最も、手が震えているから何処に刺さるかわからんがなぁ)」


 無防備な背中を晒しているレギン。

 完全にこちらを信用している愚か者に笑みを浮かべ、ひっそりと近づく。二人の力量は把握積み。そして、不意打ちであれば失敗はない。

 まずはレギン。そして、青年だ。青年の方は仲間が分断して相手をしていた。


「(お主らのおかげで儂は自由じゃぁ。儂のためにありがとのう~)」


 一度レギンの喉元に突き付けた短剣を懐から取り出し、刃をレギンに突き刺さした。


「――へ」


 顔だけで後ろを振り向いたレギンと目が合い、間抜けな声漏れる。

 その顔にあるのは驚愕――裏切られると思ってもいなかった者の顔だ。


「ほっほっほ……すまんのう。これも勝負の世界で生き残るためじゃ」


 言動と表情が全く一致していない。謝っている老人の顔は酷く歪んでおり、微塵も負い目など感じていないのは明白だった。


「レギンさん!?」


 遠くで名を呼んだのは青年だ。気付かれたが遅い。ズブリ――と更に深く短剣を突き刺す。肉を裂くような手応えが手に伝わり、深く進むにつれてレギンの顔が歪んでいく。

 そして、短剣を最後まで突き刺し、一気に引き抜くと最早用済みとばかりにその場を後にする。


「貴方はっ――」


 何か言いかけているが興味はない。老人は次の獲物へと足を向けて歩き出す。


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