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竜殺し、国盗りをしろと言われる。  作者: 大田シンヤ
第三章
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まずはメレット迷宮へ

 

「最悪の一日が始まった‼」

「突然何を言い出してるんだお前は……」


 日が昇り始まったばかりの頃、洞窟から一人の少女が飛び出し、空に向かって両の拳を突き挙げ、奇声を上げる。それとそんなちょっと頭が可笑しな女の子をげんなりとした顔で見つめる一人の男。


「起きるんなら少し寝てていいか?いいよな、じゃあお休み」

「寝るなー‼」「グボォ‼」


 マントに包まり、睡眠を取ろうと目を瞑ったシグルドの腹にミーシャの両膝が突き刺さる。

 徹夜明けの体になんてことをしてくれるんだろうかこの娘っ子。さっきまで寝ていた癖に自分は眠るなと言うのか。


「グオォ…………これから睡眠に入る人間にやることじゃねぇ」

「安心しろ、私にとってお前は人間にカテゴライズされていない」

「最悪だな!?」


 追撃を仕掛けるミーシャとそれに嘆くシグルド。

 一体何が不満なのか分からないシグルドは頭を捻るばかりだ。ここ最近の行動を頭の中に思い出してみる。


「(取りあえずあの貴族の領地からその晩の内に逃げ出して、寝て起きて飯食って、時々魔力操作を教えて貰い、飯食って寝て起きて飯食って……)」

「おい」

「――ん?」


 同じような言葉を並べている内に眠くなってしまったシグルドに冷たい声が掛かる。


「私が何を言いたいのか分かるか?」

「いや、まっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっったく」

「言い方とその態度が不敬ェ!!」


 オラァ!!と見事な跳び蹴りを放つミーシャ。これぐらいで蹴りを入れるなんて体罰が酷すぎやしませんかお姫様――と思いつつシグルドがあっさりその蹴りを回避する。

 跳び蹴りが失敗に終わったミーシャが背中から落ちてしまう結果になってしまったが、シグルドは我関せずと欠伸をする。


「はいはい不敬不敬。で?何が気にくわないんだよ」

「適当に流している辺りがイラッとくるが…………まぁいい、私は心が広いからな。――で、私が何に不満を持っているかだが、分からないんだな?」

「あぁ」

「よーし、じゃぁ言ってやろう。耳の穴をかっぽじって良く聞け」


 ミーシャが腕を組んで、知恵を授ける賢者のごとく大袈裟に頷く。

 というかかっぽじってってよく知っているなこの娘。最近聞かない言葉なのでもう絶滅したのかと思ったがそうでもないらしい。


「柔らかいベッドで寝たいんだよ!!」

「諦めろ、金がない」

「それだよ、それ。何でないの!?私は捕まったから没収されたけど、お前は捕まってないじゃん!?」


 鬼気迫るといったような表情で詰め寄ったミーシャにシグルドが頭を掻いて答える。


「いや~悪い。お前を助けに向かった時に置いて来ちまってさ。しばらく俺達は文無しだ」

「――――」

「おい、なんだそのこの世が終わった表情は……野宿も良いもんだぞ?空は青いし、空気はおいしい。最高じゃないか!!」

「アハハハハ!!ワーホントだー!!――てなると思ったか!?最近雨と曇りで晴れたことなんてなかったし、雨で荷物も服も全部濡れてるし、ここ最近そこらで取れた木の実しか口にしてないだろうがっ!!」


 とうとうノリツッコミを覚え始めた!?と変な方向に成長したお姫様に涙を流すシグルド。幼い子供の成長は大人にとっては一つの楽しみである。


「ううう~~~~……。金貨、ベッド、暖かいお湯」

「やめろ、俺も悲しくなる」


 とまぁ、現実逃避はさておき、シグルドもせっかく手に入れた金と宿がなくなったことにショックを受けていたのは事実だ。ミーシャの言葉にフカフカのベッドを思い出し、涙を流す。


「体の泥を洗いたい。魔物の脅威がない街に入りたい。ふかふかのベッドで寝たい」

「分かった分かった。ここの領地を脱出してから近くの街に行こう。そこで仕事を探して宿を取ろう。な?」

「ぐぬうぅぅ……絶対だからな‼︎」


 少女の背を叩いて荷物をまとめる。といっても互いにマントを被って少量の荷物を袋に入れて担ぐだけなので直ぐに準備は済んだ。


「さて、行きますか」

「あぁ」


 まだ日が昇って間もない静かな時間帯――二人は歩き出す。

 シグルド達が目指すのは帝国領の北の城塞都市ディキルだ。


 ――あれから数日、シグルドとミーシャは帝国領内で逃亡の日々を続けていた。


 ミーシャを助け出して一件落着――となるはずもなく。当然伯爵の騎士達の捜査が行なわれた。周辺の領主にも掛け合ったのだろう。各地に検問が敷かれ、進むのが困難になっていた。フラメルが殺されたことによって伯爵の騎士達は殺気立っており、鼠一匹逃さないと言わんばかりだったのが印象に残っている。

 どうやらシグルドの情報は回っていなかったようだが、ミーシャを表立って連れて歩くことはできない。検問を強行突破しても良いが目立ちたくない二人は別の手段を選んだのである。というかほぼミーシャの意見だった。


『メレット迷宮を通ろう』


 その言葉を聞いた時は名案だと思ったのは間違いない。

 メレット迷宮とは帝国領の半分を横切るように広がっている広大な谷の底にある沼地だ。四六時中深い霧に覆われており、特殊な磁場の影響でコンパスも頼りにならない。もちろん、魔物も出現する。しかし、魔物よりも恐ろしいのは何処を進んでいるか分からないといった所だった。

 入れば生きて出られない。そんな場所だが、だからこそ帝国騎士も安易に踏み入らない。

 その賭けにシグルドは乗り、この迷宮へと向かっているのだった。


 ここから徒歩で一日ほどでメレットの迷宮へと辿り着く。馬で飛ばせば半日で到着するが、残念ながら馬はないので徒歩で行くしかない。


 眠気を感じさせないしっかりとした足取りでミーシャの後を追いかける。するとそのタイミングでミーシャが口を開いた。


「シグルド……私は決めたぞ」

「何をだ?」


 右手で握り拳を作り、固い決意をしたような顔つきのミーシャ。次の瞬間にバッとこちらを振り返ると宣言する。


「今度から私が金の管理をする」

「別に良いけどよ。そんなに信用ないか?俺……」

「当たり前だ、馬鹿者!!大切なものを次々と落としまくってるだろ!!」


 頭を掻いて惚けるシグルドに怒る。

 確かに――シグルドは黒竜の時に弓を、霜の巨人と戦う際には魔剣を、そして、ミーシャを助ける時は財布を落としてしまっている。魔剣は人に渡したので落としているのではないのだが、簡単に人に渡すのはどうなのかとミーシャは思っていた。そもそもこの男、探そうとか考えないのだろうか。

 ちなみにシグルドは言ってはいないが、黒竜と戦った際になくした弓はただの弓ではなく魔術の掛かった強弓であり、弓と同時に相手に恐怖を与える兜や身体能力を向上させるマントやらもなくしたのだが、それはミーシャには伝えていない。

 だって今の所聞かれていないからね!!


「だから、この私がお前の物を管理する。私の許可なく人に施したりするなよ!!」


 異論は認めない――と付け加えてシグルドを指差す。

 自分でも自覚のあるシグルドは素直にそれに頷いた。それを見たミーシャはにんまりと笑顔を作る。


「よーし!!それなら良い……さぁ!!早くメレットを突破して街に行こう。温かい風呂に食事が待っている。あ、後服も買いたい」

「おい、必要なやつだけにしろよ」


 欲しいものを口々に言うミーシャに了承したばかりなのにそれが間違いなのではと少しばかり不安になる。







 ――しかし、結論だけを言っておこう。この二人のどちらに財布を任せても碌な結果にならないのだ‼︎


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