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竜殺し、国盗りをしろと言われる。  作者: 大田シンヤ
第二章
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竜殺しと少女

 

 目の前にずっと続く道を見続ける。

 過去の自分が起こした行動を後悔することはない。優柔不断な自分からやっと抜け出せた。そんな充実感がシグルドを満たしていた。

 これからどんなことが起こるか分からない。自分の命が尽きるかも分からない。お前は間違っていると言われるかもしれない。

 それでもこれで良いと胸を張って言える。

 たった一人の少女を投げ出しておくことなんて自分にはできなかった。


「何をそんなにニヤニヤしているんだ?」


 後ろから前へと飛び出したミーシャがシグルドに尋ねる。その姿は出会った時と同じようにマントを羽織り、顔をフードで隠している。


「別にしてないよ。ニヤニヤなんて」

「えぇ~絶対してたぞ。気持ち悪いぐらいに」


 シグルドの笑っている表情を真似ているのか、顔を上げて笑みを浮かべた口元を指差す。

 他愛のない話し合い。ミーシャはそれを楽しんでいた。そして、シグルドもそれを感じ取っていた。


「二ヒヒィ」

「品がないぞ。その笑い方」

「ええい、傭兵のくせに何でそんなこと気にするんだ?もしかして、傭兵は実は貴族に気に入られるために専用の学校で作法でも習っているのか?」

「俺が知っている限りそんな話しを聞いたことないが、傭兵でも作法はしっかりしてるぞ。傭兵もその方が受けが良いからな」

「なんだ。つまらん」


 興味がなくなったように前に向き直り歩き始める。そんなミーシャに呆れるような顔をしてシグルドが尋ねる。


「つまらんって……傭兵に対してどんなイメージを持ってんだ?」

「筋肉隆々で金と名誉が大好きだけど貴族とかが嫌いな奴ら」

「酷すぎない?いや、そんな奴もいるけどよ」

「大体世間のイメージなんてこんなもんだろ」


 言葉通りなので何も言えない。だが、実際は良い奴もいる。一部の奴らが横暴なだけなのだ。例えば、中央に尖った髪の毛の男とか頭部の側面の髪がない男とか巨漢の男とか――。あれ?同じ顔?

 まぁとにかく、そんな奴らのせいで全体のイメージダウンになっているんだから酷い。そういう輩はちゃんとした傭兵組織に入って一から教育して貰いたいものだ。

 溜息を一つこぼし、ミーシャの後に続く。


 しばらく歩くと森に入り、小川へと辿り着く。太陽はいつの間にか真上へと昇っていた。

 ここまで他愛のない話しが続いている。シグルドがこれまで討伐してきた魔物の話しや珍しい道具、ミーシャの王宮での生活。これまでの互いの生活はまだまだ話していないことがあり、話し尽くすには時間が必要だ。

 話し合っている時、ミーシャは顔を隠していたが雰囲気が明るく、それに釣られてシグルドも笑顔を顔に浮かべていた。出会った時はこんな時間などなかった。

 シグルドは一人で悩み込み、ミーシャはそんなシグルドを監視する。互いに眉間に皺を寄せていた。それが嘘のようだ。


「え?その魔剣で黒竜(ファフニール)を倒したんじゃないのか?あの時みたいに炎だして」


 川辺で取った魚の串焼きを剣に見立てて突き立てる動作をする。その様子に微笑みながらもシグルドは首を横に振った。


「いや、そうじゃないんだよ。確かにコイツを使って戦ってはいたけど最後の最後で吹き飛ばされたんだ。それに、当時はコイツ(グラム)に炎の力が備わっているなんて思っていなかったんだよ」

「お前……よく生き残ったな」

「まぁな……流石に死を覚悟したよ。でも吹き飛ばされる最中に持ってきたフロッティっていう弓があってな。それを掴んで向かってくるアイツに矢を放ったんだ。相打ちみたいになってどっかいったけど……」

「吹き飛ばされている最中って……よく掴めたな」


 技量が高いとそんなことができるのかと感心するようにミーシャが言うと、シグルドは運が良かっただけだと切り捨てる。


「アイツを殺せたのは運が良かっただけだ。たまたま弓があった方に飛んでいっただけだ。それに平地だったらこっちが負けていただろうしな」


 黒竜は飛竜だ。戦ったのは洞窟の中、いくら動き回れる広さがあったとは言えあれが全力であるとは思わない。それに同じ状況で戦ったとしても今度はあちらが勝つだろう。というかもう戦いたくない。何度死を覚悟し、死にかけたか数え切れない。あの一戦だけで、一生分の死線を潜り抜けた気がするのだ。


 遠い目をして思い出すシグルド。そんなシグルドにミーシャは不思議そうに首をかしげる。


「気にするようなことか、それ?お前は人間ではなし得られないと言われていたことを成し遂げた男なんだぞ。胸を張ったらどうだ?」


 ミーシャからしてみればシグルドが何故悩んでいるか分からない。運も実力のうちという言葉もあるのだ。もっと自信を持ったら良いのだ。


「まぁ、考えとくよ」

「何だ、その返事は……」


 曖昧な返事にミーシャがムスッとするが、偉業をなしたのはシグルド。それを誇ろうが何しようがシグルドの自由と考えそれ以上は何も言わない。


 その後もその話しは続けられる。しかし、それは唐突に終わりを迎えた。


「………………」

「どうした?突然……」

「別に、突然じゃないよ」


 思い出したように黙り込んだミーシャを心配してシグルドが声を掛ける。だが、返ってきたのは楽しそうに話していた先程とは全く違うぶっきらぼうな声だった。


「お前、これからどうするつもりだ?」

「どうするって……言っただろ。お前に一生を捧げる」

「………………………………………………………………他に言い方あるだろう」

「何だって?」

「何でもないっ」


 改めて聞くと恥ずかしい。それなのに何故コイツは素でそんな言葉を口にできるのだろう。世の剣士や騎士達はもしかしたらこんなに垂らしなのか。王宮の中で、侍女達が騎士との恋物語に熱中していたのを思い出し、そうなのかと思ってしまう。


「ええいっ――まったく」

「何だ、虫でもくっついたのか?」

「お前は黙っていろ!!」


 真剣な話しをしていたのに何故こんな感じになったのだろう。思わずミーシャは頭を抱えたくなった。


「はぁ…………話しを戻すぞ。私は私の目的がある。それについて来るってことで良いのか?」


 改めて、確認を取る。それは引き返すのならば今の内だぞと言っているようだ。


黒竜(ファフニール)を殺したことで帝国が王国に攻め込んできたとかで責任を感じる必要はないぞ。あんな災害が討伐されたことは父上も喜んでいたからな」

「そうか……」


 感情が制御できる娘だ。喚き散らしても良いくらいなのに――そこでアレ?と思い直す。


「お前……最初にあった頃なんか「そんなの知らんな」……」

「でも「知・ら・ん・な!!」」


 追求しようと口を開けば、全力で魔力を放出して存外に聞くなと脅すミーシャ。シグルドもミーシャが家族を亡くす話しになるのならばと、元に話しを戻す。


「俺は、お前が心配だ。復讐をすることは止めはしない。この世にそんなものはありふれているからな。だが、相手が悪すぎるぞ。相手は国家の頂点だ」

「ふん、私だって無計画じゃないさ。それと、私の質問にまだ答えていないぞシグルド」


 人差し指を突き出すミーシャに一旦シグルドは焼き魚を食べるのを止める。

 そして、しばらくして口を開いた。


「いくよ。お前を守る奴が必要だろ」

「ハッハッハ!!……私はそんなもの必要ないけどな!!お前がどうしてもっていうんなら仕方ない。ああ仕方ない!!」

「はぁ……よく言うぜ。――ってああ!!お前、それは俺の分だぞ!!」

「フハハハハ!!私に一生を捧げるのだろう!?つまりお前の物は私の物、お前の負債はお前の物、私の負債はお前の物だー!!」


 残っていた焼き魚を総取りして焚き火を挟んだ場所に立ち、腰に手を当て、ない胸を目一杯に反らす。

 見た目は愛らしいくせに言っていることは暴虐の限りを尽くす暴君である。そのような暴虐を見て見ぬ振りをするなどシグルドはしない。


「セイヤアァ!!」

「キャアアァ!?何をする馬鹿者!!せっかくの焼き魚に土がァ!!」


 流石はあらゆる武術を極めたシグルド。投石のように的確に土を投げつけ、魚に命中させる。美味しそうな焼き魚が一転、土でドロドロに汚れてしまった。もうこれでは食べることはできないだろう。


「暴虐の限りを尽くす主よ。貴様の過ち――我が身を持って教えてやる」

「よろしい、ならば戦争だ」


 静かな森の中で世界一下らない戦争が幕を開ける。


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