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竜殺し、国盗りをしろと言われる。  作者: 大田シンヤ
第二章
22/124

目を覚ませば

 

 冷たい地面の感触で体が冷えたミーシャは目を覚ました。

 辺りを見渡してここが牢屋だと認識したミーシャは体を動かそうとする。


「――グッ」


 ――が、体を動かした途端に痛みが襲いかかる。まだダメージは回復しておらず、腕も手錠をされているため、這うような動きしかできない。おまけに手錠に加えて魔封じの鎖も巻かれている。

 まだハッキリとしない頭で、あの時一体何が起こったのか思い出す。


 全力で魔力を練り上げ、空中にルーン文字を書き殴った。魔力が込められた文字は、あらゆる物を切り刻む風の刃、鋼すら溶かす炎に、人間のみ追いかけ貫く雷の槍となって黒づくめの女に向かって行く。ここまでは覚えている。問題はその後だ。


 魔術は問題なく発動したはずだった。それなのに、気付けば地面に倒れ気を失っていた。単純に魔術が跳ね返ってくるならば、炎や雷で貫かれた体が原型を留めているのはおかしい。放たれた魔術全てを無効化し、尚且つ反撃をあの一瞬で行なったのだろう。

 認識できないスピードで魔術を行使した女に戦慄する。


「(あんなレベルの魔術師がここにいるなんて思いもしなかった。何がシグルド一人で落とせるだっ……あの女も怪物レベルだぞ)」


 今のミーシャの実力は王国内でもトップクラスだ。これは自惚れでも何でもなく、事実に基づいたものだ。卓越した魔術の才能を持ち、王国の選りすぐりの上級魔術師から知恵を授かり、血の滲むような努力もした。そのおかげで、魔術師の階級試験では最年少で上級魔術師へと上り詰めた。


 そんな自分を軽々しくあしらった女がこんな場所にいるなど思いもしなかった。


「(――くそっ!くそっ!くそくそくそくそくそっ!!)」


 指輪を取り戻せず、捕まってしまった。あまつさえ、帝国の魔術師に手加減をされたのだ。致命傷にならないように、気を失うだけに被害が収まるように……。

 自分が最も得意としている分野で相手に手加減をされ、見下された。

 その事実が悔しく、歯ぎしりを起こす。


 捕まってしまった以上、情報は広まり、処刑が実行されるだろう。

 ――助けは来ない、奇跡が起きること何てない。


 少女は冷たい地面の上で静かに涙を流す。


「ん?――おい、コイツ目を覚ましたぞ」


 途端に周りが騒がしくなる。眼球だけ動かしてみれば、棒を持った男たちが牢屋の鍵を開けている所だった。


「悪いな、お嬢ちゃん……これも命令なんだ。俺たちの質問に素直に答えてくれれば痛い目に遭わなくて済むぞ」


 その言葉にこれから何が起こるかを理解する。

 これから始まるのは尋問・拷問の類い。必死でこれまで生きてきたミーシャに取って何が知りたいのか検討も付かないが、分かるのは奴らが納得する答えを出さなければ、痛めつけられることだけだ。


「さてと、まずは一つ目だ。仲間は何処にいる?」







 大きく出そうになる欠伸を噛み殺す。

 もう既に日の出間近にまで時間は迫っている。この時間帯になってしまったら、ずっと起きていた方がいいなと話し合いの途中にふと思い込む。


「(あ~~~~眠い、寝たい。でも寝たら絶対起きれないわよねぇ)」


 今すぐにでも座っているソファーに寝っ転がって睡眠に突入したい思いを我慢する。若干時間より早く出た方がこの眠気から解放されるのでは?――なんて話し合いそっちのけで本人は思っているのだが、周りの人間そのことにまったく気付かない。

 いかにも話を静かに聞いています。といったような感じを含ませているのは流石と言うべきなのだろうか……。


「それにしても、あの小娘は一体何が目的で潜り込んだんだ?」

「それに関しては、あの娘が目を覚まし次第問い詰める予定ですが、恐らく私たちが回収してきた指輪を取り戻しに来たのではと推測しています」

「指輪だと?」

「……伯爵、コレのことよ」


 ソファーに座ったまま調べた指輪を投げ渡す。投げ渡された指輪は弧を描いてフラメルの掌の中へと吸い込まれていった。


()()()()を取り返しに……」


 その言葉にウルが目を細める。


「言葉に気を付けなさい。それは王国の王族の証であり、秘宝でもあるのよ。あの娘が取り返しに来る理由は十分にあるわ」

「そ、そうでしたか……」


 王族の証と言われてフラメルが納得するような顔をする。ウルは魔術道具(マジックアイテム)の価値ではなく王族の証という点で納得した伯爵が気にくわないようだが、まぁ良いと口を閉じる。


「現在も捜索しておりますが、他に仲間と思われる者はいません」

「何ぃ?たった一人ここに侵入してきたのか?」


 この館には百人以上の騎士がいる。それに伯爵領全てに声を掛ければ、千人は直ぐに集まるだろう。そんな場所にたった一人で?

 グルカ城の時と言い、王国の王女は一体何がしたいのか分からなくなる。


「あの男の報告にあった男は一緒ではなかったのか?」


 ――あの男、この館に不敬にも入り込んできた男を思い出し、顔をしかめながら問いを投げる。


「はい、捜索隊を編制して周囲も探ったのですが、人がいた痕跡は見つかりませんでした。しかし、どうやらリューロント村まで一緒に行動していたようです。宿屋で二人分の部屋を取っており、宿屋の主人に話しを聞いたところ、男から聞いた特徴と一致しています」

「そうか……」


 グルカ城跡地にて王女と接触した一人の男。一週間行動を共にしていたのに何故今行動を共にしていないのかが疑問に残る。


「その男の手配書を作れ、王国騎士の生き残りかもしれん…………いや、陛下に報告する方が先か」


 別々に行動しているのか疑問に残るが、一緒に行動していたのは事実なのだ。王国の騎士であるのは間違いないと判断する。


「(王女を助けるために何か画策している、と考えるた方が良いか……)」


「ノエル騎士団長、警備を通常の倍に増やせ、もうこれ以上侵入されることなどないようにしろ」

「了解致しました…………閣下、周囲に散らばる騎士団をここに集結させてもよろしいでしょうか?」

「――何、何故だ?」


 信頼する部下からの発言にフラメルが眉をひそめる。


「そ、それは霜の巨人を討伐した男が相手では――」

「馬鹿者がっ!!」


 部屋に怒声が響き渡る。


「貴様、あんな与太話を信じたのか?霜の巨人なんぞアイツが少しでも見栄を張ろうとしてだけに過ぎん。そもそも巨人の出現も現代ではまったくないのだ。それなのに、霜の巨人だと?笑わせる……お伽話でしか出たことのない怪物がいるわけないだろう」

「も、申し訳ございません……」


 叱咤を受けたノエルが謝罪を口にする。館に侵入してきた男の話しを鵜呑みにしていた自分を恥じる。

 あの男は自分を竜殺しだと偽って近づいてきたのだ。多少痛めつけたとは言え、アイツの口から出る言葉を何故信用してしまったのか……。


「ふむ、そう考えるのなら……巨人が出たという噂自体が眉唾物であった可能性もあるな。あの傭兵の話しも自分たちのミスを隠すためのものだったのかもしれん」


 綺麗に切りそろえられた髭を撫でながら思考に陥る。

 全く以て巨人など馬鹿馬鹿しい……そんなものただの出任せである。ただでさえ小汚い傭兵や英雄譚に憧れた農民はそれを信じてのし上がろうとするのだから嫌になる。


「――さて、話しを戻すぞ」

「はっ」


 だいぶ話しが脱線してしまったことに気付いたフラメルが咳払いをして切り替える。


「あの王女と一緒に行動していたという男、もし王国の騎士であるならば、必ず助けに来るだろう」

「はい、私もそう思います」

「先程も言ったが、ここの警備は厳重にしろ……それと、検問所にも連絡だ。白髪の男がいたら問答無用で連れてくるようにな」

「はい、直ぐに馬を走らせます」

「良い、下がれ」

「はっ――」


 頭を下げてノエルが部屋から出て行くと、フラメルがウルへと向き直る。


「侵入者を捕縛して頂きありがとうございます。ウル殿。同時にお手を煩わせてしまったことに謝罪致します」

「構いませんよ。それに私が対応していなければ、騎士団にもそれ相応の被害が出ていたでしょう。そういう意味では私の所に来たのは幸運でした」


 何でもないように微笑みをフラメルへと向け、ソファーから立ち上がる。もうそろそろ日の出時間である。


「それではフラメル卿、私はそろそろ発ちますわ。これ以上ここにいてしまったら陛下の呼び出しに遅れてしまいますので……」

「おおっ――それは一大事ですな。では、私の騎士団を護衛に付けさせましょう」

「いえ、申し訳ありませんが結構ですわ。一人の方が気楽ですので」

「そ、そうですか……分かりました。道中お気を付け下さい」

「ええ、それでは……」


 そう言って部屋を後にするウルを見送る。部屋の扉が完全に閉まったのを見届けると、フラメルが疲れたように椅子にもたれ掛かる。


 ウルが手柄を横取りしてくることを警戒していたが、それは杞憂に終わったことに案緒する。どうやら噂通り手柄を立てることには興味がないらしい。

 今頃情報を絞られているだろう王女の姿を思い浮かべる。

 王国領を完全に帝国領にする。その侵略の一役買ったとなれば、自分の名は広がるだろう。そんなかつてないチャンスにフラメルが笑みを浮かべ、椅子に深くもたれ掛かった。


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