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竜殺し、国盗りをしろと言われる。  作者: 大田シンヤ
第六章
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作戦開始2

 

「おーい、こっちだ!!」

「——ったく。何だよ。こっちにいたのかよ。それで、奴らは見つかったのか?」


 男の問いにもう一人の男が首を横に振る。

 貴族区画へと続く通りに立つのは二人の男だ。だが、騎士ではない。帝国の騎士のように統一した装備で身を包まず、自身が最高の実力を出せるように特注した鎧を身に着けた彼らは傭兵だ。

 村から共に出て各地を歩き回り、手持ちが少なくなれば戦い、時には奪うことをしてきた二人。誰に教わるでもなく外に出たので最初は失敗ばかりだったが、実践を繰り返すことで身に着けて行った生き残るための剣術は最早並みの騎士を凌駕する。そして、二人で共に戦ってきたことで息の合った連携は誰にも止めることはできない程だ(自称)。


 その二人がこの街で何をしているかというと当然の如く賞金首目当てだ。

 路銀がなくなりかけていたこともあってか、二人はかなり真面目に捜索を行っていた。


「クソッ。このままじゃあ、手柄を取られちまう」

「安心しろよ兄弟。堅実にいこうぜ」


 焦るぼさぼさの髪の男に無性髭を生やした男が冷静に答える。


「あぁ? 何でそんなに冷静でいられるんだよ。もし、他の奴らに手柄を取られてみろ。盗賊団の時みたいに俺達の名を広める機会がなくなっちまう」


 自分とは違い、余裕をもって佇む相棒に苛立ちを感じた男は僅かに声を低くする。

 当初、この街の近くに住み着いた盗賊団の噂を聞いて手柄を立てようとした二人だが、残念ながら行動するのが僅かに遅かった。

 街で準備に明け暮れている最中、他の傭兵二人組に手柄を横取りされてしまったのだ。

 傭兵の中で得物は早い者勝ちだ。

 なので、遅い二人が悪いと他の者は言うだろう。しかし、しかしだ。自分達が狙っていた極上の得物を横からポッと出てきた者に目の前で取られてしまって何も感じないというのは人間的に無理な話だ。

 傭兵にとって手柄は自分の力を示すもの。

 討伐の難しい魔物、名の通った実力者の首は正に自分の力を世に知らしめるのには丁度良い。

 着実に実力をつけ、これからという所で絶好の機会を奪われてしまった二人の胸の内は穏やかではなかった。


 自分達の踏み台となるはずだった盗賊団を捕まえてきた二人組の傭兵。その内の一人が犯罪者となり、懸賞金まで付けられた今が恨みを晴らす絶好の機会。そう思い、安いボロ宿を飛び出して夜の街を徘徊しているのだ。

 もし、街の騎士や他の賞金狙いの傭兵に先を越されてしまえば、今度こそ胸の内に燻り続ける恨みはどうしようもなくなってしまう。


「ふっふっふ。大丈夫だぜ兄弟。俺も恨みは忘れちゃいないし、手柄を誰かにやるつもりもない。何より、冷静にならなきゃ考えることもできないぜ?」

「ほう。それじゃあ何か名案でも浮かんだのか?」


 試すように問いかける兄弟と呼んだに男が不敵に笑みを作る。

 まるで、その言葉を待ってましたと言うように。


「ふふん、兄弟よ。俺は何時でも冷静だぜ? 今冷静になろうとしているんじゃない。村から出た時も、初めて仕事をした時も、今もずっと冷静だ」

「あぁ、そうかよ。——で?」

「軽いなぁ。まぁいいけど…………なぁ、兄弟。あっちを見ろ」


 無性髭の男がある方向に向かって指を指す。釣られてぼさぼさ髪の男も視線を移す。そこには星が輝く夜景のみがあり、訳の分からない男は怪訝な顔をする。


「おい、一体何なんだよ」

「覚えてねぇのか? あっちはなぁ、この街の命綱である兵糧が保管されている場所。ついさっき情報を仕入れたから間違いねぇ。燃えているのは食糧庫だ。そんでもってここは犯罪者達が使ってたって言われてる酒場の近くだ」


 兄弟と呼ぶ相棒に笑みを向けて男は説明を口にする。


「見ろよ。まるで正反対の場所だ。酒場での一件の後、騎士共は犯罪者を捕まえるために警備を動員して薄く広く網を張ってた。酒場にいない以上、奴らに他の心当たりなんてないからな」

「知ってるよ。だから、俺達も他の奴らも街中走り回ってんだろ?」

「そうだ。だけどよ兄弟。お前はこの状況、何か変に思わないのか?」

「あぁん?」


 意味が分からず眉を顰める男は首を回して辺りを確認する。

 二人以外に人影はおらず、遠くから僅かに騒音だけが耳に届いている。他に分かるのはいつもの夜と変わらない静かな街並みが広がっていることぐらいだ。


「……ん? いつもと変わら——?」

「へへっ。ようやく気付いたか。今ここに騎士団の奴らはいない。何故なら——」

「分かってるよ相棒。食糧庫がやられたからだろ?」

「その通り!!」


 ようやく正解が出たと互いが笑みを作り、白い歯を見せる。

 男達の言った通り、この通りには騎士達の姿はない。本来ならば犯罪者を探すために街を警備しているはずなのに——。


「この街は隣国と緊張状態が続いている。恨みを持ってる輩がちょっかいをかけることも少なくないぐらいにな。ちょっとしたきっかけで戦争が始まっても可笑しくないんだ。そんな緊張状態で大事な大事な兵糧が焼かれたら……」

「確かに。そんなことになったら犯罪者どころじゃねぇよな」


 ニヤニヤとしながら騎士達を憐れむ。

 攻めようと意気込み、犯罪者達を捉えられると思ったにも関わらず罠に嵌り、血眼で探していれば今度は食糧庫を焼かれる羽目になる。

 騎士達処か街の上層部も顔を真っ青にする案件だ。

 重要な拠点だと誰もが分かっているため、恐らく移動させられたのだろう。ここに来るまでに騎士達とすれ違ったことを思い出し、犯罪者たちの考えを予想する。


「それで、だ。兄弟。今度、犯罪者達は何を考えると思う?」

「おいおい、言わなくても分かるぜ相棒。お尋ね者が取る行動何て決まってる」


 帝国は刃を向けた輩や犯罪者を許しはしない。この街で発行された手配書はいずれ帝国全土に行き渡り、犯罪者の顔を知らない者はいなくなるだろう。領土の境界線には厳重な警備が敷かれ、通行する者一人一人を隈なく調べられるはずだ。

 例え、この街から逃げられたとしても追っ手は日に日に増えていき、いずれは疲労した所を捕まえられるだけ。ならば——。


「「可能性が高いのは隣国に逃げちまうことだよなぁ!!」」


 絶対にそうだと二人は確信する。

 ここは犯罪者達が使っていたとされる酒場の近くの大通り。隣国(ヴァルガ)に最も近い出入り口だ。

 今騎士達の注意は燃え上がる食糧庫に行っている。立ち昇る煙の量からしてあれは簡単には消えはしないと予想がついた。

 今、この時——犯罪者達にとっての絶好の脱出の機会がやって来たのだ。


「ふっふっふ。どうだ兄弟!! この俺の見事な推理は!!」

「流石だぜ相棒!! これで、のこのこと現れた二人を捕まえればいいんだろ? なら、早く門の近くまでいこうぜ!!」

「落ち着けよ兄弟。奴らだって馬鹿じゃねぇ。門に警備があることぐらいは承知だろう。まずは、門の周辺に潜伏して様子を見るはずだ。つまり、俺達はその後ろにいるから」

「なるほど、後ろから忍び寄ってとっつ構えるんだな。ヒュー!! 冴えてるじゃねぇか相棒!!」

「バッカ野郎いつものことじゃねぇか」


 声が響かぬように抑えながら笑い合う二人。

 二人の頭にあるのは既に犯罪者達を捉えて名声を手にした姿だ。だが、油断をした訳ではなく、笑い合う時間が終わると直ぐに傭兵の顔つきへとなっていった。

 失敗は許されない。門兵に見つからないように隠れているだろう予想は付けたが、詳しい位置は分かっていないのだ。ここからは自分の五感、そして直感を頼りにして見つけなければならなくなる。

 犯罪者と刃物を持ってかくれんぼを笑ってする程二人はうぬぼれてはいなかった。


 ——最も犯罪者は逃げるものだと考える時点で間違っているのだが、それは仕方がないだろう。


「——あぁ?」

「うん?」


 歩いていた二人が耳にしたのは地面を転がる車輪と馬の嘶き。

 今頃馬車が動くはずがないので騎士が荷物でも運んでいるのかと思っていると、答えは直ぐにやって来た。


「あ——」

「おいおい、嘘だろ!? これは夢か!!」


 現れたのはボロボロの荷馬車に一人の男。

 手綱を握り、石畳の上を爆走させて二人に迫る。


「兄弟ィ!!」

「応よ、相棒ォ!!」


 手綱を握る男は間違いなく手配書に載っている賞金首。白髪が目印の男がそこにいた。


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