あの世とは?この世とは? 生と死は等価値という視点から輪廻転生を想像する
以前から興味があった死後の世界について
書いてみました
三途の川篇は序章といった捉え方で
全体で三部作程に纏めようと考えています
皆さんは死んだ事ありますか?
いや違うな、死んだ事を覚えてますか?
人は皆死ぬ
そしてまた生まれる
仏教では輪廻転生するといわれている
あの世では閻魔様がいて
生前の行いによって裁かれ天国や地獄への行き先が決まるとされている
だが果たしてそれは本当だろうか?
この話の主人公は交通事故で亡くなった48歳独身男『冴木洋二』
イテテ、あのトラック急に飛び出してきやがって
ガッポリ慰謝料請求してやる
まったく全身いてぇよ
まだ3ヶ月しか乗ってないのに、車は大丈夫だろうか
車は?、車は何処だ
というか、ここ何処だ?
何で俺は怪我してないんだ?
冷静になれば全く痛くないし
何でおれは川原にいるんだ?
あれ、何か看板が立ててある
『三途の川で泳がないで下さい』
今どきこんな川泳がないでしょう
三途の川?
三途の川?
何か話で聞いた事あるけど、実在したんだ
というか俺はどうやってここに来たんだろうか?
頭の整理がつかないでいると
30メートルほど離れた所に歩いてる人がいた
小走りで近くと相手が立ち止まってくれた
あの~すいません私は冴木と申しますが、こんな事聞くのも変ですが、私は記憶が飛んでるみたいで、この場所がどこか全く分からないのです
少し早口で一気に話しかけると
60代位の相手の男性は妙に落ち着いた表情をして
わたくしは三途の川管理局の林と申します
あなたのような死んだばかりの人は皆
一度この川原にやってきて、川を渡れば無事にあの世です
死んだばかりの人?
えっ私は死んだんですか?
さっきまで仕事してたのに、こんなにあっさり死ぬものですか
はい、あっさり死ぬものですよ
あなたのように不慮の事故で突然亡くなった方は自分が死んだ事を知らないので驚かれたでしょう
ここはあの世とこの世の境目
今はまだあの世での記憶が戻ってませんが
川を渡れば全て思い出しますよ
にわかには信じがたいが、こんな場所は見た事もないし
トラックが飛び出して来た所までは覚えてるから
確かに死んでしまったのかもしれない
ショックより、元来楽天的な俺はこの状況を半ば他人事のように捉え、少し好奇心さえ湧いてきた
林さん、三途の川はどうやって渡ればいいのですか?
この川原を歩けば橋が見えますので
そこを渡って下さい
橋を渡る際に注意点が3つございます
①橋は無言で渡る
②途中で振り返らない
③前の人を追い越さない
ではお気をつけて
あの、林さん!
もしもそれを破るとどうなりますか?
その質問にはお答え出来ません
まぁしかし死ぬ以上の事はございませんから
ご安心下さいってのも変ですが
ただし一度渡ればこの世(現実世界)には戻れませんよ
橋を渡らなければ現実世界に戻れるんですか?
その質問にはお答え出来ません
まぁ特に戻った所で誰か待ってる人も居ないし
もしも植物人間だと辛いから
まぁいっか
自分の状況に整理がついた俺は川原に沿って歩きだした
それにしても殺風景だな
普通お花畑じゃないのか?
あれは空想でしかないのか
そんな事を考えながらひたすら歩く
もう何時間歩いただろうか
この世界は本当に不思議だ
太陽はいつまでも沈まない
例えるなら延々と秋の夕暮れ時のようだ
今の所
林さん以外の人には出会っていない
死人はもっと多いんじゃないのか
それか、たまたま死人少ないdayに死んだのか?
いやもしかしたらこれは全て夢じゃないのか?
事故も全て夢の話じゃないか
それは十分あり得る
そう考えると、こんなに意識がはっきりした夢を楽しまないのは勿体ないな
そっかぁ夢かぁ
通りでお腹空かないし、喉も渇かないわけだ
林さんてのも、何となく昔の知り合いに似てたし
そもそも三途の川管理局ってネーミングも捻りが無さすぎるよな
自分で夢と決めつけてからは、より一層気楽な気持ちになって
途中年がいもなくスキップしたり、走ったりしながら延々と進んだ
しかし時間の感覚分かんないなぁ
もうかれこれ、24時間位歩いてないか?
疲れはしないものの
単調な景色の中で歩く事に飽きを感じてきた頃
前方に人影が見えた
第一村人発見か?
あの~すいません
走りながら相手の背中に向かって話しかけた
おやっ冴木さんじゃありませんか
林さん!
いつの間に私より先に回ってたんですか?
私は抜かれた覚えありませんけど?
冴木さん私はほとんど動いてませんよ
この辺りが私の担当エリアですので
えっ、そんなバカな事が有るわけないでしょう
なら私は丸一日無駄にしたのですか?
無駄な事はありませんよ
現実世界であなたに生きて欲しいって思ってる人がいると
なかなか橋は見つかりません
そんなものです
橋ってそんな仕組みなんですか!
そんな漠然とした物なんですか?
冴木さん、ここはそういう世界なんです
いずれ橋は見つかります
林さんはそう言って立ち去ってしまった
俺みたいな人間でも死を惜しむ人がいるんだなぁと少し感傷的な気分になりつつ
これは夢にしては、よく出来た夢だなぁと独りで感心して
また歩きだした
更に24時間位は経ったかもしれない
もっとも時間の感覚はあてになならないレベルだ
お腹が空かない、眠くならないと本当に体内時計が分からなくなる
いや、既に体内時計は機能していないな
とにかく夢も覚めないし、じっとしてると途方もなく長く感じるから歩き続けるしかない
俺は歩いた
今までも散歩は好きな方だったけど
今までの徒歩での最長は6時間程だ
これを成し遂げた時には何か達成感があるのだろうか?
夢の出来事だから、他人には自慢は出来ないな
でもまぁ疲れはないし
とことん歩いてみよう
俺は歩いた、ひたすら歩いた
髭も伸びないし、汗もかかない、靴もへらない
この世界には時間なんて存在しないのかもしれない
完全に時間の感覚が麻痺した俺は一生分は歩いた
いや、一生でもこんなには歩かないだろう
その内考えなくても脚が前に出るようになった
惰性で歩き続けてる感じだ
この世界は歩くには最高の環境だ
障害物も何もない
ススキのような植物がチラホラ生えてるだけだ
歩いてると、だんだんと意識が自分の心に向かう
思えばこんなに自分の心と向き合った事は無かったな
もしかしたら今、人生で一番素直になれたかもしれない
歩くという単調な動きの中で
自分の心が透明度を増している事を感じながら
更に歩いた
もはや橋を見つけるという目的はどうでもよくなり
むしろ見つかって欲しくない
夢から覚めたらまた現実か
現実に戻ればこの透明な気持ちは忘れてしまうのか?
何もないのに、すごく充実したこの気持ち
幸福の中でも一番上等な幸福のように思えた
今まで何を忙しなく生きてきたんだろうか
俺は自分と向き合って来なかった
忙しさを言い訳にして他人ばかり気にしていた
いつからか答えの出ない事を考えなくなった
そうして分かったふりをしていた
心の奥では気付いてた
答えは自分の中にしかない事を
俺は逃げていた
他でもなく、自分から逃げていた
この殺風景な世界ですら美しく見える今の気持ち
自分探しの旅ってたまに聞くけど
本当は自分は一番側にいるんだよな
何で今までもっと自分を大切にしなかったんだろう
自分の為の人生なのに、一番自分を放置してた
自分を放置したまま、何を着飾っても本当の満足が得られる筈がないよな
この気持ちがあれば
これからの人生変わる気がする
いや絶対に変えられる
生まれて初めて自分の考えに確信がもてた
俺は
すぐにでも現実に戻りたい気持ちになった
こんな時は頬を叩けばいいのかな?
バシン!バシン!
俺は手加減なしで頬を張った
やっぱり全く痛くない
あ、そっか
夢で頬を張っても痛いわけないよな
あれは現実でやってこそ効果あるんだった
俺って馬鹿だなぁと思いつつ
独りで笑った
大笑いして涙が出た
涙を拭うと目の前には林さんが立っていた
冴木さんお疲れ様です
そう言って目をチラリと川に向ける林さん
そこには
しっかりした石造りの橋があった
本当にあったんだ
そういえば俺は橋を探していたんだった
すっかり忘れてた
林さん
あの、私はどれくらい歩いたんでしょうか
途方もなく長く感じたのですが
この世界に時間や距離の概念はありませんが
現実世界では49日程経過したようです
49日ですか
なんか分かったような、益々分からないような
まぁ変な夢だけど
夢って変なものだから
まぁいっか
では林さん、私は橋を渡りますので
色々ありがとうございました
注意点を守って渡りますね
そう言って俺は林さんに会釈して
橋を渡りはじめた
向こう岸は見えてるが思ったより長い橋だ
幅も20メートルほどはありそうだ
歩き初めてすぐに気付いた
人がいる
何人もいる
後ろは見てないが間違いなく人って気配を感じる
今まで皆どこにいたんだろうか
そんな事を思いながら
注意点を守る事に意識を集中する
見るなと言われると見たくなるのが人間の性だ
俺は無性に後ろを見たくなった
いや駄目だ、林さんに言われただろ
でも死ぬ以上の事は無いと言ってたし
電車内では電話しないで下さい程度の
マナーレベルの話じゃないのか?
俺はそんな風に自分を納得させて
おもむろに後ろを振り向いた
うあぁ~~
俺は思わず叫んでしまった
後ろを振り返ると化け物だらけだ
人の形をしているが決して人ではない化け物
前を歩く人間達も全て化け物に変わっていて
後ろを振り返り俺を見ている
ズルズルと化け物達は一斉に俺に近づいて来た
えっ、どうすればいいんだ、何なんだこいつらは
俺は大声で叫んだ
林さ~ん
林さ~ん助けて下さい
ズッズッ、ズルズル
化け物達は動きは遅いが確実に距離を詰めてくる
林さんが現れた
冴木さん何をやってるんですか
彼らに捕まったら仲間にされてしまいますよ
あの世にもこの世にも戻れない存在に
私はこの場所に長くいられません
この行為ですら始末書ものです
林さんごめんなさい
私はどうすればいいですか
向こう岸まで走りなさい
彼らは向こう岸には行けませんから
さっ早く
林さんありがとうございました
俺は化け物達を振り切るように走り抜けた
そして死んでる設定でこういうのはおかしいが
命からがら向こう岸にたどり着いた
目の前には小部屋が見えた
近づくと自動で扉が開いたので中へ入る
あの世裁判『三途の川篇 完』
拙い文章ですが、読んで下さった方ありがとうございます