社会の縮図
「お、ロールキャベツか。うまいよなぁ」
行きたくもない接待の席でおでんをつついていたら、大分酔っぱらったのであろう、社長が酒臭い息を吹きかけながら話しかけてきた。
「おでんに入ってても美味いですよね」
「おうおう。ってバカ、そういう話じゃねーんだよ」
「はぁ」
「ロールキャベツはなぁ。会社そのものなんだよ」
突然何を言っているんだろうか。
こちらが冷めている反応であることも気にせずに語りが続く。
「いいかぁ、ロールキャベツのうまいとこってどこだ。
キャベツじゃないよな、そしたらただの煮込みキャベツだ。
大事なのは中に入ってる肉、そうだろう?」
「つまりだ。肉が主役であるにも関わらず料理名に肉の字は入ってないわけだ」
それが? とも思ったが確かにその通りである。
わずかな興味を感じ取ったのか、社長は息巻いて言う。
「つまりだ、それは会社と一緒なんだよ!
大事なのは中身、イコール働いているお前たち社員なのに
それが料理名、つまり社名に一切反映されていない!
俺はそれが悲しい!」
あれ、この社長意外といいこと言っているのか?
割とどうでもいい着眼点ではあるが、自分たち社員のことを想って話しているのは分かる。
「お前たちがいるから会社は成り立っているんだ……!
俺はそれをわかって欲しい……!」
熱が入った社長のロールキャベツから始まった秘めていた会社愛、いや社員愛が爆発する。普段はクールな自分も思わず胸が動かされ、食べるのも忘れて話を聞く。
「俺たちはロールキャベツだ! ロールキャベツなりに頑張っていこうじゃないか!」
「社長……!」
「あ、おでんイイッスねー! これ、もらいますね!」
スッと、接待相手の若い野郎が自分たちの席を訪れひょいとロールキャベツを食べていった。
あぁ、こうして会社は成り立っているのか。社長の言うことに酷く納得した。