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6 旦那様とゲーム

 




 今日は、友人の屋敷にお邪魔している。名目は”お茶会”だけれど、昔からの仲良し4人でつどってお喋りしているだけである。ちなみに4人とも既婚者だ。


「良かったじゃない、ロザリー。ウザい小姑の嫁ぎ先が決まって」

「まぁね~。コリンヌ本人は文句タラタラだけど、お義父様が有無を言わせない強硬姿勢だから、このまま嫁ぐことになると思うわ。ハヨ、出てけー! って感じ」

「あはは。相変わらずロザリーは口が悪いわね~」

「あら、ブーメランですわよ」

「イタタタタ」

「おほほほほ」「アハハハハ」

 気の置けない友人とのお喋りは楽しいわ~。そのうち、一人が旦那様の愚痴をこぼし始めた。


「うちの旦那様、最近、娼館通いにハマっちゃってー」

「えーっ!?」「何、それ!?」「フ・ケ・ツ!」

「腹が立つから文句を言ったのよ。『妻の私がいるのに、どうしてそんな所に行かれるのですか?』って」

「うんうん」「それで?」

「そしたらね。旦那様が『妻と娼婦は全く別物だ。お前は男というものが分かってない』とか、ヌかしやがって」

「何じゃ、そりゃ?」「男って、勝手ね~」

「でしょー? 頭に来て『だったら私も浮気させていただきますわ!』って言ってやったの。旦那様ったら慌て始めて、『娼館に行くのは浮気じゃない! 妻に出来ないあんなコトやこんなコトを娼婦にしているだけだ! 断じて浮気とは違う!』ですってー!」


「『妻に出来ないあんなコトやこんなコト』って、どんなコト?」

 思わず、私が口を挟むと、

「気になるのソコかーい!?」

 と、突っ込まれてしまった。えっ? でも気にならない? 殿方って、どんなコトをなさりたいのかしら?

「ロザリーのとこは、まだ新婚だから、さすがに旦那様は娼館に行ったりしないでしょ?」

「うーん、うちのセスト様は人見知りだから、ムリなんじゃないかな?」

「『人見知り』って、娼館に行かない理由になるの?」

「聞いたことないわ~」

「むしろ、そういう殿方の方が”むっつりスケベ”なんじゃないの? 日頃おとなしいくせに、娼婦にトンデモナイ行為を要求したりして~」

「うわぁ~」「ありがち~!」

「えーっ?! そうなの?!」

 びっくりですわー!


 こうして、お茶会は果てしなくクダラナイ話題で盛り上がったのであった。

 ついでに、友人達にオリーブの美容オイルと化粧石鹸を渡し、1ヶ月間のモニターをお願いした。3人とも見事に肌質が違うから、使用感が参考になると思ったのだ。私がそう説明すると、友人3人はニヤニヤしながら口々に言った。

「ロザリーがちゃんと嫁してるー!」

「ウケるー!」

「へぇ~、あのメンドくさがりのロザリーがね~。へぇ~」

 ほっとけやー!



 その夜、私はセスト様に尋ねた。

「セスト様は、娼館に行かれたことあります?」

「はぁ?」

「ですから、娼館に行かれたことは、ありますか?」

「な、ないよ! 何? いきなり!」

「一度もございませんの? ほれ、殿方どうしの付き合いで、仕方なく一緒に行ったとかも含めて」

「断じて、一度もない!」

 ふ~ん、そうなんだ。

「……何で、不服そうなんだ?」

「いえ、セスト様って、私としか経験がございませんでしょう? 他の女性ともシテみたいな~とか、思われませんの?」

「思わないよ! ロザリー! いい加減にしないと、怒るよ!」


 思わないのか~。ふ~ん。私はね、チラッと思ったりしますわよ。他の殿方に抱かれたら、どんな感じなのかしら? なんて。キャーッ! 口に出したら、さすがにマズイわよね。セスト様には内緒である(当たり前だろ!)。

「私はロザリー以外、抱きたいと思わない。娼館なんて行ったこともないし、これからも行くつもりはない。わかった?」

「はい……」

 セスト様は、私を抱きしめる。

「まったく……困った奥方だな」

 う~ん、娼館でのオモシロ話とか聞きたかったな~。でも、ホントに行ったことなさそうですわね、セスト様。やっぱり人見知りだからかしら? えっ? そこじゃない?


「そうだ、セスト様! 今日、お茶会に行って、友人から夫婦で楽しむゲームを教わりましたの!」

「ゲーム?」

「はい。『寝台から逃亡ゲーム』です。10分以内に妻が寝台から降りたら妻の勝ち、夫がそれを阻止できたら夫の勝ちなんですって」

「それ、おもしろいのか?」

「友人の話だと、夫婦でものすごく盛り上がるらしいですわよ」

「よく分からないけど。ロザリー、やりたいの? そのゲーム」

「はい!」


 私とセスト様は、寝台の真ん中に向かい合って座った。

「よーい、スタート!」

 私の掛け声でゲーム開始である。

 私は寝台から降りようとする。セスト様に捕まる。そして再びスタート位置である寝台の真ん中に連れ戻される。セスト様は一旦、私から手を放す。また逃げる私。本気で寝台から降りようとするのだが、簡単にセスト様に捕まってしまう。そしてまた寝台の真ん中へ。私はセスト様の利き腕の反対方向へ逃げてみたり、姿勢を低くしてすり抜けようとしてみたり、いろいろ考えて何とか寝台から降りようとしたが……うーん、これは思った以上に難しいですわね。セスト様は決して大柄ではないし細身でいらっしゃるのに、片手で簡単に私を捕まえてしまう。驚きですわ。


 やっているうちに、私はだんだん悔しくなってきて、全力でセスト様に挑んだ。時計を見ると5分経っている。あと5分あるわ! と思ってセスト様のお顔を見ると、あれ? 何だかセスト様の目が……んん? 欲情していらっしゃるの? あの目はそういう目ですわよね。

「セスト様?」

「ロザリー! このゲームはヤバイ! 逃げようとするロザリーを追って捕まえるという行為が、男の本能に刺さる!」

 はぁ? 何ですの?

「ロザリー! もうムリだ! 我慢できない!」

 何、言ってんだ!

「まだゲームの途中ですわよ! 続けます!」

 私はそう言って、寝台から逃げようとした。が、やはりセスト様に捕まってしまい、そのまま寝台の上で組み伏せられた。


「ちょっと、セスト様! まだ時間が残っていますわ! 放してくださいませ!」

「もうムリだって! これ以上、待てない!」

「制限時間を無視なさるなら、セスト様の反則負けになりますわよ!」

「いいよ、それで! 私の負けでいいから!」

 勝ちましたわ! と思ったのも束の間、興奮しているセスト様はそのまま行為になだれ込んだ。ひぇ~!? 私が勝ったのにー! なぜセスト様へのご褒美みたいになってるの~!?



 後日、このゲームを教えてくれた友人に顛末を報告したら、彼女は、

「ね、盛り上がったでしょ?」 

 と言って、イヤらしく笑った。

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