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4 (自称)愛人現る

 




 ある日のこと。

 私が居間のソファーに座って本を読んでいると、執務を終えたセスト様がいらした。私の隣に座り、甘えてくるセスト様。

「ロザリー、膝枕して欲しい」

「あらあら、セスト様ったら。ふふふ」

 私が膝枕をして差し上げると、セスト様は、

「へへ、気持ちいい」

 と呟いた。私はセスト様の柔らかい髪を撫でる。セスト様が私を見上げながら尋ねた。

「ねえ。ロザリーはどうして私との縁談を受けてくれたの?」

「嫁入りと引き換えにと提示された復興支援金の額が、他家の提示よりも多かったからですわ」

「ロザリー! 正直過ぎるよ!」

 セスト様は口を尖らせる。

「だって本当のことですもの。セスト様こそ、どうして私との結婚を承諾されたのです?」

「私の知らないうちに両親が勝手に決めてたんだ。私は両家顔合わせの日に初めて自分の婚約を知ったんだよ」

「セスト様こそ、正直過ぎますわよ!」

「ハハハハハ」

「おほほほほ」


「でも今は両親に感謝してるんだよ。ロザリーを妻に迎えることが出来て、私はとても幸せだ」

「セスト様ったら」

 私はセスト様の頬を人差し指でつついた。

「やめろよぉ、ロザリー」

「うふふふふ」


 そこへコリンヌがやって来た。

「お兄様! 何ですの、その情けない姿は! そんな女に膝枕なんかされて恥ずかしくありませんの?!」

 相変わらずウザい女だわ~。セスト様も面倒くさそうな表情でコリンヌを見やった。

「うるさいなー。私とロザリーは新婚なんだぞ。膝枕くらい普通だろー? なぁ、ロザリー?」

「そうですわよね~。私たち新婚ですもの」

「ロザリー、私のこと愛してる?」

 セスト様が問う。私はかがみこんで、私の膝を枕にしているセスト様の耳元で囁いた。

「愛してますわ」


 ガバッと起き上がって私を抱きしめるセスト様。

「ロザリー! 愛してる!」

 そう言うと、セスト様は突然、私に熱烈な口付けを始めてしまった。

「お、お兄様! ハレンチですわよ!」

 コリンヌの声を完全に無視するセスト様。スイッチの入ったセスト様は止められませんのよ。キィーキィー言いながら、悔しそうな顔をしてコリンヌは部屋を出て行った。あれ? そういえばここは居間でしたわよね? ちょっとちょっとセスト様! ここのソファーで私を押し倒してはダメですわ! ここは居間ですってばー! 家族団欒の部屋ですわよー! あ~れ~!


 すぐ後に、使用人に呼ばれて駆け付けていらしたお義父様が、セスト様の後ろ頭を張り倒して止めてくださった。セスト様はそのままお義父様に書斎まで引きずって行かれ、説教をされたようだ。ヤレヤレ。

 一方、コリンヌはその日、不貞腐れて自室に閉じこもり、夕食の席にも現れなかった。こちらもヤレヤレである。夕食の席でお義母様がボヤかれる。

「困った兄妹だこと……」

 同感ですわ。お義母様。





  それからしばらくして、セスト様とご両親が揃って外出されていた日の午後のこと。突然、その令嬢は屋敷を訪ねて来た。執事が私のもとへ知らせに来て、伺いを立てる。

「若奥様。ビドー男爵家のご令嬢が若奥様にお会いしたいと訪ねていらしたのですが、お約束もありませんし、いかがいたしましょう?」

「えっ? ビドー男爵家? 私、あそこのご令嬢とは何のお付き合いもないわよ。一体、何の御用かしら?」

「若奥様。それが……あのご令嬢は未婚のはずでございますのに、お腹が大きくなられていて……」

「えーっ!? 何ですって!?」

「とりあえず客間にご案内いたしましたが、いかがなさいますか?」

「うーん、何だか分からないけれど、一応会ってみるわ」


 私は一階の客間に向かった。

「こんにちは。お話しするのは初めてですわね。ロザリー・ベルクールです」

「ビドー男爵家のアンナでございます。突然の訪問をお許しください」

「私にお話があるのですって?」

「はい。実は――――――――」

 彼女の話は要するに、”自分はセスト様の愛人である。お腹の子はセスト様の子である”と、そういうことだった。へぇ~。

「ちなみに今、妊娠何ヶ月でいらっしゃるの?」

「えっ? えーと、7ヶ月です」

 3ヶ月前に結婚した時、セスト様は女性経験がお有りではなかった。初めてどうしで苦労して、やっとこさ初夜を全うしたのだ。


「それでは、私たちの結婚前から関係が続いていらっしゃるということね?」

「は、はい。そうです。もうずっと、お付き合いしているんです」

 ふ~ん、あくまで言い張るつもりね。

「お話は分かりました。2階のお客様用の部屋に案内させますから、セスト様が帰宅されるまで、そちらでお待ちください。あと2時間もすれば戻られますから」

「えっ? い、いえ、私はロザリー様とお話しすれば、それで……」

「何をおっしゃっているの? 貴女、セスト様の子供を身籠っているのでしょう? 張本人のセスト様抜きで話しても、何の意味もありませんでしょう?」

「う……は、はい……」

「もちろん、ベルクール伯爵家当主夫妻にも立ち会っていただきますわね」

「えっ……!?」

 私はさっさと使用人に命じて、目を白黒させているアンナを2階の部屋まで連れて行かせた。私は使用人に、そっと耳打ちした。

「逃げないように、外側からカギをしておいてね」

「はい。若奥様」

 客間で、私とアンナの会話の一部始終を聞いていた使用人は、にやりと笑って返事をした。

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