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3 炎の嫉妬

 




 その日、私とセスト様は結婚後初めて夜会に出席した。

 セスト様から着て行くようにと贈られたドレスも靴も、セスト様の瞳と同じエメラルドグリーンだった。もちろん一緒に贈られた宝飾品もエメラルド。うゎ~、何というグリーン感! 光合成が出来そうである。あまりにもグリーンなので、イヤリングだけ濃いめのピンク色にしてみましたわ。

「ロザリー、綺麗だ」

 私を見て、嬉しそうに微笑むセスト様。

「セスト様も素敵ですわ」

 イケメンである。ホントに素敵なのだ。


 会場に入ると、新婚の私たち夫婦は注目の的だった。婚約期間が3ヶ月という短さだったので、私とセスト様の結婚は「突然の出来事」として社交界では驚かれている。しかもあのブラコンのコリンヌの悪行が有名なので、いろんな意味で私たち夫婦は注目されているようだ。

 結婚披露パーティーに呼べなかった私の友人や知人が、

「ロザリー、結婚おめでとう! 旦那様を紹介して!」

 と集まって来た。人見知りのセスト様は後退りしていらしたけれど。ちなみにそんなセスト様のご友人はもともと少ないようで、今日お会いした方は全員披露パーティーで既にご挨拶した方だった。

 どちら側の友人も、結婚して間もない私とセスト様がラブラブ感満載なことに驚いているようだった。私たちの結婚が政略だということは周知の事実ですものね。


 ファーストダンスを踊った後も、2曲目3曲目とそのままセスト様と踊る。私は15歳で社交界デビューしてからもずっと婚約者がいなかったので、今まで同じ殿方と続けて踊った経験がなかった。新鮮な感じだ。

「ロザリー、疲れただろ。少し待ってて。飲み物を取って来るよ」

「はい。ありがとうございます」


 私が会場の隅でセスト様を待っていると、お兄様の騎士学校時代からのご友人3人が、私を見つけて話しかけてこられた。マティアス様もいらっしゃる。久しぶりだわ。ドキドキしちゃう。

「ロザリー、元気そうだね」

「はい、皆様も」

「結婚、おめでとう」

「ありがとうございます」

 私が3人の殿方と談笑していると、飲み物を持ったセスト様が慌てて戻って来られた。

「私の妻が何か?」

 険のある声を出されるセスト様。

「セスト様、うちのお兄様のご友人ですわ。お3人とも第一騎士団の方でございます」

 私がそう言うと、セスト様は少し肩の力が抜けたようで、

「失礼しました。セスト・ベルクールです。妻がお世話になっています」

 と挨拶をされた。ご友人達もそれぞれ自己紹介をされた。そしてマティアス様はセスト様に向かって、

「私達は昔からよくアンペール家にお邪魔しているんです。ロザリーは私達にとっても妹みたいなものなんですよ。どうかロザリーをよろしくお願いします」

 と頭を下げられた。セスト様は少し驚いたようだったが、

「顔を上げて下さい。ロザリーのことは誓って大事にします」

 と言ってくださった。



 その夜。寝台で、セスト様はいつになく激しかった。どうしちゃったのかしら? 

「ロザリー、ロザリー」

 まるで熱に浮かされたように繰り返し名を呼びながら、私の裸身をむさぼるセスト様。かつてない炎のような情欲をぶつけられ、私は戸惑った。

「ロザリー、もう1回いいだろ?」

 セスト様が苦し気な顔で更に私を求める。

「えっ? は、はい……」

 私は自分の身体の限界を知った。女性は限界が来ると蜜が枯渇するのですわね。初めて知りましたわ。


 翌朝、私は起き上がれなかった。そんな私を見てセスト様は申し訳なさそうに、

「ロザリー、すまなかった」

 と、おっしゃる。

「セスト様、昨夜はどうされたのです?」 

「ロザリーが他の男と楽しそうに話していたから……その……悔しくて。貴女は私の妻なのに」

 はぁ? ヤキモチですの?

「すまなかった……嫉妬深い男で失望した?」

 セスト様は不安そうに私に尋ねる。

「いいえ。でも嫉妬などなさる必要はありませんわ。私たちは夫婦ですのよ」

「……うん」

 

 その日、朝食も昼食も寝室で取った私を心配して、お義母様が様子を見にいらした。

「まぁ……」

 午後になってもぐったり寝台に横たわっている私を見て、お義母様は、

「セストのせいなのね? ロザリー、ごめんなさい。大丈夫?」

 と心配そうに眉を寄せておっしゃった。何せ首までキスマークだらけである。昨夜のセスト様の激しさとしつこさが一目瞭然であった。恥ずかし過ぎますわ……。私は心の中で羞恥に悶えながら、

「大丈夫です」

 と答えた。お義母様は、

「セストにはきつく言っておくわ。まったく、妻にこんな無理をさせるなんて……」

 とセスト様に憤慨されていた。

「ロザリー、ゆっくり休みなさいね」

「はい、ありがとうございます」


 その後、セスト様はお義母様から相当怒られたようである。午後遅く、ようやく動けるようになった私のもとにいらしたセスト様は、力なく項垂れていた。

「ロザリー、本当にすまなかった。独占欲に駆られて抑えがきかなかった。もうあんな無茶なことはしない。許してくれ」

「セスト様、そんなにお気になさらないで」

「ロザリー、私のことが嫌いになった?」

「いいえ、そんなことはありませんわ」

「母上が『妻に無理をさせる男はサイテーだ。そのうち妻に捨てられる』って……」

 そう言って涙目になるセスト様。

「ロザリーは、私を捨てる?」

 今にもセスト様の目から涙がこぼれそう。お義母様ったら、どれだけセスト様を脅かしてしまわれたのかしら?

「私はセスト様とずっと一緒にいますわ。夫婦ですもの」


 セスト様は私を抱き寄せた。

「私はロザリーが好きだ。ロザリーは私のことが好き?」

「好きですわ」

「ホントに?」

「ええ」

 そう言って、私はセスト様の頬にキスをした。セスト様の顔がパァ~っと明るくなる。うふふ、可愛い私の旦那様。


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