そして僕の喉元を君が愛撫する
多少暴力表現・シーンが含まれる予定です
ホラーサスペンスに挑戦しています
<追想>
あれはいつだっただろうか
そうだ 僕がまだ小学生の頃だ。
家族で正月休みを利用してスキー旅行に来ていた時。
元々風邪ぎみでセキが残っていたのに、せっかくの予約はもったいないからと何となく連れてこられてしまった。
移動の初日は無事やり過ごせたが体調は最悪で温泉もバイキングもちっとも楽しめなかったのに。
とまらないセキと熱っぽくなっていくのを悟られまいと我慢して、ゲレンデまでたどり着いたまでは良かったのだが
みんなが楽しそうにスキーに興じる傍で僕の体調はどんどん悪くなっていった。
兄貴が気が付いて騒ぎ出した頃には高熱と胸の苦しさで立ち上がることもできなくなってしまっていた。
担ぎ込まれたスキー場の診療所に救急車が呼び出され、
遠巻きにギャラリーが見守る中、毛布にくるまれた僕は地元の大学病院に運ばれていった。
「肋膜炎を発症しています。こんなになるまでどうして放っておいたの!?」
年配の女医はレントゲンを見るなり両親に噛み付いた。
「肺炎も起こしてます。チアノーゼが始まってる・・左の肺に穴を開けます!!準備して!!」
あわただしく看護婦さんが走り回る診察室の隅っこで両親は縮こまっていた。
僕といえば朦朧とする意識と息をするたびにこみ上げて来る絶えがたいほどの息苦しさで、あれは正しく死に体といった感じだったのだろうか
目の前に運ばれてくる色んな道具や耳障りな物音さえ、どこか別世界の出来事が繰り広げられてるように実感がなくてうっとりとしていた。
ともかく必要な処置がなされたのは薄々覚えている。でもどんなだったかはっきりしない。
「・・・かなり重症の肺炎に・・ウイルスの・・・」
息苦しさはちっとも収まらない。
呼吸器のマスクが食い込んで痛いのに動かすこともできない。
「残念・・ 今夜が峠に・・かも・・ さい・・」
そうか・・僕死ぬかもしれないんだ・・・
実感は全然わかない。だけど医者が死ぬかもしれないといっているのなら僕はきっと死ぬんだろう。
漠然とした頭に恐怖がこみ上げてきた。
どうしたらいいんだろう。どうしてこんなことになったんだろう?
耳元に響いてくる機械の電子音、例えばこの音が止まったら僕の命は終わってしまうんだろうか
「つれて帰ります!!」
母さんが泣きながら怒鳴った。ショックで動転してしまったのだろう。
「つれて帰って家で死なせます!!家に帰して!!!」
「お母さん 何言ってるの!!」
「お願いします! あの子を起こしてええっ」
部屋に怒号が飛び交い父さんの詫びる声がそれに混じる。
こんなところで喧嘩しないで
お願い喧嘩しないで
僕はここにいるんだぞ? 苦しいけど生きてここにいるんだ
やるせない気持ちに涙が溢れてきそうになるなかで思う。
死神が迎えに来る
もうすぐ僕を連れにやって来る
どこかで待ち構えているのかもしれない。
姿を見せずに僕の死んでいく様を待ち構えているに違いない。
誰か助けて・・・!
その姿をふと見てしまいそうで
手を伸ばして救いを求めようにも動かすこともできない。
助けて 助けて 助けて
そして僕は気を失った。