一日目(1) 吾輩はロリコンである。
黒猫が死んだ。トラックに轢かれて……。
後々警察と救急車が直ぐに来て、救急車はトラックの中にいた男を担いで運ぶ。
警察は、猫を抱きかかえた俺の肩をたたき、道沿いに連れていく。
「首輪がついてなかったけど、これこの子のかな?」
そう言われて俺は静かに頷く。
赤色に汚れた赤リボンを俺に渡し、去っていく。
その後のことは、余りよく覚えていない……。
賠償やら、運転手は無事だとか、そんなこと。
猫の処理がなんとか話していたが、こっちでする事になった。
不満があるわけない、そっちの方がいい。
だって俺の家には……。
――昔、小学時代、母から聞いたことがある。家には、先祖の遺品があり、その中に《蘇りの書》があるという。
小さい頃の俺は現実的で、そんなもの、これっぽっちも信じてはいなかった。俺はあきれ顔で、目を輝かせる母の話を聞いていた。それは悪魔で〔その時は〕である。
そんな中二病的な話を信じるときは直ぐに来た。俺は話を聞いていて、心当たりがあった、てか、思い出した、そう俺の部屋の押し入れにある書物のことだ。
もっと俺がが小さい頃、それを開こうとしたのだが、何故か硬く閉ざされていて開かなかった。負けずとカッターで開こうとするが切れもしない、俺はあきらめ、そのまま忘れかけていたのだ。
母の話を聞いて思い出した。
この話を母に聞かせると、顔を赤く、目をより一層輝かせ、はぁはぁと息を荒くして俺の部屋に走っていった。
俺もやれやれと母を追いかける。部屋が光り、部屋に入ったはずの母の姿は跡形もなく消えていた。
俺の部屋に入る所までは見たのに、入ってみると誰もいない。
窓も開いていないし、隠れる所なんて無い。それに足元には例の物、開かなかった本が開いて落ちていた。
その中の文字は汚れているのか、ぼやけていて、読めたもんではない。
それよりも母が消えたことに、膝が崩れる。俺が泣きそうになっているとき。
「お~い こっち、こっちにいるわよ~」
どこからか、気の抜けた、うざくて優しい母の声、そして俺はあり得ない光景を目の当たりにする。
「机の影に若い…… 否! ロリがいる!!」
――母は若返っていた。
その後、十分程度で元の姿に戻った。
ずっとそのままでいればいいのに……。
――いや、だめだ!親に欲情なんて、できない!!
そう心で叫んで俺は幼女を撫でていた手をはなす。
「ずっと鼻の下のばして、頭を撫でていたのにぃ~?」
くっ! だが今の姿ではそんな上目遣い効くわけがない。
まぁ、でも元に戻ってなんなりだ。
なんなりだ……。
《蘇り》ではないが、若くなっていたことは事実、あの本は、モノホンだ。
あの後、母に何が起こったのか聞いてみたところ、
『今は見えないけど汚れていた所が見えててぇ~ それを読んだら光ってぇ~ ピチピチにぃ~ なっちゃったのぉ~』
今もそうだけど~ なんてことを付け加えて去っていったが、凄いと思った。
俺は他の本を見てやろうと思い、開こうとするのだが、結果はダメ、母にも開かせて見せるのだが、これもダメ。
今、母が持っている《若返りの書》はもう閉じてあり、俺には開けない。母は開ける。
仕組みがよく分からない。
まぁ、その後母が若返ること無かったので、そのまま放置していたが数日後、一冊面白いのを見つけた、《病気改善の書》それだけは、俺が開くことができた。
内容は、
――まず、シートを敷きそこに座り、足を開いてそのまま背中を丸めていきましょう。
このときに息を吸い、体を戻すときに吐きましょう。 これで体が暖まってきましたね。 それではまず、便秘をなおす――
「「ヨガじゃねぇか!!」」
声が部屋に響き渡った。
うん、これヨガだよね、ヨガだよ!! おい途中までやっちゃったよ。 確かにね、健康的でいいかもしれない、でもそれを、こんな古びた書に記すな!!
まぁ、途中でやめるのは、スッキリしないものなので、一応最後までやった。
すると、あら不思議、体が光り、疲れがとれ、お肌がツヤツで、お腹まわりが……ってまだ若いから、そうでもないぞ!!
達成感があったが、腹が立ち、俺は手に持っていたソレを元あった所へ投げ捨てた。
なんてことがあったのだ。
今こんな時にそんなこと思い出してる暇ではない!! と思うかもしれないが、昔、母から聞いたワード、《蘇りの書》が必要なのだ。
それは押し入れの中にある。
俺はこれが本物と信じている。だって母が若返った、それだけでも凄いと思うのだが、
なんとこの五年間俺は、病気になったことがないし、周りがよく騒いでいる、ニキビなんて見たこともない。
俺はちいさいころは、病気になることが多かった、だが一般的に見えるヨガをやってから、体は元気で、体育でも学年ではトップ三位には、入るぐらいだ。ヨガをやらなかったら、こうはいかなかった、……と思う。
まぁとにかく、母が若返ったことだし、本物間違いなし。
なので、俺はこの猫を蘇らせる。猫には幸いにも打撲などはしているものも、体が真っ二つに吹き飛んでいる。なんてことはない。これなら元に戻るだろう……
俺は猫を抱えたまま、家に入る。
外がまだ 少し騒がしい。
さぁ、探すぞ! っというところで
――パァン!!
後方にドアを思いっきり開ける音ではなく。
銃声
この町では珍しくも無い音が聞こえるってことは、
「ダメじゃないのぉ、なつのん~ そぉんな怪しい書物なんか使ってぇ、なにするきなのぉ」
振り向いた先に婦警の格好をして、拳銃を手に持つ女性、母に似た優しい声色。何もかも見透かしていそうな細い目
「そんなボロ猫捨てて~、飼うなら新しい猫を飼いなさぁい」
そんな優しい声で酷いことを言う、勿論この人のよくある冗談だって慣れで、分かってはいる。でも腹が立つ。
この女は、近所に住んでいる俺の従姉の大花麻衣。
通称――マリファナ、良い名前に感じてはしまうが、大と花を引っ付けてやれば、《大麻》 性格だって……。
この人の性格は悪い、悪いと言っても悪ノリが過ぎるのだ、根はいい人なのだが、どうも発言と行動が爆発的だ。
現に、この人、銃を軽々しく撃ちやがっただろ? 銃声が鳴り響いているが、別に気にすることはない。
先程も言ったように、この町では銃声なんて珍しくも無い、銃声が聞こえたとしても「あら、麻衣ちゃん、何かあるの?」って、興味心身に聞いてくるだけだ。
町での評判はよく、老若男女とわず人気者である。銃口を人には向けないものも、天井に穴が空くからやめてほしい。
そしてもっと怖いのは《俺のことを知りすぎている》ってこと。
昔、俺が家出をしたときは、麻衣ねぇがいっつも迎えに来る、家出開始3分で捕まる、自転車に乗って遠くに行ったのだが絶対先にいる。
ずっとスタンバっていました、と言わんばかりに。
まぁ、色々な意味で恐ろしい奴である。多分ここにいることも、何をしようとしているのかも、知っている。
会いたくなかったが、会ってしまったなら仕方がない。俺は、麻衣ねぇの冗談を軽く流して
「麻衣ねぇ、何しに来たんだよ、……どこまでしってるんだ。」
いつも何かを見透かしていそうな、穏やかな糸目にを睨み付ける。
「そんな怖い顔しないでよぉ。私がぁ、なんでもしってるとでも~」
いやぁまぁ、なんでもは知らなくても、現に俺の行動を把握してここまで来ているじゃないか。
「とにかく俺にはやることがある、出ていってくれ。」
いつもそう言ってやると『思春期だものねぇ~』なんて訳の分からないことを言って帰ってくれるのだが――
「だめよ、そんなことをしても無意味だから」
見たことも聞いたこともない真剣な顔と口調で、麻衣ねぇは言った。冷たい声。……空気が固まる、静かだ。
「無理なのよ、その猫を生き返すなんて、出来っこないわ。」
「出来ないことねぇ!! この書物があればこの猫は行きかえる!!」
俺は久々に怒鳴った。手に持った猫を畳の上に置き、押し入れに入っている、《蘇りの書》を手に持って開く。
「ほら、みろよ開かなかったのに今じゃ開く。本当にそうしたいと思ったら本は開くんだ。ほら、猫も光って……」
猫の体が光ったが動くことはない、俺が目に見て分かったことは、すでに引きちぎれそうな尻尾、体の傷。腕や足、ボキボキに折れていただろう所が完治している、元に戻ったみたいだ。……体の中身までも。
「なんだよこれ、何で生き返らない! あってるはずだろ!!」
おかしい、書物には《蘇りの書》と記されていた、間違ってるはずは……
「それがぁ間違ってるのよぉ、それは、蘇りと言えども、《元に戻す》に近いからねぇ」
口が閉じない、驚きに……。
「私もねぇ、両親から貰ったぁ、大事なぁ櫛を壊しちゃってね
ぇ、その書物、使っちゃったのよぉ。私の考えでは蘇りなんてあるわけがないってねぇ、思ってねぇ、使ってみたら案の定《形を蘇す》だったのよぉ。だってぇ、そんなぁ、生き返る本なんてあったらぁ、ご先祖様もぉ、今まさに、生き返ってるだろうしぃ、ねぇ。」
……てことは、猫を蘇させることは出来ないってことか、短い間だったが、久しぶりの家族だったんだ。
そんな、俺は……
「ふざけんなよ! 何が形を蘇すだ! そんなの意味がねぇ! 生き返ってくれなきゃ意味がねぇ!」
俺は手をグーにして畳を八つ当たりに、思いっきり叩く、勿論、傷が付くわけがない。
壊れるわけが……
――ガコッ
なにかが外れる音、埋る手
「……なっ、どういうことなの!? それは決してあり――っ!
麻衣ねぇが目を開いて驚く、こんな目は麻衣ねぇが本気で怒った時限りだったのに。
「《蘇りの書》? どうしてここに……」
俺が呟き、畳の下にあった書物を手に取る。
ははっ……こんなところにあったじゃないか、《蘇りの書》が!
「まって! おかしいわ! だってそんなの――
麻衣ねぇが何か、言っているが俺の耳には入らない。ほら、本と猫が光っている。ついに……。
「むにゃむにゃ。ん?なんじゃ、ふわああぁ、よく寝たぁ」
光が消え、猫がいた所にソイツはいた。そしてシリアスな雰囲気をぶち壊す。
「……ロ、リ?」
えっ?ナンデ?ヨウジョナンデ?、訳がわからなくて幼女を称する、ロリという単語を言ってしまった。俺の隠してきた性癖を従姉と、目の前の裸幼女に、……猫耳幼女に晒してしまった。
訳もわからなく、そっと頭を抱え体を縮める俺をみて、きれいな黒髪幼女は、一息すって、
「吾輩は、ロリである!!」
っと、身長に似合った、あるはずのない胸を張って叫んだとさ。
後ろからは、驚きと呆れの混ざった、これまた本人からは聞いたことのない、深いため息が耳に入った。
最近近所の猫がすごい声で鳴きます。
秋を感じます。