馬耳東風
人の意見や忠告を聞かず、全く効果がみられないこと。
石膏人間に怯えて腰を抜かしている茉莉菜ちゃんと、ネコくんを庇うように抱きしめているあかりちゃん。向こうは「裏」の者だから多分相当な手練れだろう。戦力差は目に見えている。
この光景を目の当たりにした俺が思ったことはただひとつ。
「えっと……実写版石膏●ーイズの撮影か何かかな? ボーイというよりおっさんだけど」
『じっしゃ……? 何を言っているのか分からんが、儂の馬に気安く乗るな若造が』
自分の馬? なるほど、このおっさんがフルングニル的ポジションなわけね。
石膏ボーイならぬ石膏マンなおじさまは、自分の馬をとられたのが気に入らないらしく、剣先を俺に向けてきた。
剣、というか……金属というより石のようだ。大理石みたいに綺麗な石。なるほど、石膏マンのおじさまにはぴったりの武器だ。
鎧だってよく見ると成る程石っぽい。金属みたいに光沢があったから気づかなかったや。
「自分の馬っていうけどさぁおじさん。この子が俺のこと気に入ってくれたんだから仕方ないじゃん」
『馬は道具だ。道具が主を選ぶものか』
「そーゆー高慢なところが嫌われたんじゃない? それにおじさん、馬が乗せるには重そうだし」
石って軽石じゃない限り結構重いしね。石膏はそうでもないけど。
『ふん、まあいい。この儂に刃向かったことを後悔するんだな、小僧』
「高校の時以来だなぁ。石膏像の額に『肉』って書くの」
力で押さえつけるタイプの人間は、「裏」にもいるようだ。徹底的に懲らしめてやろう。
おじさんが踏み出したのと同時に馬が飛び上がる。さすがはさっきまで相棒だっただけはあって、相手方の動きは手に取るように解るみたいだ。
パカラン、と気持ちよく着地した馬を睨むおじさんに一瞬怯えてたけど、首をさすって気持ちを伝えると、落ち着いたのか姿勢が良くなった。
「おじさん、ひとついい? おじさんはどうして反乱に参加してたの?」
『ジンが気に入らなかったからひと暴れしてやろうと思った。ただそれだけだ』
「へぇー」
体を引き締め、首に寄せる。
ニヤッと笑い、あからさまにおじさんを侮蔑した。
「じゃあおじさんは、いわゆる雑魚だったんだ?」
『はっ……!?』
茉莉菜ちゃんは目を丸くしているけど、ネコくんは不安げに冷や汗を流すだけ。俺の本性知っちゃったもの、当然の反応だよね。
「だってそうっしょ? ただ暴れたかっただけとか、大した目標もなくただお祭り感覚で参加したってことじゃん? 実にくだらない動機だよ」
結構危ない橋渡ってるけど、これがまたスリリングで楽しい。病みつきになりそうだ。
挑発に乗ったおじさんは、石の剣を俺に向け斬りかかる。でもそこは馬がフォローして避けてくれるから楽なものだ。なんせ後は動きやすいように力の入れ方を工夫するだけでいいんだから。
右から来たら左へ。
左から来たら右へ。
後ろ、前、上、下。
踊ってるような感覚で避けるから、こっちは割と楽しい。今なら隙だらけなんだからネコくんたちを狙えばいいのに、強欲なおじさんは俺しか眼中にない。
『ほらほらどうした? 避けてばかりではこの儂を倒せんぞ?』
その発言のせいで、すっかり興ざめする。
所詮雑魚は雑魚ということか。おじさんにはひどくがっかりする。これならまだ、高校襲撃事件の赤い子の方が面白かったよ。
「全く、おじさんにはがっかりだよ」
『がっかり? 何故儂がそんなことをーー』
「だってさ、」
始まった時から、勝負は決まっていた。
このおじさんの敗因は、その高慢で強欲な性格を改めなかったこと。ただそれだけ。
「巨人フルングニルは、雷神トールに殺されるんだよ?」
刹那ーー
おじさんの石膏頭が粉々に砕け、肉片の代わりに辺りにパラパラと散らばった。
ガシャンと倒れた、おじさんだった石膏像。その背後に、軽やかに着地した人物がいた。
「雷神? アタシはそんな大層なもんじゃないよ」
メタリックお姉さん。
彼女の手には、竹刀大の柄に自販機の半分くらいの頭部がある鉄製ハンマーが握られていた。ハンマーの口には石膏の破片が付着している。
「アタシは徳川類。ただのキリアさ」
ネコくんの目が、見開かれた。




