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人間万事塞翁が馬

世の中、何が幸いして何がわざわいとなるかわからないということ。

俺に相談すると決めたらしいあかりちゃんは、淋しそうな微笑みを浮かべながら、やや俯く。




「私……自分が怖いんです」


「怖い?」




はい、と頷くあかりちゃん。



だいたい予想はついていたけれど、初めて知ったみたいなリアクションをして話を促す。




「ネコさんがうちにいらしてから、毎晩……ネコさんを殺す夢を見るんです。今だって、ふとした拍子にネコさんを殴り殺したくなることがあって……ネコさんには、なんの恨みもないのに」




やはり。彼女の別の顔が、あかりちゃんを蝕んでいるようだ。


このままでは人格を乗っ取られ、本当にネコくんを殺しかねないな。




「どうしてこうなったのか、私にもわからないんです。……自分が何をしたいのか、自分のことなのに、何もわからなくて……」


「……あかりちゃん……」




言うべきだろうか。



俺は彼女の正体について既に検討をつけている。けれどもそれはまだ憶測の域を出ない。下手に告げたら今後彼女がどういう行動を取るかわかったものじゃない。



表向きだけでも、気休めでもいいから、ここはあかりちゃんを励ますしかない。


口を開けようとした瞬間、後ろからドンと誰かにどつかれた。




「チッ……お前ら邪魔」




高くも低くもない中性的な声質だけど、多分女の子だ。


彼女の髪は手入れしていないのかボサボサで、焼き海苔に醤油をぶっかけたみたいな色だ。肌は白いけど目は茶色。細身の身体にジャラジャラしたメタリックな服装が痛々しい。その上竹刀でも入ってるらしい細長の袋を抱えている。



その竹刀袋がよっぽど大事なのか、トイレの中へ姿を消すまでずっと抱えっぱなしだった。




「……なんだか、近寄り難い雰囲気でしたね」


「そうだねぇ。相手にするのも面倒そうだし、そろそろ戻る?」




あかりちゃんの苦笑いを、俺は肯定と解釈した。














「あ、アッカリンやっと戻ってきた!」




戻ったら、茉莉菜ちゃんが何やらご立腹だ。あかりちゃんも反射的に「ごめんなさい」と謝るが。




「アッカリンは悪くないよ~! 聞いてよ、ほんとにムカつくんだよ~!!」




錯乱状態だったネコくんは正気に戻ってて、困ったようにオロオロ狼狽えている。俺たちが席を離れている間に何かあったらしい。




「えっと……何かございましたか?」


「それがね! メタリックお姉さんが通りかかったかと思ったらさ、目が合った途端に嫌そうな顔したの! 自分は鎖ジャラジャラさせてるくせに見られたら舌打ちとかおかしくない!?」




あまり大声で話すと周りにも迷惑だし何より本人に聞こえるのではと思ったけど、茉莉菜ちゃんは特にそんなことなど気にも止めていないようである。



メタリックお姉さん……ああいう目立つのが流行ってるのかな。




「しかしあれは茉莉菜ではなく私を見ていたように思えたのだが」


「にしたっておかしいよ! ネコくん次会ったらガン飛ばし返しといてね」


「うむ、断る」




デスヨネー。



ネコくんの精一杯の笑顔が、逆にどれだけ嫌がっているのかを物語る。ここに灯夜がいたらどうなっていただろう?




『間もなく、トミタ、トミタに止まります。お降りの方は忘れ物のないようご注意ください』




車内放送が流れたけど、俺たちの向かう先は終点の千耳(せんじ)市だ。ちらほら支度してる人もいるけれど、俺たちのメンバーは誰も気にしない。



ところであのメタリックお姉さんはどこ行くつもりなのかなぁ?




『Ladies and gentlemen,this Super Aoブツッ……aElect……ain…will ……ガガ……Tomi……』




音声の接触が悪いのか、英訳放送が聞き取り辛い。過去に何度かこの電車を利用したことがあるけれど、ここまで酷い状態になったことは一度もない。


不気味な放送に、周りも少しだけざわめきだした。




電車内に緊張が走る。


嫌な予感がして、咄嗟に座席の背もたれを掴んだ。




前の席に座っていたらしき子供が、「ねぇパパ、今のえーご変じゃなかった?」と発言した直後。




突如ーー岩肌に乗り上げたかのように車内全体が縦に揺れた。

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