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口の虎は身を食む

うっかり口を滑らせると身を滅ぼす事もあるということ。言葉には気をつけよう。

霧雨、怖い。




「……すみませんネコさん。私が口を滑らしてしまったばっかりに」


「霧雨怖い」


「さっきからそれしか言ってませんよ?」




霧雨怖い。




「昔のあだ名は『トイプードル』だそうで、学校では結構髪のことでいじられてたみたいですよ。今は大分落ち着いた方らしいですけど」




随分と可愛らしいあだ名をつけられたようで、と笑うあかり。私に余裕があったなら、お前も可愛いと返したい。




「あーでもさぁアッカリン、プードルって濡れたらチリッチリになるって知り合いのトリマーさんに聞いたんだけど」


「……霧雨さんも、雨の日は大変だったそうですよ」


「稲垣●郎か」




雨の日に爆発した頭の霧雨を想像し、吹き出しそうになった。名は体を表すとは限らぬものだ。


2人のおかげでようやく正気に戻った私は、茉莉菜が洗ってあかりが拭いた食器を棚に戻している。前にも似たようなことがあった気がするが、これが世に言うデジャヴュというものか。



ソースやらケチャップで汚れていた皿は魔法の泡でピカピカになり、水気を取れば元の真っ白な姿になる。茉莉菜は料理も後片付けも見事なものだ。将来は良きパートナーに恵まれることであろう。




「やぁ☆ はかどってる?」




不意に背後から霧雨が声をかけてきたので思わずびくりと跳ね上がる。まだ恐怖が抜けきれていないようである。




「あ、霧雨さん! 就寝前のて……ヘアセットはできましたか?」


「うん、ばっちり♪ ところで茉莉菜ちゃん、今なんて言いかけた?」


「な、何でもないでーす!」




笑って誤魔化していたが、霧雨の目は冷たい。恐らく「天パ」と言いかけたのだろうということくらい私でもわかるのだから、この男に分からぬ合理もないだろう。



類は友を呼ぶものだ。いちいち言葉をえらばなければならぬとは。この男の場合は「天パ」と「クルクルパー」のみだから、まだやりやすい方だ。




「ただいまー」




そこへ助け舟なのかよく分からぬ兄者が帰宅した。いや、寧ろ悪化したか。




「お帰りなさいお兄様! ごはんにしますか? それともお風呂?」


「ん、とりあえず何か食べたい」


「わかりました。すぐにお出しします」




新婚か。




「微笑ましいねぇ。新婚みたいで」




しまった、うっかりこの男と同じ思考回路になってしまった。




「ところでネコくん。君電車って知ってる?」


「電気で走る汽車のことであろう?」


「そ。でもその言い方だと、乗った記憶はないんだね?」


「……ないな。知識としてなら知っているのだが。確か明日乗るとか言っていたな」




そうだよ♪ と弾む声で答える。




「じゃあネコくんは、初めて電車に乗るんだ?」


「恐らく、な。『裏』に電車があるとも思えぬし」


「……楽しみ?」




踊るように弾む声だ。まるでわらべの発想である。


だがしかしどうだろう。実のところ私の胸は今まで考えられないくらいに踊り狂っている。楽しみではないと言えば嘘になる。ここで嘘を吐いて何になるか。


今くらい私も無邪気になってしまっても罰は当たらぬだろう。




「誠に楽しみだ。今日は早めに寝なければ」


「あ、そういえば()()()()な時間……あ」




霧雨、後で覚えてろ。

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