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猫は虎の心を知らず

小人は大人の気持ちがわからない。

「もしもし、パパ? おはよう。そっちはどう? アメリカの生活には慣れた?



……うん。私は大丈夫。学校は休みになっちゃったけどね。もうわけわかんないよ。一体世界で何が起こってるんだろうね。



……コウモリ? そういえばそっちではすごいんだっけ。パパも気をつけてね。そっちはただでさえ治安が悪いんだから。スラム街なんか行っちゃダメだよ?



……わかってる。お盆にはパパの分もママに挨拶するから。パパはそっちで日本の方角に祈ってて。



……うん。ごめんね忙しいのに。パパも元気でね。それじゃ」




燐火ちゃん騒動のあったその日の夕方、買い物から帰ったら茉莉菜ちゃんが携帯でお父さんに電話をかけていた。


そういや出張でケンタッキー州にあるルイビルってとこに行ってるんだっけ。あのフライドチキンの本社があるって有名な。




「茉ー莉菜ちゃん♪」


「あ、お帰りなさい! えっと……」


「霧雨」


「あっ、き、霧雨さん! 何かいいものありましたか?」




俺と彼女はご近所さん。だけど彼女にとってはたまに見る人ってだけだから、あまり印象に残っていないみたいだ。



一人暮らしの茉莉菜ちゃんが心配で灯夜たちも巻き込んで俺の家に招いてみたけれど、思ったより警戒されてなくて安心した。




「お父さん、ケンタッキーだって? 8月に日食が見られるなんてラッキーじゃん」


「そうですね。そこだけちょっと羨ましいです」


「日本じゃ見られないからねぇ。なんせ日の出のタイミングが悪いから。日出ずる国ならもう少し日の出が早くてもいいんじゃないかなぁ?」




俺のジョークに、クスッと可愛らしく笑う茉莉菜ちゃん。




「霧雨さんは、日食見たいんですか?」


「見たいねぇ。できれば海外旅行も行きたいなぁって思うけれど。ほら、探偵っていつ依頼入るか分からないじゃん?」


「行けばいいじゃないですか。Twitterとかで休みますって宣言して、さっさと行っちゃいましょうよ」


「無理無理。依頼者の中にはそういう機械に疎い人もいるんだから」




時代の流れに乗れない人間はいつだって存在する。そういう人間は排除していくときりがないので、相手に合わせてやった方が圧倒的に効率が良い。



現アメリカ大統領はそれを理解しようとしないきらいがある。おかげでアメリカは今じゃ世界一の先進国の面影は見るも無残に打ち消され、数ある発展途上国を差し置いて治安が悪い国ワーストワンに輝きつつある。



G7から世界的に有害なアメリカを排除する動きもあるし、このままだと土地だけがやたらと広いあの国は先進国から発展途上国へと逆戻りするだろう。

全く、アメリカも地に落ちたものだ。おかげで日本が多大に苦労する羽目になったじゃないか。なんせ一時期日本の総理大臣がアメリカと戦争しだしそうな雰囲気を醸し出していたこともあったから。



本当はすごく面白い国なのに、政治家が残念過ぎる。




「ところでネコくんたちは? 姿が見えないけれど」




今頃気付いた風に装って訊ねる。ちなみに灯夜と燐火ちゃんは仕事に出かけている。




「アッカリンもネコくんも、明日の準備に取り掛かってます」


「学校よりも忙しくなっちゃったもんねぇ。あ、そろそろご飯作らないと」


「あっ、いいです! 私作りますから!」


「いやいや、わざわざいいよ。お客さんに作らせる程腐ってないから」


「いや、私だって何から何までお世話になるつもりはありませんから!」




彼女は頑固である。


気持ちは嬉しいけれど、俺だって男だし大人だ。男尊女卑の思考があるわけではないけれど、本能的に女であり子供である彼女に仕事をさせたくはないと思っている。


させたくはない、のだけれど。




「それに私、家政部ですし、部としての腕が鈍るのが嫌なんです!」


「…………」




何も言えねぇ。














突然だけど、ネコくんにプレゼントした学校指定制服には実は盗聴器が仕掛けられている。


ネコくん本人がそれに気づかない限り、俺は灯夜にしょっぴかれることはないし、万が一見つかったとしても「間違えた」の一言で済む。事実、仕事ではよく使う小道具だから。




あ、いい匂い。茉莉菜ちゃんいいお嫁さんになるね。料理習いたての頃はザクザク指を刺していたけれど。




そういえば茉莉菜ちゃんが家政部に入ったって宣言した時、顔がほんのり赤らんでたなぁ。あれは恋した乙女の顔だった。学校で誰か好きな人でもできたのだろうかとそわそわしてたけど、いつまで経っても彼氏ができたとか噂も立たないし……途中で気にするのやめたんだっけ。


多分相手は……いややめておこう。色々不憫過ぎる。




……あ、ネコくんたちが匂いに釣られて居間に来た。




「あ、いい香りですね」


「夕食は茉莉菜の手作りか。お手並み拝見と致そう」




今更だけどこの2人、喋り方が独特過ぎる気がするんだけど。




「兄者たちはまだ帰らぬようだし、先に済ませてしまおうか」


「そうですね。あ、ご飯よそいます」


「ああいいよ、アッカリンは座ってて」




ああ、なんだか微笑ましいなぁ。仲のいい親子か姉妹みたいな光景だ。これだけでご飯3杯はイケる。


なんて考えながら、俺はスマホでポ●モンを開いた。そろそろ新種ポケ欲しいなー。




「そうだアッカリン、灯夜さんって癖っ毛なの?」


「え? ハゲ家系ではありますけど癖はない方ですよ。どうして急に?」


「いやね……さっき洗面所にアイロンと専用トリートメントが置いてあったから。てっきり灯夜さんかと」


「いえいえ、お兄様はハゲ家系の血筋であることを悩んでるだけです。天パで悩んでるのは霧雨さんーーー」




そこで俺の記憶が途切れた。

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