鳥鵲の知
ちょうじゃくのち。遠い将来のことばかり気にして、事件がすぐ近くまで押し迫っていることに気づかないこと。
リンダはキリアの中では不良品扱いを受けていた。
魔法とは即ち武器であり、平和のための道具ではない。なので彼女の治癒魔法は、誰も必要としていなかった。
やがて戦争が起き、傷ついた戦士を癒そうとすると「不浄である」と追い返された。そんなものは医者に任せろ、ということらしい。
そうして彼女は役立たずとして罵られ、「裏」から追放されてしまったのである。
仕方なくリンダは偽の戸籍を作り、「表」で警察として働き始めた。
チーム内で怪我をした者にはこっそり治療を施しては、怪我をした事実自体を隠蔽していたらしい。「表」ではこういう異能力そのものが淘汰される対象になりかねないという話を聞いていたからだ。
けれども「表」にまで「裏」の影響が出始め、だんだん隠すのが苦しくなってきた……という。
戦争のことも折り合わせて説明していたから、兄者たちにも理解できたらしい。
彼女が何者なのか。今世界で何が起きているのか。
リンダの治癒魔法に関しては、私は純粋にすごいと思う。茉莉菜に至っては
「包丁で何回指切っても大丈夫じゃん!」
とか言っている。そもそもどうして包丁で指を何回も切らなければならないのかがわからぬが。
ともかくこの話を聞いて思ったのは、差別に関しては理解ができぬということである。差別したところでなんになるというのだ。同じ人間でありながら、差別する歴史を繰り返す人間どもに怒りさえ湧き上がってきた。
「……何とも、思わないのですか?」
「え、何がですか? すごいとは思いますけど」
恐る恐る訊ねる燐火だが、茉莉菜はきょとんとしている。同じようにあかりに顔を向けたが、笑顔のまま首を傾げるばかりである。
「私は、とっても優しい力だと思います。きっと心優しい燐火さんに宿るべき能力であったのではないでしょうか」
「性格は生意気な女だけどな」
「お兄様は黙っててください」
兄者は燐火を褒めちぎるあかりに茶々を入れたが、その顔からは悪意を感じない。
燐火もそれをわかってか、目に涙を浮かべて笑っていた。
ーーが。
「……ふーん」
ただひとつ、霧雨の相槌だけが、妙に耳に残った。
それぞれ思うことはあっただろう。けれど彼のこの反応には不自然なものを感じた。
燐火の話を聞いてというより、その話を通して何か納得したようなーーー引っかかりのある反応。
安心しきった空気の中に紛れ込んだ、氷のような冷たさ。彼は今の話の中に、一体何を見つけたのであろうか。
それがわからぬが故に、それこそが何よりも恐ろしかった。




