ナメネコ
なめんなよ。
『昨日午後3時半頃、布田明市東区の夏目高校玄関口が何者かに爆破されるという事件が発生し、生徒のうち10人が死亡、1人が行方不明になる事件が発生しました。
目撃者によりますと、爆破直前に黒い狼のような生き物が校内に侵入し、暴れ出していたとのことで、警察は世界政府が警告を出しているバイオハザードによるものとして、慎重に捜査をしているとのことです。
それでは現場から中継が繋がってます。多々良さん?』
『はい。こちら夏目高校校門前です。現場は立ち入り禁止となっておりますが、この距離からでも十分過ぎるくらい当時の惨状が伝わってきます。
現在学校は立ち入り禁止となっており、授業再開の目処は立っておりません。
全校生徒には学校側からしばらくの間自宅学習をするよう指示されていますが、以後も復興が難しいとされた場合は、別の学校へ転校してもらうという形を取ることとなるようでーー』
<あれ? あの人山芋の人じゃない?
<本当だー! 猫鍋推進委員会の人だー!
<Twitter拡散しよーぜ!
\そーれねっこーなべ! ねっこーなべ!/
『……えー、以上中継でお伝えしました』
霧雨の事務所に避難し、大型テレビとやらを鑑賞していた私たちは、ニュースの内容よりもそのやかましい野次馬が中継を妨害したことに意識が持っていかれた。
あの制服は明らかにこちらの学校のものではないが、イメージダウンもいいとこだと兄者が隣で漏らしていたのだが。
「アッカリン。今猫鍋の人、ちゃんと仕事してなかった?」
「してましたね。てっきり本業はやめたものだと思ってました」
「いやー俺も驚いたよ。まさか山芋の人がちゃんと仕事してたなんてさぁ」
「とりあえず生存確認っと」
この三人は全く別の話題で盛り上がっていた。
山芋なのか猫鍋なのかはっきりして欲しい。何だ猫鍋推進委員会って。そしてニュースの内容はほったらかしか。
「んなこたどうでもいいんだよ!! 問題はこの先どうすんのかって話だろ!?」
あ、良かった。兄者も私と同意見だった。
「どうするって言われてもさぁ、俺たち外に一歩も出れないじゃん? マスゴミうざくて」
「報道の自由だか何だか存じませんけれど、生活の自由を侵さないで欲しいですよね」
「学校サボる口実にはなったけど、なんかやな感じ~」
まとめると、「暇で死にそう」ということである。ここまで危機感が無いと逆に称賛ものである。
“バイオハザード”はいつどこでどのような形で起こるか誰にも予想できないという。それは時に狼だったり、蛇だったり。外国では蝙蝠やカラスだったりするらしい。どんな動物が現れるかもわからないので、しばらくの間は事実上の自宅待機をすることによって、こうして全員がうだうだしている。
つまり色々面倒くさい。
「お茶が入りましたよ~」
「わーい」
「ありがとうございます、遠藤さん」
私たちとともに事務所へ入り込んだこの女。名を遠藤燐火という。
燐火は兄者と同じ刑事であり後輩でもある、二十歳そこそこの若い女である。気さくな彼女は、元気いっぱいの少女たちと彼女らに紛れる霧雨のために、わざわざ茶菓子まで用意してくれたのだ。
盆から茶を一杯ずつ配ると、テレビに目を向け、立ち上がる。
「猫鍋のキーホルダー、私も持ってます」
「お前もか!!」
兄者、渾身のツッコミである。
閑話休題。
学校の対応のみでは周囲の不安を煽るだけであり、警察はアテにならない。政府の判断も果たして正しいのかも疑問が残る。
ならば民はどうするべきか。誰にも頼らず、自分たちの判断で動くしかあるまい。
私は非常に悩んでいた。今ここで「裏」について全員に発表すべきか否か。霧雨はともかく、頑固な兄者がそれを信じるかどうかが疑わしい。茉莉菜やあかりも微妙なラインではあるし、燐火に至っては完全に予測不能領域である。
しかし化学が主流の「表」では魔法の存在など信じられてはいない。ここで私が「裏」の存在を打ち明けたところで、私が変人扱いされるだけで終わってしまうのではなかろうか。
「みんなー聞いて聞いてー。奇跡も魔法もあるんだよー!」
…………。
「……は?」
「だから、魔法だよ。これはバイオハザードじゃなくって、異次元から来た化け物集団が世界ごと襲いかかってきただけに過ぎないんだよ」
……霧雨。私にできないことを平然とやってのけるとは。誠に恐れ入った。
案の定兄者は霧雨を冷ややかな目で見ており、茉莉菜とあかりは口を半開きにしながら呆然としている。燐火は……読めぬ。先と表情が全く変わっていない。
「なぁ霧雨……お前病院行ったら?」
「シツレイだなぁ。異次元領域は存在するよ? 証言者だっているし」
証言者。恐らく私のことであろう。だが生憎私は「裏」どころか最近の記憶すらない。これでは証言者としては不適切ではないだろうか。
「証言者? そんな奴一体どこにーー」
「ここ、だよ」
霧雨が指差した先にいたのは、私ではなかった。
一瞬、どこを指してるかもわからなかったその人差し指はーーある一人の人物に向けられていた。
「この中では彼女が、その存在を証言してくれる人物として最適だ。そうだよね?
ーー遠藤燐火ちゃん」




