猫とネズミ
おにごっこ。
霧雨が出るよりも先に、青のキリアが割り込んできた。
ノラーー私のクラスメートとして潜入しているキリアだ。どうやらこの騒ぎを嗅ぎつけてきたようである。
赤の殺し屋は、勝手に横入りで参戦してきたノラを半目で舐め回すように観察していた。
「氷の魔術師か。炎に対抗できると睨んでのことだろうが、実戦はそう単純ではないぞ?」
「あなたこそ、後で泣いたって知りませんよ」
「その言葉……そっくりそのままお返ししよう」
熱気を纏う赤の殺し屋が手を翳すと、ありとあらゆる光をも反射しそうな、宝石よりも美しい剣が召喚された。
お互い武器を構え、じりじりと詰め寄りながら睨み合う。私はどうすれば良いかも分からずおろおろと狼狽えるばかりであった。
「ふむ……最悪俺が戦っても良かったんだけどなぁ」
シュッと、手品のようにペンを仕舞う。「表」の人間でありなにひとつ魔法を使えないはずである霧雨が、ここまで余裕を見せていることが不思議でたまらない。
こいつは残念そうにしているが、私は寧ろほっとしているというのに。
2人が同時に地面を蹴ったそのタイミングに合わせ、霧雨は私の体を巻き込む形で後方にステップを踏んだ。
状況を理解する前に、手際良く肩に担がれたまま学校の奥へと走り去る。方角からして考えると、その先にあるのは階段である。
山で熊に遭ったら人里へ降りろという言い伝えがあるように、建物内で襲われたら逃げ場の限られている上階ではなく一階にいるべきだと私は思う。なのに霧雨はそんな逃げ場のなさそうなところへ行って、一体全体どうしようというのか。
『校内の生徒及び教員に連絡致します。事件発生により、本日の校内における全ての部活動、及び職務を、終了とさせて頂きます。恐れ入りますが、警察が到着するまで待機願います。繰り返しお伝えします。事件発生により、本日の校内における全ての部活動、及び職務を、終了とさせて頂きます。……』
とにかく、あかりの無事を確かめたい。この騒ぎの中でどこへ行ったのか皆目検討もつかぬ。階段から姿を見せたきり行方が知れぬわけだから、恐らく上階にいるのかも知れぬ。
などといったように私が一人思案している最中ーー霧雨がとんでもない奇行を繰り出した。
「ジンくーん!! これから家庭科室行くけど何か食べたいものあるー!?」
「わっ!? 何故突然叫ぶ!? 驚いたではないか!!」
「いやぁめんごめんご☆ この騒ぎだからちゃんと聞こえるか気になってさぁ!! で、何食べるー!?」
「食う気などとうに失せた!! いいから早くあかりを探せ!!」
「おっけー♪」
叫ぶ事に何の意味があったのか。全く理解ができぬ。こいつはただの阿呆なのかも知れぬ。
だいたい人気はもうないのだ。騒いでる人間など皆無であるというのに、そこで叫ぶ要素などあるわけがないのだ。
というより……何故家庭科室だ。行くならそんな狭いところではなくもっと広場を選ぶべきであろう。料理でもする気なのか。
「さぁて……面白くなってきたね」
私はちっとも面白くないのだがーー霧雨の不敵な笑みに、ぞくりと身の毛がよだった。




