プロローグ 昔の話
草原、少しばり離れた丘の上に小屋が一つ。
そんな場所で、20歳ほどの女性と、14,15歳ほどの少年がいた。
「あなたの目指す魔法は何?」
彼女が、俺の師匠が俺に稽古をつける前に毎回聞いてくる、いわば決まり文句だった言葉。
「毎回思うんだけど、その質問に意味あるの?」
この日に初めて聞いてみたんだ。なぜこの日だったかと問われれば、2年ぐらい、毎日同じ質問をされてうんざりしていたんだと思う。今思えば、タイミングはよかったのだと思う。
「痛ってっ! 何いきなりたたいてくるんだよ」
軽く、小突くように頭をはたいてきた。
「意味はあるわよ。私が意味のないことを、この稽古をつけるときにしたことあったかしら」
「……一回だけだけど、趣旨あんたが間違えて、長く動いていられる呼吸法をやらされた。あれって確か、その時の俺がやってもしょうがなかったんだよな?」
ぺしりと、もう一回たたかれた。
「痛いからたたくのやめてくれ……」
そうすると、彼女は1回だけため息をつき。
「まあ、意味が分からないのなら教えるしかないわよね……全く、2年も同じ質問されてて意味が分かってないのは驚きだけれど」
うるさい。そういってしまうと、また叩かれてしまいそうなのでやめておいた。
「魔法っていうのはね、便利なの。それはもう、何でもできるぐらいね。木をこすり合わせて火を熾さずとも光を見れて、桶などで水を運ばずとも水が飲めて、弓を持っていかずとも狩ができて……こんなに便利なものなの」
俺は、ただ黙って聞いていた。
「でもね、便利だからこそ危険なの。使う人が使えば、陽の光は消え、水は枯れて、人が死ぬ。だからこそ、何のために、どんなことに、何のために使うか。それを肝に命じて使わなければならない」
「……つまりは、そのための意思の表明と確認ってこと?」
「そういうこと」
彼女は『よくできました』とでもいうように微笑みながら答えた。この時の彼女の顔は、妙にムカついた。
「で、ここまで説明したところで聞きましょうか。あなたの目指す魔法は?」
「便利で、誰も困らないような魔法」
「よろしい」
この時、少し本当のことを言うか迷った。
「全く。説明した後でもその答えなのね。少し答えが変わるかと思ったんだけど。もう少しかっこいいこと言えないのかしら」
「うるさい」
吐息のように笑みを零してから、彼女は言った。
「じゃあ、はじめましょうか。今日は護身のための魔法を教えます」
はいはい。と返事をしてから彼女に従う。
ここをこうして、イメージはあーで、こーで、そこはあーで。
それからの会話はあまり覚えていない。彼女は言葉での説明はなかなかに下手くそだったから、体で覚えることにしていた。
この次の日、朝俺が起きると、彼女は姿を消していた。
そこから1年。彼女の姿を一度として見ることはなかった。
読んでいただきありがとうございます。
拙いので読み苦しいと思いますが、よろしくお願いします。