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サクラの咲く7日間  作者: 高木翔矢×打押
4/13

学校祭~ヤンデレ喫茶



 学校祭一日目。

 日曜という事もあって、学校の敷地内は多くの人で賑わっていた。

 あまり思い切った事ができない一年生のフロアである三階も、他の場所に比べれば人は少ないものの、主に年配の方に人気がありそれなりに盛況だ。

 僕のシフトは午前中だけだったので、予定通り午後には加古さんと保健室で合流する。


「加古さん、少しは学祭楽しもうって気はないの?」

「何言ってるの? なきゃマサキ君と一緒に回ったりなんて……しひゃいよ?」

「ならまず口のよだれ拭こう。あと欠伸しないで体裁整えようよ。爆睡してたの丸分かりだから」


 寝ぼけ眼を擦りながら立ち上がり、大きく伸びをする加古さん。身支度が整うまで僕は保健室の外で待って、数分後に出てきた加古さんとようやく出発した。


「どこか行きたいとこある?」

「ん~まず何があるかも知らないかな」

「結構いろいろあるよ。お化け屋敷とか屋台とかヤンデレ喫茶とか」

「ちょっと待って。最後の何?」


 珍しく加古さんが眉間に皺を寄せる。


「ヤンデレ喫茶。ヤンデレのウェイトレスが設定を凝らして接客してくれるんだって。行く?」

「色々突っ込みたいけどそれはマサキ君の役割だからしたくないって私のいまの心境分かってくれる?」

「全然」


 そんな会話をしながら歩いていき、とりあえず適当な屋台で腹を満たした後で色々行ってみた。お化け屋敷に演劇部の公演、茶道体験に射的などなど、かなりの数を回ったが、ヤンデレ喫茶には加古さんが嫌がったので行けなかった。


「どう加古さん? やっぱり学祭楽しいでしょ?」

「明らかに私よりマサキ君の方が楽しんでるけどね」

「いやいや、加古さんもお化け屋敷とかめちゃくちゃ楽しんでなかった?」

「なっ……!」


 顔を真っ赤にして加古さんは僕を睨みつけてくる。

 あれだけ怖がってる加古さんは初めて見たし、当然の反応か。あんな加古さんが見れただけでも、誘ってよかったと心底思う。できればビデオも撮りたかったな。


「茶道体験の時のマサキ君も楽しそうだったわよね。あんなにガン見しちゃって」

「いや、ガン見なんてしてないけど……」


 加古さんの反撃に今度は僕が二の句を継げない。


「接客してくれた女の子も可愛かったし、マサキ君ってああいう和装美女が好みなの? 女の子は大和撫子であるべきとかって古風な人?」

「そういえば貞子とか基本和服だよね」


 なんとか打ち出した僕のカウンターに加古さんの表情が固まる。


「うわぁ貞子が好みなんてマサキ君アブノーマル過ぎだね。変態の度を越えてるよ」

「いやいやいや、貞子が好みなんて一言も言ってないから。加古さんの早とちりだよ」

「だってあの流れなら、貞子がマサキ君の理想の女性像なんじゃないかって思うよ。ははは」

「そんなわけないでしょ。加古さんは面白いんだから。あははは」


 乾いた笑いを浮かべながら睨み合う。

 じゃれ合うように軽口を叩く楽しい時間。

 でもそれは長く続かなかった。


「加古桜じゃん」

「あーホントだー男と喋ってるー」

「友達いたのね」


 正面からの声に視線を移せば、進路を塞ぐように昨日の三人女子が立っていた。


「いいご身分ね。授業はサボるのに学祭だけ楽しむなんて――調子に乗ってると後悔するって言わなかったっけ?」


 最後の一言の威圧感に、思わず息を呑む。

 加古さんも金髪の迫力に何も言い返せないようだった。


「あはー。こいつらビビってないー? ウケるー」

「相変わらず久美子は煽るのが好きね」


 金髪は本気で苛立っているようだったが、他の二人はただ便乗しているだけのようだった。

 だけどだからといって、状況は変わらない。


「またダンマリ? 都合悪くなったら黙るだけなの?」

「引きこもりだからー仕方ないんじゃない? 家じゃなくてー保健室にってとこが斬新だよねー」

「久美子あんたまた……もういいわ」


 取り巻き二人の煽りコントなんて聞く余裕もなく、金髪の視線に目が逸らせない。

 僕が口を開けないままでいると、加古さんがキッと金髪を睨み返した。


「あなたは違うんですか?」

「あ?」

「あなたこそ、調子に乗ってるんじゃないですか」


 隣にいる僕が肝を冷やす発言だった。

 案の定、金髪はさっきとは比べ物にならないほどの形相で加古さんを威圧する。


「誰が調子に乗ってるって? あんたあたしを舐めてんの?」

「そうやって相手を脅さなきゃ話もできないんですか?」


 前回迫力に呑まれてしまったからか、加古さんは一歩も引かず堂々と立ち向かう。もしかしたら、僕が隣にいるせいもあったのかもしれない。もう格好悪いところは見せられないという、意地が。


「なんかーいきなりこの子ーさらにうざくなってなーい?」

「ちょっと黙った方がいいかもよ、久美子。というよりここでKYな事言ってたら、後で沙英に怒られるよ」

「えー? 私変な事言ってるー?」


 後ろの二人の様子を見ていると、金髪以外はそこまで強く加古さんを嫌っていないように思える。多分金髪が嫌っているから、それに引っ張られているだけなんだろう。


「未来予知できるとか法螺(ほら)吹いて、入学してすぐ授業も出ないで保健室登校。これのどこが調子こいてないっての?」

「それを言うなら染髪に制服改造、校則を全無視して、気に入らない人がいれば当り散らすあなたの方がよっぽど調子に乗ってます。どうすればそこまで自分勝手に生きられるんですか?」


 漫画なら、二人の間に確実に火花が散ってるだろう事が想像できた。

 周りの人達も不穏な雰囲気に気付き、注目が集まり始めている。

 このまま続ければ先生が来て、大事になる事は火を見るより明らかだった。


「あんたマジで――」

「あーーーーーーーーーーー!」


 怒鳴り出しそうだった金髪も、金髪を睨みつけていた加古さんも、いきなり叫び出した僕に目を丸くする。


「見ようって話してた体育館の雑学コンテストもう始まってるよ! 急いで行かなきゃ!」


 加古さんの手を掴んで、一目散に引き返す。

 理由なんてどうでもいい。とにかく加古さんを金髪から離れさせなきゃ駄目だと直感した。このままじゃ、本当にあの予知が実現しかねない。


「あっ、ちょ、待て……!」


 金髪が後ろから呼び止めてきたけど振り向かない。

 いま逃げたところで何も解決しないのは分かってるし、もしかしたら僕がやってる事は余計なお世話なのかもしれないけど、僕が何もしなきゃ加古さんは死んでしまうかもしれない。それだけで、とにかくなんでもいいからやらなきゃって気持ちが込み上げてきた。

 一般の人には立ち入り禁止になっている区画に入り、ようやく足を止める。


「ごめん。いきなり引っ張ったりして」

「ううん、気にしないで。あのままだと完全に喧嘩になっちゃっただろうし」


 話しをぶった切って逃げてしまった事を怒られるかと思ったけど、加古さんは穏やかに首を振る。その顔に、金髪を睨みつけていた時の険はもう感じられなかった。


「ごめんね」

「えっ? どうしたの急に?」


 突然の謝罪に、なんの事か分からず戸惑う。


「なんか私のために色々気を遣わせちゃってるみたいだからさ」

「いやそんなの僕が勝手にしてる事だし、気にしなくていいよ。むしろ余計な事ばっかりして、迷惑になってない?」

「迷惑なんて……感謝してるよ。ホント」


 真面目だけど照れ臭い話になって、視線を逸らして頬を掻く。

 そんな僕の挙動を見逃さず、加古さんはニヤッと笑う。


「ここまでしてくれるなんて、マサキ君ってホントに私の事好きになっちゃったんじゃない?」

「は? いやいやいやまさか。なん……」


 否定しながら加古さんの右手がポケットの中に入れられている事に気付く。


「加古さん、右手出して」

「なんで?」

「録音してるでしょ! もうその手には乗らないからね!」

「ばれたか」


 舌打ちでもしそうな勢いで顔を逸らす加古さん。さっきまでのしおらしい態度は一体どこへ消えたんだろう。


「だけど、感謝してるのは本当だよ。ありがとね、マサキ君」

「う、うん。まぁ……」


 あの流れの後に、こんな事を言ってくるのは卑怯だと思う。

 たとえ好きじゃなくてもドキッとしちゃうのは、高校男子なら当然じゃないか。

 加古さんの笑顔は眩しくて可愛くて、この笑顔が見られなくなるのは嫌だなんて恥ずかしい事を、本気で考えてしまう。


 どんな事をしてでも、僕は加古さんを絶対に死なせたくなんかない。

 それが友情なのか恋心なのかは、僕にもよく分からなかった。





 金髪と遭遇した後は、加古さんと二人でいつも通り保健室で過ごした。

 校舎を回ってまた鉢合わせても馬鹿らしいし、加古さんも久しぶりに動き回って疲れていそうだったから、僕から提案してそのまま直行した。

 学校祭の日に保健室に来る人は、当然かもしれないが一人もおらず、それどころか保険医も加古さんに留守番を任せてどこかへ行ってしまったので、僕らはベッドに座りながらのびのびと話していられた。


「私が未来予知できるようになったのって、おばあちゃんが死んだ中学三年の夏だから、最初はちょっと調子に乗っちゃったのよね」


 軽くトラウマになってるだろう過去を簡単に話す加古さんに、僕はどう反応していいのか分からなかったので、とりあえず苦笑いしておいた。


「だって超能力、未来予知だよ。そりゃ見せびらかしたくもなるでしょ? 中二病って言われたらそれまでかもだけど、そんな事できるの実際私しかいないわけだし」


 実は僕もできるようになったんだけどね、とはさすがに言わない。


「ま、それで実際に調子乗っちゃった結果は、多分マサキ君が考えてる通りなんだけどね。だからあの金髪の人が言ってるのも、あながち間違いってわけじゃないのかもしれないの」


 あくまで重苦しくない、おどけた口調のまま加古さんは話す。

 それが強がりなのか本音なのかは分からなかったけど、どっちだったとしても僕は多分その本心に気付いちゃいけないから、いつも通りに受け答えした。


「調子に乗る乗らないは別にして、未来予知って凄い便利だよね。だって本屋を想像したら、買いたい本が売ってるかどうか行かなくても分かったりするんでしょ?」

「なんで凄いって言いながら活用法がそんな地味なの? マサキ君、器ちっさ」

「いやいや、超有効な使い方でしょ。他にも雨降るかもしれない日の天気とか分かるし、晩ご飯が嫌いなメニューだったら外食で済まして帰れるし」


 割と本気で言っていたんだけど、なぜか加古さんは大きなため息をつく。


「まさかマサキ君がこんなにせこい人間だとは思わなかったわ」


 なんでだろう。加古さんの僕に対する好感度がどんどん下がってる気がする。僕はただ未来予知を有効活用できる方法を考えてるだけなのに。

 だけど僕の場合、加古さんと違って自由に予知できるわけじゃないから、いま言った事は何一つできないんだけどね。

 加古さん以上に使い勝手の悪い超能力に内心ため息をつく。

 そんな時、保健室の扉が開いて誰かが入ってきた。


「おお、やっぱりここにいたか。加古。それから佐倉」


 担任の不動先生が僕達を見て笑い掛けてくる。


「最近お前ら本当に仲がいいな。付き合ってるのか?」


 冗談交じりの先生の問い掛けに、加古さんは両手を胸の前で合わせ、上目遣いに僕を見上げる。


「そ、そうなの。実は私、マサキ君の事が……」

「あーはいはいわろすわろす」


 からかわれないように早目に流す。

 少しドキッとしたのはもちろん秘密だ。


「なんかマサキ君、最近私の扱い雑じゃない?」

「先生、何しに来たんですか? 片付けっていうか、明日の準備はもう少し先ですよね」

「ほら無視だし!」

「ちょっと加古に話があってな。それよりお前ら、ちゃんと学校祭は回ったのか?」

「先生まで、酷い!」


 泣き真似をする加古さんは放っておいて、僕と先生は会話を続ける。


「一応気になるところは一通り回りましたよ。残ったのは明日にでも行く予定です」


 ヤンデレ喫茶とかヤンデレ喫茶とか、あるいはヤンデレ喫茶とか。


「マサキ君、ヤンデレ喫茶行く気でしょ」


 耳打ちしてくる加古さんはとりあえず無視。


「二人一緒に回ったのか?」

「そうですね。後半はここで休んでましたけど」


 僕の答えに先生はなぜか、満足そうに何度か頷く。


「まさか加古が学校祭を純粋に楽しんでくれるとは、正直嬉しい誤算だ。これも佐倉のおかげか?」

「……先生、それ本人の前で言うのはまずくないですか?」


 そう進言してみるが、当の加古さんが気にしてないせいか、先生も失言だとは思ってないようだった。


「そうか? まあなんだ。要は仲がいいのは素晴らしいって話だ」


 良くあるまとめ方をされ、蒸し返すのは空気を悪くするだけなので、話を戻す。


「それで先生、加古さんに話ってなんなんですか?」

「ああ、そうだったな。加古、折角だし明日の学校祭の後半、見てるだけでいいから参加しないか?」

「えっ? 私がですか?」


 いきなり話を振られて、自分を指差して加古さんが驚く。

 どうせ加古さんはタイムスケジュールなんて覚えてないだろうから、加古さんに教える意味も込めて僕が先生に確認を取る。


「後半って事はあれですよね。全校生徒が集まって、自由参加の色んな企画をやりたい人だけが参加するってやつ」

「そうだ。参加したくない奴は見るだけでいいし、見てるだけでもそれなりに面白いはずだ。例年盛り上がるしな。どうだ加古?」


 先生に問い直され、加古さんは申し訳なさそうに笑う。


「私がいると雰囲気悪くなっちゃいますよ」


 加古さんがあの金髪を筆頭とした三人組を思い出して言ってるだろう事は、すぐに分かった。

 確かに、またあの三人が絡んで来たら楽しむどころじゃない。


「確かにクラスの連中には多少変な目で見られるかもしれんが、お前とついでに佐倉は列の最後にするから、それほど目立ちはしないはずだ。たとえ何か言ってくる奴がいても、その時は俺がフォローしてやるから安心しろ」


 胸を叩いてしっかりと先生が断言する。

 それに対して加古さんは迷っているようだった。

 当然だろう。ここで行けば、授業も準備もサボって本番のお楽しみだけ参加する勝手な奴として見られかねない。それは下手をすればクラスメイト全員を敵に回す事にもなるのだ。

 だけど逆に、これがきっかけでクラスに打ち解ける可能性もまた、ないとは言い切れない。僕が横で、先生の説得で参加する事になったと補足すれば、反感を最小限に抑える事も可能かもしれないからだ。


 もしクラスメイトに受け入れられクラスの和に溶け込めば、あの三人組が絡んでくる事も殆どなくなるだろう。一人ぼっちな加古さんならまだしも、クラス全体を敵に回すかもしれない状況でいじめてくる度胸は、さすがにあの三人もないはずだ。

 加古さんも望んで保健室登校をしてるわけじゃない。それはこの一週間でよく分かっている。だからこそ、先生のこの提案に加古さんは悩んでいるのだ。


「……分かりました。行きます」


 苦渋の決断、といった様子で加古さんが頷く。

 その瞬間、いまいる保健室とは別の光景がいきなりフラッシュバックする。


 ――体育館のステージ

 ――その真ん中に一人で立ち尽くす加古さん。

 ――そして逃げ出すように、泣きながら加古さんが体育館から出て行く。


「おお、そうか! 良かった良かった」


 呑気に加古さんが参加する事を先生が喜ぶ。


「待って……待ってください!」


 片目を隠すように頭を押さえながら、僕は慌てて止めに入る。


「もっと良く考えた方がいいと思います。加古さんが急に参加するっていうのは、やっぱりちょっとまずいです」


 上手い理由なんて思いつかなかったけど、とにかく必死に止める。

 だって加古さんが死ぬ原因は、多分これだ。

 明日のステージ発表で何かがあって、加古さんはきっと自殺する。


「おいおい佐倉、折角加古が行くって言ってるんだ。水を差すような事言うなよ」

「マサキ君、なんか顔色悪いけど大丈夫?」


 目敏く加古さんが心配してくるけど、いまは僕の事なんてどうでもいい。とにかく加古さんが参加するのを止めなきゃいけなかった。


「準備もしてないのに参加して、加古さんを良く思う人なんていないと思うんですよ。だからせめて、行くなら学祭が終わった後とかに……」

「お前の言いたい事も分かるが、それじゃいままでと同じだろう。大丈夫だ。クラスメイトには俺からちゃんと伝えておく」

「でも……」

「大丈夫だよ、マサキ君。そんなに心配しなくても」


 先生だけならまだしも、加古さん本人に笑い掛けられて僕は反論の言葉を失う。

 これじゃ駄目なのに。加古さんが死ぬかもしれないのに。その加古さんの笑顔に僕は何も言えない。


「それじゃ椅子はこっちで用意しておく。前半は好きに回っていいから、体育館に集まる十分前にはここにいろ。迎えに来るからな」

「分かりました」


 加古さんの返事を聞いて、先生は保健室から出て行く。

 落胆を隠せない僕の顔を、加古さんは覗き込んできた。


「どうしたの? そんなに私が心配?」

「そういうわけじゃ……」


 誤魔化そうとして、いっそ自分も未来予知ができる事を話せば分かってくれるんじゃないかと閃く。

 けどすぐに、それは悪手だと気付いた。

 自分が自殺する事を予言されて、それを納得できるはずがない。よしんば信じてくれたとしても、それは自殺するような絶望がある事を教えるようなものだ。その後加古さんがどんな行動を起こすのか予想もつかない。聞いた途端に自殺する可能性もないとは言えなかった。


 未来予知ができるからこそ、未来を知った時の絶望も、加古さんはより深く知っているはずなんだから。

 結局加古さんを助けるためには、僕が未来予知できる事を秘密にしたまま、なんとかするしかない。


「加古さん、ホントに明日参加するの?」

「うん。先生とも約束したし、そろそろ私も、いまのままじゃまずいって思ってたから」

「絶対?」

「……どうしたの、マサキ君。そんなに私に参加してほしくないの?」

「……うん」

「どうして?」

「……」


 答えられずに黙り込む。

 分かってる。加古さんから見たらこれは単なる僕の我儘で、なんで頑なに否定されるのか不思議でならないだろうって事は。それなのに理由も説明しないで、納得してもらえるわけがない。


 だけど僕は、こうする以外にどうすればいいのかなんて分からなかった。

 結局この日は、押し問答を続けて加古さんの不機嫌を買う事しかできず、僕は明日の準備のために教室に戻った。

 それからは帰宅路でもお風呂でもベッドの上でも一日中、雨の中で加古さんが血まみれで倒れている姿を思い出す事になった。




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