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サクラの咲く7日間  作者: 高木翔矢×打押
11/13

学校祭~お化け屋敷



 学校祭一日目。

 日曜日という事もあり、学校の敷地内は多くの人であふれかえっていた。

 比較的地味な発表が多い一年生のフロアも、例外ではない。

 僕は午前中はクラス発表の受付をしていて、予定通り午後から自由時間になる。


「よう、マサキ。お前これからどうすんの? 予定ないんだったら、一緒に学校の中を見て回ろうぜ」


 直人が肩を組みながら声を掛けてくる。


「ごめん、直人。この後、ちょっと予定が合って……」

「お、なんだ? 寂しく男二人じゃ不満かよ? ……女子か?」


 違うよ、と僕は苦笑いを浮かべながら答える。

 加古さんと一緒に学校祭を見て回りたいという気持ちもあるけれど、僕にはすべき事。やるべき事があった。

 しかもそれは、男二人で回るより寂しくて悲しい行動だろう。


「そういえばさ、直人。不動先生見なかった? ちょっとだけ用事があって」

「不動先生なら朝、クラスの確認をした後に作業があるから席を外すって言ってたなぁ。何かあったら職員室まで来てくれって言ってたけど」


 直人が思い出すように言って、僕は、そっか、ありがと。とだけ返して教室を後にした。





「加古さん、少しは学祭楽しもうって気はないの?」

「何言ってるの? 私は保健室の第二の主よ。学校祭ごときで保健室登校を怠るわけにはいかなひ、いかないわ」

「うん、分かった。とりあえず口元の涎を拭こう。体裁も整えて。丸一日爆睡してたんだね」


 帰宅直前、僕は保健室にいる加古さんを訪ねていた。

 どうやら、というよりやっぱり加古さんは、学校祭を満喫する気は皆無だった。


「……学校祭、一日目終わったのね。どうだった? あちこち見て回ったんでしょう?」


 加古さんは窓の外を見ながら、何気ない風を装って聞いてくる。


「まあ、それなりには……」


 歯切れ悪く僕は答える。


「……なんだかスッキリしない言い方。あ、もしかして。保健室にいるであろう私の寝起きを襲おうとして学校祭どころじゃなかった?」

「学校祭どころじゃなかった、ってのはあんまり否定できないけど、これだけは言わせて。襲うのは寝起きじゃなくて寝込みだと思うよ。寝起きだとただボーっとしてるだけになっちゃうからね」

「そんなのは些細な問題じゃない。で、実際の所は? 私の事を気にしすぎて学校祭に集中できなかったの?」

「それは……」


 加古さんの無邪気ともいえる質問に、僕は言い淀んで気がつく


「……加古さん、その布団の中に仕舞ったスマートフォンの録音機能を切ろうか」

「……バレたか」


 僕の呆れたような言葉に、加古さんは舌を出すみたいにおどけて答える。


「あーあ、屋上で一度失敗した手をあえて使ってみたんだけど、マサキ君にはお見通しだったか」


 お見通しと言うよりは、タイミングが悪かった。それを詳しく説明する気はないけど。そんな風に、加古さんといつも通りの雑談をしていると。


「おお、やっぱりここにいたか。おっと、佐倉も一緒か」


 いつの間にか不動先生が保健室に入って来て、僕達を見て笑い掛けて来た。


「最近お前ら本当に仲がいいな。付き合ってるのか?」

「まっさか」


 冗談交じりの先生の問い掛けに、加古さんは一瞬で否定する。もう少し遊び心を発揮して、そうなんです、とか言ってもいいんじゃないかと思えるくらいにばっさりだ。


「先生、何しに来たんですか? 明日の準備はもう終わってますし、今日はもう何もないですよね?」


 不動先生に対する僕の口調は自然、当たりの強いものになってしまう。決して加古さんの態度が悲しかったとかではなく、僕の中で不動先生の立ち位置が明確になりつつあるからだ。


「ちょっと加古に話があってな。それよりお前ら、ちゃんと学校祭は回ったのか?」

「まあ一通り回りましたよ」


 残ったのは明日にでも行く予定です、なんて適当な事を言っておく。


「二人一緒に回ったのか?」

「いえ、私はいつも通り保健室にいましたけど」


 そうか、と加古さんの言葉に、不動先生は考えるように唸る。

 そして、なあ加古。と優しい声音で話を続ける。


「折角の学校祭だ。明日の学校祭の後半、見てるだけでいいから参加しないか?」

「えっ? 私がですか?」


 先生の提案に、自分を指差して加古さんが驚く。

 どうせ加古さんはタイムスケジュールなんて覚えてないだろうから、加古さんに教える意味も込めて僕が先生に確認を取る。


「後半って事はあれですよね。全校生徒が集まって、自由参加の色んな企画をやりたい人だけが参加するってやつ」

「そうだ。参加したくない奴は見るだけでいいし、見てるだけでもそれなりに面白いはずだ。例年盛り上がるしな。どうだ加古?」


 それに、最近仲のいい佐倉も出るしな。なんて付け足す不動先生。

 マサキ君も? と加古さんは不思議そうな顔をしたけど、すぐに首を横に振って言う。


「私が行くと雰囲気悪くなっちゃいますよ」


 加古さんがあの金髪を筆頭とした三人組を思い出して言ってるのだという事は、すぐに分かった。


「確かにクラスの連中には多少変な目で見られるかもしれんが、お前と佐倉は、まあ佐倉は順番が来たら離れてしまうが、列の最後にするから、それほど目立ちはしないはずだ。たとえ何か言ってくる奴がいても、その時は俺がフォローしてやるから安心しろ」


 胸を叩いてしっかりと先生が断言する。

 それに対して加古さんは迷っているようだった。

 どの口が、と僕は知らず知らずのうちに不動先生を睨んでいたかもしれない。


「加古さん、無理して出る事ないよ」


 自分で思っていたよりも、冷たい声が出た。

 ……え? と加古さんと不動先生の声が重なる。


「下手をすればクラスメイト全員を敵に回す事にもなるかもしれない。これがきっかけでクラスに打ち解ける可能性なんてきっとない。行ったところで、あの三人組に絡まれて嫌な思いをするだけだよ」


 スラスラと、矢継ぎ早に言葉が出てくる。


「……佐倉は、なんだ。最近よく一緒に居るのに加古の事が嫌いなのか? 随分とマイナスな事を言うんだな」


 不動先生は怪訝な顔で僕を見る。加古さんも、ここまでくると不快感よりもただただ疑問が湧いているような、そんな表情だった。


「加古が学校祭に参加すると都合が悪い事でもあるのか?」


 不動先生の言葉と同時に、頭に見慣れた映像が浮かんでくる。


 ――体育館のステージ

 ――その真ん中に一人で立ち尽くす加古さん。

 ――そして逃げ出すように、泣きながら加古さんが体育館から出て行く、加古さん。


 片目を隠すように頭を押さえながら、僕は言葉を続ける。


「もっと良く考えた方がいいと思います。加古さんが急に参加するっていうのは、やっぱりちょっとまずいです」


 予知の事なんて言えるはずもなく、僕は曖昧な言葉でお茶を濁しながら、適当な理由を探す。


「準備もしてないのに参加して、加古さんを良く思う人なんていないと思うんですよ。だからせめて、行くなら学祭が終わった後とかに……」

「お前の言いたい事も分かるが、それじゃいままでと同じだろう。大丈夫だ。クラスメイトには俺からちゃんと伝えておく」

「でも……」


 僕と不動先生の話は平行線だ。だけど誰がどう見ても僕が圧倒的に筋が通っていないと言うだろう。


「いいよ、マサキ君」


 不意に、加古さんが儚い声で僕と不動先生の会話に入ってくる。


「理由は分からないけど、マサキ君、私の事心配してくれてるんだよね? 大丈夫、私は平気だよ。……明日、午後から出席するよ」


 先生だけならまだしも、加古さん本人に笑い掛けられて、僕は反論の言葉を失

ってしまう。


「それじゃ椅子はこっちで用意しておく。前半は好きに回っていいから、体育館に集まる十分前にはここにいろ。迎えに来るからな」

「分かりました」


 加古さんの返事を聞いて、先生は保健室から出て行く。

 落胆を隠せない僕の顔を、加古さんは覗き込んできた。


「どうしたの? そんなに私が心配?」

「……うん」


 なんと言っていいのか、上手く言葉にできなかった。

 理由を説明しようとすれば、不動先生の事や予知の事に触れざるを得ない。けれど僕は以前に、加古さんにその事を伝えて拒絶されている。

 このままじゃ、加古さんが屋上から飛び降りる未来を迎えてしまうかもしれないのは分かっているのに、それを加古さんに伝えるための手段が、僕にはなかった。


「加古さん、ホントに明日参加するの?」

「うん。先生とも約束したしね。不動先生は裏切れないよ。そろそろ私も、いまのままじゃまずいって思ってた事だしね」


 不動先生を信じちゃダメだ、というのが彼女にとって心象の良いものでない事は流石に学習している。


「……マサキ君。そんなに私に参加してほしくないの?」


 加古さんは、再び僕の顔を覗き込みながら言う。


「……うん」

「どうして?」


 答えられずに黙り込む。

 分かってる。加古さんから見たらこれは単なる僕の我儘で、なんで頑なに否定されるのか不思議でならないだろうって事は。信頼している先生も悪いように言われて、それなのに理由も説明しないで、納得してもらえるわけがない。


 だから僕は。これだけ伝える事にする。


「……守るから」

「……え?」

「加古さんは、僕が守るから」


 それだけ言って、僕は加古さんに別れを告げて保健室を後にした。

 それからは帰宅路でもお風呂でもベッドの上でも一日中、雨の中で加古さんが血まみれで倒れている姿を思い出す事になった。




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