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Episode4 クリスティーナ1号

H28.12.11改稿しました。

 最近、ルルスとアーニャの住まう小高い丘の上のお屋敷周辺が何かと騒がしい。


 (やぶ)医者と自他共に認めるルルス・ウォルフに、患者が殺到している訳ではない。


 ワンダ・ワラットという名の冒険者が、ルルスにしつこく付き(まと)っているのだ。


 ワンダは20代後半の中堅冒険者であり、現在、絶賛売出し中の男だった。


 彼はソロで冒険を続けており、背中を預けるに足るパートナーを探していたのだが、未だに、これはという相手が見付かっていなかった。


 そんな中、とある貴族の要請で魔物討伐任務に従事していた時、ルルスの創造する『ビンテージホムンクルス』の存在を小耳に挟んだのだ。


 猪突猛進型のワンダは、その持てる情熱の全てを費やして、ルルスの住居を見つけ出し、ビンテージホムンクルスを創ってくれるように日参していたのだ。


「おはようございます、ルルス殿」


「またお前か……」


「是非、オレにビンテージホムンクルスを創ってくれ。お願いだ!!」


 そう言って、土下座して頼み込むワンダであった。


「お前、費用が払えるのか?」


「なんとしても払う覚悟だ」


「一体で金貨500枚から1000枚が相場なのだが……」


「そ、それだけあれば大きなお屋敷、いや小さな城が建つ……。しゅ、出世払いではどうでしょうか?」


「お話にならんな、出直して来るがいい。さっさと()せろ!」


「格安なものはないのでしょうか?」


「俺が創るものは、一級品だけだ」


 と、ここ1ヶ月の日常となったルルスとワンダの掛け合いが始まった。


「ルルス様、『クリスティーナ1号』ならばどうでしょうか?」


 アーニャも迷惑していたらしく、事態の収拾を図るために助け舟を出してきた。


「う~む……、実験作の『クリスティーナ1号』ならば……、どうせ廃棄する予定だったので、お前にくれてやろう」


「ルルス殿、有り難き幸せ!!」


 ルルスの言葉に、再び土下座するワンダであった。


「ところで、その『クリスティーナ1号』とはどんなものなのですか?」


「オリジナルのクリスティーナは、見目麗しいハーフエルフの冒険者だったらしい。レイピアが得意だったのだが、最期は魔物に囲まれて落命したそうだ。そんな状況であったため、遺体は食い散らかされており、記憶の回収は出来なかった。形態素材の回収も不十分だったので、どこまで再現できるのかの腕試しで創造した実験体だな。保管場所が手狭になって来たので、近々廃棄する予定だったのだ」


「大丈夫なのですか……」


 ルルスの説明を聞き、ワンダは不安げな顔をした。


「ワンダさん、無礼ですよ。ルルス様は陶工と同じで、瑕疵(かし)があると思われたビンテージホムンクルスは全て処分されるというだけです」


「では、現時点で機能障害とかあるのですか?」


「いえ、『クリスティーナ1号』自身は健康体ですが、知能が白紙状態に近いことを危惧されただけです」


「まあ、覚醒させて『デキャンタ処理』をするところまではサービスでやってやろう。それが終われば、勝手に連れて行ってくれ」


「……、分かりました」


 ワンダは、納得顔をして退散した。




 翌日、アーニャは、『ドールセラー』の片隅にひっそりと放置されていた『クリスティーナ1号』が納められた培養漕に向かい、覚醒処置を開始した。


 ダークエルフにとってエルフは天敵であり、ハーフエルフもそれに準じる存在だった。


 従って、アーニャにとって『クリスティーナ1号』の存在は目障りだったのだ。


 これで厄介払いができると鼻歌交じりに作業を開始したのだが、熟練作業者であるアーニャが作業ミスをすることは無く、無事に覚醒処理は終了し、『クリスティーナ1号』は病室のベッドに寝かされていた。


 翌日の早朝、ワンダは、『クリスティーナ1号』の状態を確認するために、夜明けを待って訪れた。


「ワンダさん、このビンテージホムンクルスが『クリスティーナ1号』よ。あと数時間もすれば覚醒するでしょう」


「アーニャさん、ありがとう。とても美しい少女だ……、とても廃棄する予定だったとは思えない……」


「ルルス先生の創造物だもの、容姿は問題無いわ。でもね、頭の中はほぼ真っ白なの。だから教育するのが大変なのよ」


「では、完全に俺好みに育てることが出来るのだな」


 アーニャの言葉を聞き、ワンダは、いったんは喜んだものの、直ぐに視線を泳がせた。


「まあ……、その通りね」


 ワンダの思考を読んだアーニャは、苦笑する。


「ハーフエルフというわりに、耳の先は(とが)っていないな?」


「それは、ルルス先生が通常の人間の耳に改善されたの、オリジナルのクリスティーナは相当差別されていたらしいわ」


「俺はこの()を大切にする……」


 『クリスティーナ1号』の眠るベッドの横で、ワンダとアーニャが騒がしくしたためか、気付くと彼女は目覚めていたが、その美しい顔は人形のようであり如何なる感情も宿してはいなかった。


「あら、覚醒したのね」


「…………」


「この様子じゃあ、予想通り教育が大変そうね……」


「クリスティーナ、オレはお前のパートナーとなるワンダ・ワラットだ、よろしくな」


 そう言ってワンダは、『クリスティーナ1号』の頭を優しく撫でると、『クリスティーナ1号』は無垢な笑顔をワンダに向けてくれた。


 覚醒した初日、『クリスティーナ1号』は一日ベッドで横たわっていた。


 そして、『クリスティーナ1号』の世話を申し出たワンダが、アーニャの指導の元、慣れない手付きで看護した。


 『クリスティーナ1号』の設定年齢は16歳で、人間であれば成人になったばかりの年齢であるが、エルフの16歳は、まだまだ子供の範疇に入る微妙なお年頃だ。


 容姿は、エルフの血のためか、淡黄緑色の頭髪は繊細な直毛で、深緑の虹彩と合わせて、エルフに良く見られる組み合わせだった。


 ただ、耳の形は丸く、エルフやハーフエルフの特徴である、先端が尖った耳ではなかった。


 アーニャの説明では、耳の形を人間にすることにより差別から逃れさそうとしたらしいが、これでは『頭隠して尻隠さず』状態である。


 顔や身体付きはハーフエルフらしく華奢であるが、何処と無く高貴な雰囲気を(かも)し出していた。


 お腹を()かせた『クリスティーナ1号』に、重湯(おもゆ)を与えたのだが、座椅子に座らせた時に触れた彼女の胸は、エルフでは(ほとん)ど見られないほど豊かであった。


 これもルルス先生が成したことで、オリジナルのクリスティーナの胸は見事にぺったんこだったという。


 翌日、『クリスティーナ1号』は、早くもベッドから起き上がれるようになっていた。


 また、オリジナルの記憶は与えられなかったものの、ルルスが長年の研究で最適化した基本人格は刷り込まれていたために、片言ではあるが会話が出来るようになっていた。


 この辺りの驚異的な学習速度は、流石にビンテージホムンクルスである。


 そして、『クリスティーナ1号』は、覚醒して初めて見たワンダに懐いており、所謂(いわゆる)刷り込み(インプリンティング)というものだろう。


「おはよう、クリス(・・・)。調子はどうだい」


 ワンダが『クリスティーナ1号』に対して、早くも愛称で朝の挨拶をしたところ、彼女は足下がまだふら付くものの、ワンダの方に歩み寄り、そして抱き付いたのであった。


「……お……はよ……う……わん……だ」


 機嫌良く返事をしてくる『クリスティーナ1号』、そしてワンダにしても年頃の美少女に抱き付かれて満更でもない様子だ。


 更に、『クリスティーナ1号』の頭髪からは、(かす)かに甘い体臭が匂ってくるとともに、彼女の豊かで柔らかい胸の膨らみが押し当てられる感触も好ましかった。


 それから3日後には、『クリスティーナ1号』は、やや一本調子ではあるものの、通常に会話が出来るようになっていた。


「おはよう、クリス」


「おはようございます、ワンダ」


 隣で指導していたアーニャは、『デキャンタ処理』が一応完了したと判断し、ルルスのところに報告することにした。


「ワンダ殿、ここでの処置が一応完了しましたので、『クリスティーナ1号』を連れてルルス先生のところに行きましょう」


「分かりました、アーニャ様。おいでクリス」


「ルルス先生、『デキャンタ処理』が完了しました」


「ご苦労様、アーニャ。ワンダ君、『クリスティーナ1号』は約束通り無償で引き渡すが、このことは他言無用に願う。もし露見した場合には、それなりの報復があることを憶えておき給え」


 ルルスは、有頂天になっているワンダに釘を刺しておいたが、その効果は不明だった。


「この事は他言致しません。この様な美少女を与えて頂き、ありがとうございました」


 ワンダは、丁度良い機会と考えたらしく、『クリスティーナ1号』の技能(スキル)を確認することにした。


「ところで、クリスには、どんな才能がありますか?」


「『クリスティーナ1号』には、前衛としてのレイピア使い、もしくは後衛としての治癒魔法使いのどちらでも可能な才能を与えている心算(つもり)だが、オリジナルの記憶を受け継げなかったので、白紙から育てることになる」


「クリスは多才なんだな」


 感心したワンダが、『クリスティーナ1号』の頭を撫でてやった。


「はい、がんばります!!」


 すると、『クリスティーナ1号』は、まだまだ固さが取れないものの、嬉しそうな表情で応えていた。


 それから、ワンダは何度も礼を言いつつ、『クリスティーナ1号』を連れてお屋敷を後にしたのであった。




「ようやく(あらし)が去ったな」


「本当ですね」


「やっぱりダークエルフのお前としては、ハーフエルフの存在が気に入らなかったのか?」


「やはり分かりますか……」


「何年一緒にいると思っているんだ……、だが、覚醒した『クリスティーナ1号』に対しては意地悪をしていなかったようだが?」


「培養漕から取り出すまでは、気に入りませんでしたが、覚醒した彼女は、まったくの白紙状態でしたので……」


 そう言う、アーニャの(ほお)は赤くなっている。


 こうして、アーニャの気に喰わなかった不良在庫が、穏便に処分されたのだった。


 あと半年もワンダが訪れるのが遅ければ、『クリスティーナ1号』は覚醒されることも無く、処理漕に放り込まれて骨も残さず分解されていたことを考えると、運命の巡り逢わせとは不思議なものであると、ルルスは思った。




 粘り強い交渉? で、ビンテージホムンクルスの『クリスティーナ1号』を獲得したワンダは、数年掛けて彼女に冒険者の技能(スキル)を教育した。


 当初はやや機械的な反応をするクリスであったが、出逢って1年も過ぎた頃には、自然な対応が出来るようになり、益々可愛くなっていた。


 これは、ルルスが設計した通りの成長速度であったが、彼が意図していなかった成果としては、目覚めた時よりも更に胸の膨らみが成長していたことだろう。


 また、クリスが傷付くことを嫌がったワンダにより、知り合いの魔法使いに師事させ治癒魔法を中心に教えてもらったが、その結果として治癒魔法使いとして大成した。


 その上、『クリスティーナ1号』には勝気なところもあったらしく、ワンダに内緒でレイピアの鍛錬(たんれん)を行い、今では前衛・後衛のどちらでも働ける、ワンダにとって無くてはならないパートナーとなっていた。


 更に数年もすると、ワンダとクリスは高名な冒険者の仲間入りを果たすまでになっていたのだ。


 そして、当然の流れとして……、ふたりは結ばれたのであった。



取り敢えず、改稿は完了しました。

続きを書きたいのですが、じ、時間が……。

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