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Episode1 ユリーシャ1号

H28.12.11改稿しました。

 アカヤシナ王国の片田舎の小高い丘の上に古びたお屋敷が建っている。


 元々そこには、稀少な金属である聖銀(ミスリル)を産出する鉱山を守護するための(とりで)が造られていた。


 数百年前に聖銀(ミスリル)の鉱脈が枯渇したのに伴って役目を終え、『(つわもの)どもが夢の(あと)』とでもいうような風情(ふぜい)の砦跡があるだけだった。


 お屋敷は約200年前にふらりとこの地を訪れた長命種の男女が、ここを気に入って建てたものである。


 お屋敷の周囲には、砦跡の石垣などが残っているが、手作りの(さく)の中には牛、豚、(にわとり)などの家畜を飼っている。


 また、練兵場跡は耕されて植物が育てられ、家庭菜園兼薬草園となっていた。


 一見すると、(ひな)びた田舎の風景だ。


 お屋敷の主人は、ルルス・ウォルフという名の、一見すると普通の人間に見える年齢不詳の男である。


 ルルスの職業は医者であるが、腕が悪い(やぶ)医者であるため、ほとんど患者の姿を見ることは無い。


 (まれ)に、深窓の姫君の如き美少女を、お屋敷の近傍で見掛けたとの(うわさ)が流れることもあるが、大半の者はルルスとは無関係であると考えていた。


 もう一人の住人は、アーニャという名のダークエルフである。


 アーニャはルルスの助手であるが、患者が来ないため、家畜や野菜などの世話をして彼等の糊口(ここう)(しの)いでいるというのが、大方の見方であった。




 今日は珍しく来客があった。


 しかも相手は貴族の使いらしく、二頭立ての立派な馬車には、凝った細工が施され、扉には仰々(ぎょうぎょう)しい家紋が描かれていた。


「初めましてルルス様。わたくしは、ハスハ子爵家の執事を務めておりますヨハンと申します」


 ヨハン執事は、慇懃(いんぎん)に挨拶をする。


「遠い所から良くいらっしゃった、ヨハン殿。それでご用件は?」


「実は……、ハスハ子爵家の第四息女であられますユリーシャ・マリア・フォン・ハスハ様が、病を得て危篤状態なので御座います」


(うわさ)はご存じと思うが、わたしは藪医者なので、ご期待に沿()えないと思うが……」


「単刀直入に申し上げます。ルルス様は、凄腕の錬金術師としてホムンクルス創造の権威と伺っております」


「まあ、大っぴらにはしておらんが、貴族階級には知られているか……。それでは、ご用件というのは、ご令嬢の容姿を写したホムンクルスを創ることかな?」


如何(いか)にも(おっしゃ)る通りで御座います」


「知っているかも知れんが、ホムンクルスの姿形や記憶は、遺体の状態が良好であれば、ある程度は受け継げさせることは出来るが、寿命は数年程度と短命だぞ!」


「ハスハ子爵様は、『何としてもユリーシャを助けよ!』との(おお)せなのですが、金に糸目も付けずに雇った高名な医者共も、(さじ)を投げている状態でして……、ユリーシャお嬢様は、いつお亡くなりになっても可笑(おか)しくない状態なのです」


 ヨハン執事は、腹を割ってハスハ子爵家の内情を語り出した。


「実は……、ユリーシャお嬢様は、来春に(ぼう)伯爵家との婚礼を控えておられ、ここでお亡くなりになるのは非常に(まず)いのです」


 内情を語り尽くしたヨハン執事は、がっくりと肩を落とした。


「それで、形代(かたしろ)としてのホムンクルスを求められた訳か? 費用は金貨500枚でどうかな?」


 ルルスは、ヨハン執事が切羽詰っていることを知り、費用を金貨500枚と吹っかけた。


 まあ、技術の安売りはしないという自負も理由の一つだった。


「予算内で御座います。付きましては、手付金として金貨100枚をお納め下さい」


 ヨハン執事は、黒い(かばん)から金貨の詰まった皮袋を取り出して、ルルスに手渡しした。


「――確かに受領した。仕事が無事に完遂して、ご令嬢のホムンクルスを納品した時に、残りの金貨400枚を頂戴する」


「承知致しました」


 ヨハン執事は、ルルスに対して深々と頭を下げた。


「それでは早速、ハスハ子爵家に向かおう。ところで、ホムンクルスの容姿をユリーシャ姫に似せるためには、遺体が必要なのだが……、それは理解しているか?」


勿論(もちろん)、承知しております」


 こうして、話が(まと)まり、ルルスはハスハ子爵家へと向かうことになった。


 なお、帰りはユリーシャ姫の遺体を運搬せねばならないため、特注の頑丈な箱馬車に乗って、ヨハンの乗る馬車の後に付いて行ったのであった。


 箱馬車の中は、魔法具により低温に維持されており、遺体の腐敗を遅延させることが可能であった。




 ハスハ子爵家に到着したルルス一行は、裏門から敷地内に入って、御用商人などが使用する勝手口に乗り付けた。


「ヨハン殿、残念ながらユリーシャ姫は身罷(みまか)れた」


「そうですか……、間に合いませなんだか……」


 ルルスたちが屋敷に入ると、ハスハ子爵家の関係者と(おぼ)しき男が現れて、ユリーシャ姫が亡くなったことをヨハン執事に報告した。


 ヨハン執事も、弔意を表し沈痛な表情をしているが、ルルスを呼んだことに(かんが)みると、演技達者な曲者(くせもの)だった。


 ルルスたちが到着した時、既にユリーシャ姫は亡くなっていたが、箝口令(かんこうれい)が敷かれていたらしく、屋敷は平静を保っている。


「ハスハ子爵様、ルルス・ウォルフ殿を連れて参りました」


「良く連れ帰ってくれたぞ! ヨハン」


「は、肩の荷が半分下りた気持ちで御座います」


其方(そなた)がルルス殿か……、儂がハスハ子爵じゃ。それにしても、(うわさ)通りの風貌(ふうぼう)じゃな」


「初めましてハスハ子爵閣下、この(たび)は――」


「弔意は良い。それでじゃが――」


 ルルスは、ハスハ子爵に略式の挨拶(あいさつ)と、簡単なホムンクルスの説明を行った後、直ちにユリーシャ姫の私室に通され、遺体と対面したのであった。


 ユリーシャ姫の享年(きょうねん)は14歳であり、生前は(つや)やかな金髪が美しい美少女であったらしい。


 らしいと言うのは、社交界の華として、幾多の青年貴族から求婚された美貌(びぼう)も、病のために(ほお)()け、苦悶(くもん)の表情で亡くなっていたからだ。


「ルルス殿、何とかなりますかな?」


 ハスハ子爵は、(すが)るような目付きで質問してきた。


「最善を尽くさせて頂きます。まだ姫君の遺体は、新鮮で腐敗しておりませんので、こちらで最低限の防腐処置を施した後、持って帰ります。ホムンクルス創造に、おおよそ半年掛かりますので、(しばら)くお待ち下さい」


 ルルスは早速、ユリーシャ姫の遺体の検分を始めた。


 ルルスの後ろでは、ハスハ子爵とヨハン執事が興味深そうに眺めているが、遺体に対する尊厳(そんげん)は感じられなかった。


 ハスハ子爵に取って、ユリーシャ姫は、単なる政略結婚の駒でしかなかったのであろう。


「ところで、ホムンクルス創造のため、姫君の遺体は、必要な臓器を摘出して切り刻むことになります。つきましては、後顧の(うれ)いを絶つために、姫君の譲渡証を頂けますか?」


「良かろう。どうせ、この後は埋葬するだけなので問題無い」


 こうして、ルルスの口車に乗せられユリーシャ姫の『身柄譲渡証』が作成されたのであった。


 なお、奇妙なことに、『身柄譲渡証』の文面は、姫君が奴隷として引き渡されたといっても良いような内容であった。


 しかしながら、既に死亡した遺体に対するものであったため、ハスハ子爵も内容を十分に斟酌(しんしゃく)せずにサインしたのであった。




 持ち帰ったユリーシャ姫の遺体は、屋敷の地下にある処置室に運ばれた。


 実は、地上にあるお屋敷は、医院と住居を兼ねたごく一般的な間取りと内装であったのだが、お屋敷の地下には広大な地下空間が存在した。


 これらの地下空間は、砦の食糧庫跡や牢獄(ろうごく)跡であり、ルルスがここに屋敷を建てた理由でもあった。


 つまり、ルルスは、(やぶ)医者を隠れ蓑(かくれみの)にして、錬金術のホムンクルク創造技術を基にして、理想的な美少女を誕生させるための研究に、日夜研鑽(けんさん)していたのだ。


 そして、その知識を活かして、顧客の要望する容姿と記憶を有したホムンクルスを創造していたのだった。


 研究には莫大(ばくだい)な資金が必要であり、この仕事は、その資金を得るための手段のひとつだった。


 処置室は、タイル張りのどことなく陰鬱(いんうつ)な雰囲気の漂う場所だ。


 そこに、棺桶(かんおけ)に納められたユリーシャ姫の遺体が運び込まれた。


 そして、棺桶の(ふた)が開けられ……。


「まだこんなに幼いのに……」


 アーニャが黙祷(もくとう)していた。


「病死だそうだ……、病を得てから亡くなるまで数日だったらしいので、面窶(おもやつ)れしていないのは、我々にとっては幸運であり、作業が(はかど)るのだがな……」


「ルルス先生、処置の手順はいつもの通りですか?」


「ああ、そうだ。まずは全裸にして死化粧を施してくれ。そして生前の面影が再現できた段階で、採寸やスケッチをしておいてくれ。その後、司法解剖して死因を突き止める。それから、剃髪(ていはつ)して開頭し、大脳を露出させて記憶の回収を行う。最後にこの娘は初潮を済ませているので、卵巣から容姿情報の素となる卵原細胞を回収する」


「アーニャは何か要望はあるか?」


「それでは……、出来るだけ生前の姿を再現してあげたいので、成長具合の手加減が難しい胸部と股間部を切除して標本にして頂けますか?」


「了解した」


 運び込まれたユリーシャ姫の遺体は、処置室の中央に()えられた解剖台に載せられて、まず死に装束(しょうぞく)がアーニャにより()ぎ取られた。


 ユリーシャ姫の身体は、第二次性徴が始まって数年という年齢にも拘らず、胸は大きく膨らんでいたが、股間部は幼さが目立つものであった。


 アーニャは、ユリーシャ姫の苦悶の表情で固まった顔や、四肢の筋肉をマッサージでほぐして整え、更に死化粧を施して生前の容姿を再現した。


「凄い美少女だったのですね……」


「社交界の華だったそうだからな……」


 生前の容姿が再現された後に、改めて検分してみると、ユリーシャ姫は類い稀(たぐいまれ)な美少女であったことが再認識された。


 アーニャは、巻尺やノギスなどで身体の寸法や特徴を測って記録した。


 それから、アーニャの要望により、ユリーシャ姫の胸部と股間部が切除され、形状保全と防腐処置が施されて標本(びん)に納められた。


 続けて司法解剖として、正中線でメスが入れられ、心臓血、胃壁、腎臓、肝臓などの病理標本が回収された。


 そして、その後に実施した病理検査により、ユリーシャ姫は病死では無く、特殊な毒物での薬殺であることが特定された。


 恐らく、茶会等で出された飲食物に、毒物が仕込まれていたのだろう……。


 これは……政略結婚絡みなのか?


 何にしても、ホムンクルスの創造に、影響の出るものではなく安堵(あんど)した。


 それからルルスは、(つや)やかな金髪を、惜しげもなく剃髪ていはつした。


 頭皮を切除、骨ドリルで穿頭(せんとう)骨鋸(ほねのこぎり)で開頭して大脳を露出させた。


 その後、遺体の近くに置かれた怪しげな装置から延びる電極を、大脳に突き刺して装置を稼働させた。


 この装置は、古代遺跡から出土した魔道遺物(アーティファクト)であり、ユリーシャ姫の記憶を回収した。


 それから、ホムンクルスにユリーシャ姫の記憶を焼き付けることが出来る装置でもあり、記憶自体も編集や改竄(かいざん)が可能という優れものであった。


 続けて、下腹部にメスを当て、躊躇(ちゅうちょ)なく切開して卵巣を摘出した。


 そして、ユリーシャ姫の卵原細胞を回収することが出来たのであった。


「アーニャ、済まないが、遺体はいつものように処分してくれ。それから培養漕はフルセットで準備しておくように」


 その後も、必要な部位を回収したルルスは、今や肉塊と成り果てたユリーシャ姫の遺体を(なが)めながら指示を出した。


 いつもの処分というのは、悪食(あくじき)な微生物が収められた処理漕の中に、遺体を遺棄(いき)するということであった。


 これ位の肉塊であれば、数日で骨も残さず分解されてしまうだろう。


 ルルスは、ホムンクルス創造のための設備が置かれた培養室に入っていった。


 既にアーニャの手により、10を超える培養漕が準備されており、ルルスはユリーシャ姫から摘出した卵原細胞などから形態情報成分を抽出して、ホムンクルス創造に必要な賢者の石を主成分とする魔法薬と共に手早く処理し、培養漕に投入していった。


 仕込む数が多いのは、成功率が低いためなのか?


 なお、回収した記憶は、ホムンクルスを培養漕から取り出した後、目覚めて自我が生まれる前に刷り込まれる。


 そして、この仕込み作業の後の管理業務は、アーニャの仕事だった。




 約5ヶ月後、培養漕のひとつでは、亡くなったユリーシャ姫と同じ位の背格好まで成長したホムンクルスが、揺蕩たゆたいながら微睡まどろんでいた。


 頭髪は伸び放題であるものの、その隙間から(のぞ)かんばせは際立っており、類い稀(たぐいまれ)なる美少女であることが(うかが)えた。


 一方、その他の培養漕の中のホムンクルスは、いずれも胎児の状態であり、明らかに成長速度が異なっていた。


 これは、前者には成長促進薬が投与されていたためであり、このホムンクルスはユリーシャ姫の身代わりとして(ぼう)伯爵家に嫁ぐことになるのだろう。


 このホムンクルスは、無理をして成長させた反動で、一般的なホムンクルスと同じく、数年程度で寿命を迎えることになる。


 一方、通常の人間と同じ速度で成長させているホムンクルスは、このまま10歳までこの速度で成長させ、その後は代謝を極限まで抑えてゆっくりと成長させることになる。


 こうして育てたホムンクルスは、ルルスにより『ビンテージホムンクルス』と命名されており、通常の人間と同程度の寿命を得ると共に、行動や思考もより自然となる。


 また、彼女たちは、妊娠も可能であり、覚醒して活動を開始すると、通常の人間と見分けることは、もはや不可能なほどの完成度であった。


 オリジナルなユリーシャ姫の記憶を有するビンテージホムンクルスに、因果いんがを含めるための切り札のひとつとして、ハスハ子爵と取り交わした『身柄譲渡証』が挙げられる。


 また、必要であれば、色々な命令を組み込んだ『呪印』を施すこともまた可能であった。


 そして、従順になったビンテージホムンクルスは、ルルスの研究資金を得るために、金持ちの商人や高名な冒険者、それから高位貴族たちに売却されることになるのであった。


 ルルスは、地下2階の『ドールセラー』と呼ばれる場所に、ユリーシャ姫のビンテージホムンクルスたちを培養漕ごと移動させ、必要に応じて覚醒させるのである。


 彼女たちビンテージホムンクルスは、顧客の要望に従って調教した後に納品されることもあるし、奴隷オークションに出品することもあり、ルルスが必要とする研究資金の大部分を稼ぎ出していたのだ。


 ちなみに、仕込んでから出荷するまでの期間は数十年以上あり、出荷時には関係者のほとんどが死亡しているため、身許を追及される心配もないのであった。


 これは、長命種のメリットを活かした、気長な露見防止対策である。




 培養漕から取り出されたホムンクルスの『ユリーシャ1号』は、ストレッチャーに乗せられて浴室に運ばれた。


 そして、身体に付着している培養液を、アーニャは丁寧に(ぬぐ)ってあげた。


 それから、バスタオルで()き、『ユリーシャ1号』は簡易ベッドに全裸で寝かされた。


 まだ、『ユリーシャ1号』には自我は無く、為されるが(まま)であった。


 そして、簡易ベッドの傍らには、オリジナルなユリーシャ姫から切除した胸部と股間部の標本が置かれていた。


「うん。完璧に再現できているわね」


 アーニャは、『ユリーシャ1号』と標本を見比べ、満足そうな笑みを浮かべた。


 形態情報の仕込みは、ルルスの仕事であったが、ホムンクルスの身体各部の成長と抑制は、アーニャによる培養液への追加魔法薬の(さじ)加減に依存していたからだ。


「とても美しいわよ……、きっと(ぼう)伯爵様も満足されることでしょう」


 アーニャは、ホムンクルスの出来栄えに満足したが、一転して暗い顔をする。


貴女(あなた)の時間は数年しかないけれど……、愛して貰えれば子供を成すことも可能なのよ……」


 アーニャの脳裏には、仲睦(なかむつ)まじい若夫婦の姿と、妊娠、出産したものの産後の肥立(ひだ)ちが悪く、そのまま夭折(ようせつ)する『ユリーシャ1号』の情景が展開されていた。


 その後、アーニャによって散髪され、着衣を整えられることにより、見た目は生前のユリーシャ姫と瓜二つに磨き上げられた。


 更に、ルルスによりユリーシャ姫の記憶が焼き付けられ、現在は病室のベッドで寝かされている。


 培養漕から取り出されたばかりのホムンクルスは、焼き付けられた記憶はあるものの、口も身体も自由には動かせない。


 これから、入院患者のリハビリに相当する『デキャンタ処理』を行った後、ハスハ子爵家に納品される手筈である。


 翌朝、ホムンクルスの『ユリーシャ1号』が覚醒し、瞳がゆっくりと開けられた。


 ユリーシャ姫は碧眼だったらしく、明るい空色の虹彩が見て取れたが、無垢な表情は、まるで降臨したばかりの天使のようだった。


「こ……ここ……は……? ……」


「目覚められましたか、ユリーシャ姫」


「あ……な……たは……ど……なた……で……す……か……?」


「わたしは、医者をしておりますルルス・ウォルフと申します」


「る……る……すさま……」


「姫君は重い病に(かか)り、数か月も昏睡(こんすい)状態でした。ご自身の名前と年齢が言えますか?」


「なま……えは……ゆり……-……しゃ……まり……ア……ハス……は……です。と……しは……じゅ……う……よ……ん……で……す」


「記憶に問題が無さそうで、安堵(あんど)いたしました。長らく昏睡状態だった影響で、身体が自由に動かないことと思いますが、明日からリハビリを開始いたします。元の状態に戻ったと判断されれば、ご実家のハスハ子爵家に送らせて頂きます」


「ル……ルス……様……か……んしゃ……いた……し……ます」


 こうして、予定通りに目覚めたホムンクルスの『ユリーシャ1号』は、自身の秘密に気付くことなくデキャンタ処理が完了し、ハスハ子爵家に戻っていった。


 ルルスの手許には、ユリーシャ姫の『身柄譲渡証』と、まだ胎児状態の『ビンテージホムンクルス』の『ユリーシャ2号』以降が残されているのだが、ハスハ子爵は生涯、このことに気付くことは無かったのであった。


 更に、ユリーシャ姫の容姿情報成分を含んだ試料の一部は、凍結保存されており、ルルスの主目的である『究極の乙女』を創造するための原材料のひとつとして活用されるのであった。


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