お客さん
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裕太は工場に戻ると技師たちといろいろ打ち合わせをし光一と話した。
『裕太!………いや、少佐殿!これが電報であります。』
『あほっ!まだ早いわ〜。
おまけに大きい声だしたら他の人に聞こえるやろ。』
『あ〜すまんすまん!
友達としてちょっと嬉しかっもんやから………
ほれ、これや。』
光一は電報を渡し裕太はそれを見て頭をひねっていた。
『ほんま誰やろな?この客って言うのは………これだけだと全然わからんがな。』
光一も一緒に考えていた、
『行ったほうがええんやろうけどな〜、裕太がまた1日でもいなくなるのは痛いし、今は一番大事な時やろ………。
こうしたらどうや!
アカネに電報打ってまた聞いてみるんや?』
『いや!なんかここに来ていろんな事が重なってきてるやろ、
それが全部凄い事ばかりで、これもなんか胸騒ぎするねん。
行ったほうがいい気がするんやけどな…………』
『裕太がそう言うんやったら行ったほうがええ!
こっちはなんとかするわ。
でも、早よ帰って来いや〜。』
『お〜!
トンボ帰りしてくるさかい頼むわ!』
こうして裕太はまた列車に乗り田舎へ向かったのである。
19
田舎に着くとアカネの食堂にまっすぐ向かった。
ガラガラガラ〜入口を開けると
『アカネ〜!帰ったで〜!』
『いらっしゃ、あれ裕太〜〜!
お帰り〜。
なんですぐ連絡くれへんの?』
『ん!いや連絡するより来たほうが早い思うてな。
でメシ!』
『なんやそれ、話しが先ちゃうのん?』
『久しぶりに食べれると思って朝からなんも食べてへんのや…
腹減ってたら話しも出来んやろ!』
『ほなら何食べんの?』
『カレーライスとうどん!』
『はい、はい!
ちょっと待っといてや〜』
少し待つと。
『はい!お待ちどう〜』
『おっ早いやん。
いっただっきま〜す!』
ガツガツガツ!いきなり口に駆き込み始めた。
『で!』モグモグモグ!
『きゃふってだへひゃ?』モグモグモグ!
『ちょっと食べながら話さんといてや〜!
何言うてんのかわからんがな。』
モグモグモグ!ごっくん!
『俺に客って誰やねん?』
『も〜〜〜、せわしないね〜!
うんそれやけど、1週間前に私を訪ねて来た人がおってん!
30歳ぐらいの男の人で田中って言うとったわ。
裕太を探してる!って居場所聞かれたから、教えられへん!って答えたんや。
したら裕太の家でも同じこと言われたみたいやで。』
『は〜?うちの親父からはなんも連絡来てへんで〜!』
『うん、家の人には追い払われたらしいわ。
そんであっちこっち聞き回ってたみたいやで。
かわいそうでよくよく話し聞いたら、なんか裕太に急いで渡したいもんがあるんやて!
あやしそうな人には見えへんし丁寧な人やから連絡取ってあげるかい?って言うてもうたんや。
それで電報打ったんや!』
『ふ〜ん!それで?』
『はい!これが田中さんの連絡先。
この町のホテルでずっと待ってるから!って言うとったで。』
『は〜うまかった!ご馳走さまでした。
ふ〜ん!田中か〜………?
やっぱ知らんな〜………
なんやろ渡したいもんて?』
『とにかく急いでたみたいやから行ってあげてや!』
『そやな!すぐ行ってみるわ。
勘定してや〜』
『ええて、今日は私のおごりや!
早よ、行き。』
『そうか、ごちそうさん。また来るわ』
20
裕太は店を出るとメモを頼りに駅方面に向かい、
棚田旅館を探した。
『おっ、あそこや!』
『すんませ〜ん!どなたかいらっしゃいませんか?』
玄関を開け、受付に誰も居なかったので声を出して見た。
すると奥から
『は〜い、ちょっと待ってて下さいね!
いま行きますよって。』
女将が小走りでやって来た。
『いらっしゃいませ。あいにく本日は満室なんですよ!
せっかく来てもろたのにすいませんね。
また今度待っております。』
『いやいや、泊まりやあらへんね。
こちらに田中さんて方が泊まってると聞いたもんやから?』
『あ〜田中さんね。
ちょっと待ってて下さいね。』
女将はまた小走りで奥に行き、
声が聞こえて来た。
『田中さん、お客さんが来てますよ。』
『はい、玄関で待っててもらってます。』
『あ〜、名前聞くの忘れてましたわ。』
『若い男性の客ですよ〜。』
パタパタと女将が戻って来た。
『いま来ますので、もう少し待ってて下さいね。』
『はい、すいません。』
男性が現れた。
裕太は
『田中さんですか?自分は赤間 裕太と言います。
探してる!って聞いたもんですから。』
『おー君が赤間くんか。わざわざありがとう!』
田中は笑顔で握手して来た。
『早速で悪いんだけど時間はあるかね?』
『はい、大丈夫ですよ。』
『おーい、女将!
客と話しがあるから応接を使わせてもらっていいかね?』
『はいはい、いいですよ。
好きに使って下さいな。』
二人は応接に入りソファに座った。
田中は
『早速、この書類を見てくれたまえ。
これは私が研究し実験して来た装置の設計図なのだ。
是非君にこれを使って欲しいんだ。』
『ちょっといきなり過ぎて話しが見えないんですが………』
『あーこれは失敬!自己紹介もしていなかったね。
私は大学で講師をしながら研究をしている田中 渡と言うものだ。
ある電波距離計の実験をしていて今回、非常に良い結果がでたんだ。
それで試作品を作ろうと大学側に話したんだが、こんな戦時中じゃ無理だ!と言われてしまった。
しかしどうしても作って見たくて軍部へ話しを持っていったんだが相手にもしてもらえなかった。
で何度も顔を出しいろいろな部署を回ってた時なんだが、兵隊達の会話が耳に飛び込んで来たんだよ。
大和型3番艦の建造が変更になり兵装が違うところに持ち込まれていると。
さらに新しい新型兵器に積まれる予定だとか…。
その後、気になり武器を軍に卸している民間会社の担当に話しが聞けて、なんでも郵便局の関係で新しい装置を作った人間が軍に引っこ抜かれたようだ!と話していたんだ。
これらから想像すると、
大和級の砲塔が開発中の兵器に積まれる。
それには当然、測距儀(距離を測る物)が積まれる。
ならば私の機械を使ってくれるのではないか?
と回答が出たのさ。
それでその中心が君だとわかり必死に探してたんだ。』
『はい!話しはわかりましたが実際、どんなもんなんですか?』
『この電波距離計はね、アンテナと呼ばれる物から電波を発信し、物に当たって反射し戻ってきた時間を測る事によって距離を測る物だよ。』
『今の測距儀じゃだめなんですか?』
『いや!良いんだが大和に積んでいる測距儀は15mもあるだろう、
この機械だと1mぐらいの大きさに出来るのだよ。
さらに戻って来た方向までわかるのさ。』
実際この当時、米英ではレーダーとしてすでに実用化されていた。
『そんなに小さくなるんですか?
それは良い!!!
なんでそんな良い物を軍は使わないんですか?
何か欠点でも?』
『うん!軍の意見では電波を出すと相手がわかるが、相手もこちらの場所がわかってしまう。
と言うんだ。
実際そうだけどね。
でも使い方によればこんな良い物はないはずなんだ。
是非、君の新兵器に使って欲しい。』
『ちょっと待って下さい!
自分が新兵器を作ってるなんて一言も言ってませんよ。』
『いや!さっきも言ったが状況がそれを証明しているんだ。
君は巨大砲塔を積んだ新兵器を作っている。』
『は〜っ!わかってしまってるんですか?………
ではここからは内密な話しにして下さいよ。』
『わかったよ!当然だ。』
『実は悩んでいたんですよ。
大和の測距儀は大き過ぎて積むのは諦めていたんです。
その機械が本当に小さくて性能が良いなら是非、使って見たいのが本音です。
ですが自分だけでは決められません!少しだけお時間を下さい。』
『わかった!使ってくれるなら何も言う事はない。
私は性能は保証するし、実験を重ねるとまだまだ良い結果がでるはずだ。』
『まだ使うとは言ってませんが検討してみます。
連絡しますので連絡先を教えて下さい!』
裕太の中では結果は決まっていた。
その後、工廠に戻りみんなと打合せをした結果、搭載が決まったのである。




