開戦
5
それから5年後、いよいよ第二次世界大戦が始まった。
裕太ももう20歳。いっぱしの技術屋になっていた。
見た目も今風で言うとイケメンである。
ある日、実家に光一が駆け込んで来た。
『裕太〜!いるか?』
『なんやあわてて〜!』
『うちのお偉いさんが裕太に会いたいって言ってんのや。』
『なんで〜?』
『前にな、局内の荷物運びに裕太のアイデアを話したんや、ほならな、そんなもん出来る訳ないわ!ってバカにされたんや。
で昔の中学の倉庫にホコリかぶってた改造扇風機を持ち出して見せたんや。
そしたら、みんなびっくりやで!
たいしたもんや!言うて誰が作ったんや?って事になり話したんや。』
『で俺が呼ばれた訳?』
『そや!開発費も考える言うてんねんで。』
『ほんまか?そりゃ行かなあかんがな。』
『そやろ!早よ行こ。
ついて来てや。』
二人は光一の勤める郵便局に到着すると、局長といろいろ話し合い試作品を作る事になったのだ。
話し合いの1ヶ月後、4機の羽とタイヤを付けた改造扇風機が出来上がった。
試作品は2m四方の大きさで、枠組みは木材の粗末な物である。
しかしテストしてみると子供二人が乗っても大丈夫なようである。
6
お披露目当日、面白い物が見れるとあって結構人が集まっていた。
裕太はその場に緊張した面持ちで説明に入った。
『え〜と!本日はたくさんの方に集まって頂きありがとうございます。
この度、俺が…いや私が作ったファンカーゴと言う物をお見せいたします!
名前は自分でつけました。
風の力を利用し物を運ぶ機械です。
説明より見たほうが早いので早速動かして見ます。
あ〜助手の光一くん!頼むよ!』
しかめっ面の光一がそれに乗りスイッチを入れた。
すると一同!
『おー!』
『たまげた!』
『コリャおもろい!』
光一もその声を聞きドヤ顔である。
お披露目は上手く行きその後、裕太と光一は局長室に呼ばれ実用品の契約を結ぶ事になった。
一月後その噂はやはり軍部にも届き、海軍大佐が裕太の家に訪ねて来たのである。
『君が赤間裕太くんかね?』
『はい!』
『私は海軍技術工廠開発隊(そんなもの当時ありません)大佐、轟 新太郎である!君の開発したファンカーゴとやらを海軍でも使いたいのだが?』
『本当ですか…光栄であります!
是非おかみ…いやっお国のためにお使い下さい。』
『そうか!
ひいては君をわが工廠の技術顧問に迎え、他の技師達と共に開発にあたってもらいたいのだが?』
『あっありがとうございます!』
『では早速明日より開発工廠にきたまえ!』
『あの〜?俺のいや…私の助手も連れて行ってよろしいでしょうか?』
『必要とあらば構わんぞ!ではこの書類に目を通し記載したら判子を押し持って来てくれ。では、待っておるぞ。』
大佐は書類などを渡し帰って行った。
『いやっほ〜、光一!やったぞ!海軍顧問だぞ!
これで俺も金持ちだ!
お前も一緒だからな。』
『え〜!俺には郵便配達が…』
『つべこべ言わず、行くぞ!』
翌日、裕太は光一も連れて海軍工廠に向かい書類の手続きを済ませ晴れて海軍顧問の技術士になったのだ。
7
日本は真珠湾攻撃を皮切りに米英と戦争状態に突入した。開戦当初、日本は連戦連勝で日本国中お祭り騒ぎで、
ラジオでは連日連夜、米英艦隊をまた撃破した。とがなりたて軍歌が響き渡っていた。
海軍では大和級戦艦が就航し世界一の排水量64000トン、長さは263mの規模を誇っていた。
主砲は46cm世界最大の砲門が3連装3基で9門装備、一発の砲弾の重さが1.5トンもあり約車1台分の砲弾を40kmも飛ばす能力があった。
この当時アメリカの最大戦艦で排水量45000トン、主砲は40cmである。
そして空母もアメリカより艦艇数が多く艦載機にいたっては有名な零式艦上戦闘機、通称 零戦である。
当時のアメリカ戦闘機F4Fでは赤子の手を捻るようで相手にならなかったのである。
陸軍も隼などの戦闘機の活躍もあり中国内陸に侵攻して行き、海軍と共に東南アジア諸国を次々に占領していった。
大東亜共栄圏の拡大は日々達成されていったのである。
8
そんなある日
『お〜い!光一、そこの図面取ってや。』
『はいよ、しかし日本は強えな〜!俺も戦艦とか乗って見たいわ。』
『何ゆうてんねん!戦艦より凄いもん今作ってるやないか!』
『わかってるがな〜!
そやけどホンマに戦艦より強いもんなんて作れんのかな〜?』
『あほやな!もうすでに戦艦より飛行機のほうが強くなってるやん。
まだ上層部は大艦巨砲主義見たいやけどな。
見ててみ、いまに戦艦より空母と飛行機が主力になるさかい。』
『なんでや?やっぱ戦艦はまだまだ強いやろ!』
『よう聞けよ!
戦艦も飛行機も玉は当たらんと効かへんやろ、
そやから遠くにいる敵もやっつけれるように巨砲を載せるんや。
世界一の大和は1.5トンの砲弾を約40kmの距離を飛ばせるんやで。
でもな、そんな離れてて、さらに動く標的に当たると思うか?
飛行機だと1トンの爆弾を抱えて何百kmの標的まで運んで落とすんや、当たる確率もええやろ!
で空母は玉の当たらん遠くにいるんやで、
戦艦対空母ならどっちが強いねん?』
『なるほどな!』
『でも裕太!うちらが作ってんのは戦艦でも空母でも飛行機でもないんやろ?
こんなんで勝てんのかな?』
『見ててみ!試作が出来たら驚くさかい。
だから早よ頑張って作らなあかん!』
『わかったよ!』
裕太はすでに開発部の責任者で光一もその助手として100人ほどの人を使い、ある物を作っていた。
その工場は長さ100m幅は50mほどの大きさだ。
船などを作るとしたら小さ過ぎるし飛行機なら大き過ぎるようなところである。
周りは人里離れた所にあり。海に近く、草原が広がっている場所である。
実際遠くから見ると、大きな倉庫のある牧場に見える。
海軍ではこのプロジェクトをほんの一部の人間だけが知る超極秘扱いとし大将クラスの人間にも知らされていない。
そんな重大任務を田舎町からでた裕太が責任者となり遂行しているのである。