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第四話 舞踏会への招待

「サリア達は公式の場ではいつも黒いフードとマントだけど、あれは決まり?」


 ある日、ふと疑問に思って尋ねてみた。


 父王に代わって諸国の代表と謁見する時など、同席する魔女達は常に黒いフードとマントの姿だったからだ。普段のサリア達は宮廷の侍女達が着ているような服装でいるので、特異な外見をしていない限りは誰が魔女で誰が魔女ではないのかハッキリとは分からない。私が知っている魔女もサリアと、たまにここを訪れる三人の下働きをする魔女ぐらいだった。


「いつからだったかしらね、今の服装になったのは。昔はあんなものは着ていなかった筈なのよ。私達だって女ですもの、お洒落はしたいしね」


 記憶を手繰り寄せるように考え込む。


「確か何代か前の王妃様が魔女の美しさに嫉妬したとかどうとか、そんな話だったと思うわ」

「その魔女ってサリアのこと?」

「まさか!! 私なんて凡人並みの顔しか持ってないわよ。確か……茜色の魔女と呼ばれていた人だったと記憶しているけど、凄く自由奔放な魔女でね」


 サリアの不確かな記憶によれば、本人にはその気はなかったのだが当時の国王をはじめ多くの宮廷の男達が彼女に夢中になったのだとか。そして彼女を巡っての恋のさや当てが激しくなっていくにつれ国政が疎かになり、それを危惧した王妃が男達の後始末に乗り出したということだった。


「王妃様も大変だったでしょうねえ……」

「その時、サリアは何をしている魔女だったの?」

「私? 当時は何をしていたのかしら……この花園を任される前のことだと思うから、多分、外務官になった王族の方について諸外国を回っていたと思うわ」


 そして彼女は私の顔をみて首を傾げた。


「どうして急にマントのことなんて尋ねてきたの?」

「ほら、王宮で仮面舞踏会があるじゃないか。サリアを誘ってみようかなと思って」

「……私を? 舞踏会に?」

「いったことある?」

「あるわよ。貴方のお母さまが御存命の頃にも護衛で何度か」


 確かに舞踏会の時にも彼女達が密かに立っているところを見たことはあった。ただし黒いマントを羽織った姿ではあったが。


「それは仕事でだろ? そうじゃなくて着飾って出たことはあるのか?ってこと」

「あるわけないじゃない。私は魔女であって貴族じゃないんだから」

「じゃあさ、貴族の女みたいに着飾って出てみない? ついでに僕の護衛ってことにすれば文句は言われないんじゃないかな」

「ちょっと待って。護衛がついでなの? それは間違っているわ。護衛について欲しいのならちゃんと行くから」

「違うんだ。僕はサリアを舞踏会に招待したいんだよ。だけど顔が出るのが不味いみたいだから仮面舞踏会の時に誘ってみたんだ」


 私の言葉にやれやれと首を横に振る。


「アル、いくら貴方の頼みでもそれは無理よ。第一、陛下がお許しにならないわ。ただでさえ最近は貴方が他の貴族のお嬢様達にまったく興味を示さないと仰って頭を抱えていらっしゃるのに」


 父王がこの仮面舞踏会を利用して何人かの有力な貴族の娘達を自分に引き合わせようとしているのは知っていた。だが生憎と自分はそれに大人しく従うつもりはない。自分の結婚相手ぐらい自分で見つけると決めていたのだ。


「女に興味が無いわけじゃないよ。ちゃんとサリアを誘っているじゃないか」

「だから、私は貴族じゃなくて魔女なの」

「サリアは女だろ?」


 それに、と密かに心の中で付け加える。サリアは自分のことを凡人並みと言っていたがそんなことはない。日の光に浴びて虹色に輝く髪や薄い水色の瞳は美しいし、なによりもその笑顔がとても愛らしい。宮廷貴族の間でも雪色の魔女殿は美貌の持ち主だと言われており、それを耳にするとたまに複雑な気分になるのだ。それを本人がまったく気づいていないのが不思議でならない。


「……まったく」


 その一言で彼女が折れたことを確信しニッコリと笑ってみせると、そのままこちらの希望を口にした。


「あ、だけど、妙なお婆さんに変化したりするのはダメだからね。ちゃんと今のままのサリアで出てほしい。それと、当日の衣装はちゃんとこちらで用意するからそれを着ること。僕からのお願いはそれだけかな」

「それだけってお願いが多すぎるわよ、アル」


 困った子ねと軽く睨まれた。


「だって初めてサリアを誘うんだ。綺麗に着飾ってほしいじゃないか」

「それって私の服のセンスが信用できないってこと?」

「違うよ。僕がそうしたいだけだ」

「それで? 陛下には何と申し開きするつもりなの?」

「ちゃんと正直言うよ。僕の魔女殿を招待しましたって」

「いつの間に私は貴方の魔女になったのかしら……」

「初めて会った時から」


 無邪気を装ってそう言ったが当然のことながら彼女はそんなことを信じるはずもなく。


「ちゃんと陛下にはお許しをいただいて下さいましね、殿下。私、今更ここを出て何処か他の国で暮らすだなんて真っ平御免ですから」

「大丈夫だよ。僕が国王になってもちゃんといてもらうつもりだから。それにサリアほどの知識と魔力を持った魔女を手放すなんてバカな真似は父上だってしないと思うよ?」


 そう言うと、じゃあ楽しみにしているからねと言い残して花園を出た。

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