~4~
幾度もの冬が来た。
幾度もの春が来た。
そして、もう数え切れないほどの命日が過ぎていった。
笑うことのできなかったお母さんが、僕を見て笑ってくれる。
お酒を飲んでは泣いていたお父さんが、僕と晩酌をするんだといって、僕を膝に抱いて撫でてくれる。
こうやって、僕たちはそれぞれ歳を重ねて生きてきた。
「コウちゃん、もうすぐ新しい年がくるわね」
そうだね、また新年がくるね。
ヒーターのかすかな音が暖かさを増してくれる。
コタツの中は、ちょうどいいくらいに暖かい。
二階に行けば、未だにミドリの部屋はそのままで、ピンクのベッドカバーにネコの柄だ。
でも、最近思うんだ。なんだか、疲れたなって。僕は長生きしすぎたんじゃないだろうか。
「長生きしてね」
お母さんが僕を撫でながらよく言ってたけど。その言葉の通り、僕は長生きしすぎた。
それでもお母さんを残してなんて逝けない。
僕は、もっともっと生きなくちゃならない。
僕はとっても大事にされて、とっても愛されて生きてきた。たくさんの愛をもらった分だけ、僕は頑張って生き続けるんだ。
お母さんを看取るまで、僕は頑張るんだ。
ある日、お母さんが倒れた。
台所で、フラフラしながら料理を作っていたけど、僕が気がついたときには倒れてた。
僕は必死でニャーニャー鳴いた。
庭で作業をしていたお父さんが、僕の鳴き声を聞きつけてやってきた。
それからは、電話をしたり、白い服の男の人が二人来てお母さんを連れて行ったりした。
多分、お母さんを病院へ連れて行ったんだろう。
病院へ行けば元気になって帰ってこれるから、大丈夫さ。
僕も具合が悪いと病院へ連れて行ってもらうけど、注射をして、薬をもらって元気になれる。
だから、何の心配もないんだ。
ただ少しだけ心配なのは、お母さんが歳をとってるということ。
始めて会った頃みたいに、元気ではつらつとしたお母さんじゃなくて、顔も皺だらけで、歩き方もゆっくりで……。
でも、きっと大丈夫。
きっと、元気になって帰ってくるから。
僕の願いは神様には届かない。
それは僕がネコだからだろうか。
僕が人間の言葉を話せないからだろうか。
元気になって帰ってくるはずだったのに、お母さんは小さな箱に入って帰ってきた。
最初、それがお母さんだなんて分からなかった。でも、その箱の横に置かれたお母さんの写真はミドリと同じように笑ってた。
その写真が置かれたら、もう愛する人は帰ってこない。
僕は、小さくなってしまったお父さんが心配だった。
また、ミドリの時みたいに泣いてしまうんじゃないかと、本当に心配した。
でも、お父さんが言った。
「お母さんは寿命だったんだよ。
残念なことに、私を置いて先に逝ってしまったけどね。
私だって、もうすぐお迎えが来るだろう。
……コウ君、ありがとう。そばにいてくれて、本当にありがとう」
そう言うと、引き出しから一枚の紙を出すとじっと見つめた。
「きっと、コウ君の飼い主は探してたんだ。
これが、きっとコウ君だったんだ……ごめんよ」
それは、ヨレヨレで色の変わってしまった紙切れだった。
広げられた紙には、僕の写真が載っていた。
なんて書かれているのかは分からないけど、お父さんはじっと、哀しそうにその紙を見つめていた。
「ミドリが寂しがると思って、飼い主さんにコウ君を返せなかった。
……ミドリが死んだら返そうと思っていたんだが、お母さんが寂しがってな……コウ君には、本当に酷いことをした」
お父さんは、僕に目を向けた。その目は、ミドリがいなくなったあの日よりも、もっともっと寂しそうだった。
「でも、そのおかげで私たちは幸せだったよ、ありがとう」
力なく立ち上がると、電話を手にして、震える指先でゆっくりとボタンを押した。
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