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淡雪に溶ける

作者: 宮原 皐子




「いっつもポケットの中に入れてたら寂しいんですけど……」



すっかり雪が降り積もった帰り道のことだ。


何の脈絡もなくそう言って俺を見上げてきたハナは、明らかに不満そうに眉を寄せていた。



「さみーんだもん」


「冬だからね」


「なにそんな怒ってんの?」



“今更”と続けるはずだった言葉を飲み込んだのは、ハナが突然俺のポケットに手を突っ込んできたからで。



「な、にしてんの」



ハナとは高校1年の時から付き合ってもう3年目。


冬になるといつも手袋をしない俺がポケットに両手を突っ込むのはもう見慣れたことだろうに。



「寂しいの」



普段なら人前で必要以上に近づくことも嫌がるくせに。



「……ダメなの?」



鼻の頭真っ赤にして、おっきい目を潤ませて……。


それが寒さからきてるってことは分かってるのに、なぜか泣いているように見えて。



「どーしたの、まじで」


「わっかんない、けど……急に怖くなった。ヒロが真っ白に溶けちゃう気がして、怖かった」


「雪に溶けるって?」


「バカっぽいでしょ?」


「どこもいかねーし」


「……知ってるし、」


「なまいきー」



狭いポケットの中でその小さい手を握りしめると、ハナはぴくりと肩を揺らして。


それでも照れ隠しのつもりか、もうその顔が俺を見上げることはなかった。











「っ」



それからすぐ、ハナは俺の前から姿を消した。


あの日の彼女がどんな顔して歩いていたのか、なんでもっとちゃんと理由を聞いてやらなかったのか。


なんでもっとちゃんと、手を繋いでいてやれなかったのか。



雪が溶ける。


もう春が来る。



本当にこの白の中に溶けてしまったなんて言わせない。



「……寂しいじゃん、」



空いてしまったこの手は、誰のそれと繋げばいいの?


ハナ、お前はどこで泣いてるの?




end.









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