事実は小説より奇なり
彼女が…琉那さんが助けてくれなかったら、本当にあのまま死んでいたに違いない。
性別は違えど、彼女を見ていると何故か社員の一人を思い出した。
『何度言ったら判るんだ?一人で仕事抱え込めばいいってもんじゃないだろ、ゆいまーる。判るか?』
最初は丁寧な言葉使いをしていたのに、打ち解けてきた途端ぶっきらぼうな口調と方言混じりで話しかけてきた時には驚いた。
今でも時折聞き返してしまう。だが彼は嫌な顔ひとつせず、笑って標準語で解説してくれる。
琉生。
お前は、皆は無事だろうか。何もされてはいないだろうか。
急に仕事が無くなって、きっと困っているだろうな…。
そういえば、琉那さんと琉生の名字は同じだ。こちらでは珍しいが地元には沢山いると言っていたから、琉那さんも沖縄の出身なのだろうか。
食事を頂き、どうにか一人で歩ける状態まで回復したので暇乞いをしようとすると、ものすごい剣幕で引き止められた。
「一人暮らしなんでしょ?どーせあたしも休みだし、元気になるまでいていーよ」
「いや、だがそれでは君に迷惑が」
そもそも一人暮らしの女性の家にこのまま居座る訳には…。
「あのね、洸さん」
顔を覗き込まれる。
「『情けは人の為為らず、やがて自らに返り来る』だよ。人に親切にしたらその親切はいつか自分に返ってくるの。それに」
眼の下を指差され、
「疲れてるんでしょ?ちゃんと休まないと駄目だよ。あたし明日まで休みだし、どっか行く予定もないから泊まっていきなよ。
お家が気になるならにーにー…あ、地元の方言で兄って意味なんだけど、にーにーに明日来て貰って送らせるから。ね?」
俺を見つめる目には、ただ心配の色があった。
打算など欠片もなく案じられるなど…こんなに、優しく…。
帰るべきだと判っていた。だが、この優しい瞳が宿す慈愛をはねのけられるような余裕は残っていなくて。
「…ありがとう」
もう少しだけ、甘えさせて貰う事にした。
だが。
「辛くなったら声かけてね、中に入るから」
風呂を借りようとした時の一言に絶句した。
どうやら、彼女にとって私は危機感を覚える存在ではないらしい。というか恥ずかしい。
彼女の兄とやらも、そんな彼女を容認しているらしいし。
…私がおかしいのだろうか。
そのままうとうとと寝てしまい、目が覚めたら。
「お、洸。目、覚めたか?」
見知った顔が私を覗き込んでいた。
「琉生っ!!」
「のわっ」
「大丈夫か、何もされていないか!?怪我は、皆はっ」
「落ち着けって、いきなり動いたら」
ぐらっ、と景色が揺れる。
「洸様っ!」
目を開けていられず、支えてくれる琉生の腕の中で、もう一人の声を聞く。
「美空、君が私を診てくれたのか…?何故、君達が、ここに」
「それは、あたしのにーにーとねーねーだからだよ」
「…な?」
どうやら、事実は小説より奇なり、らしい。