しゃちょーーー!?!?!?
互いに自己紹介して、歳も教えて貰った。
あたしは19、洸さんは25。
最初はお互い名字で呼び合っていたけれど、色々話しているうちに名前で呼ぶまでに親しくなった。
というか帰ると駄々をこねる洸さんを説得している間に言葉が砕けた。
「一人暮らしなんでしょ?どーせあたしも休みだし、元気になるまでいていーよ」
「いや、だがそれでは君に迷惑が」
「あのね、洸さん」
まだ熱もあるしふらふらしてるのに何言ってるんでしょうかねこの人は。
そのまま帰ったら家でぶっ倒れるよ絶対。断言するよ。
「『情けは人の為為らず、やがて自らに返り来る』だよ。人に親切にしたらその親切はいつか自分に返ってくるの。それに」
眼の下を指差す。
真っ黒な隈が出来ているそこを。
「疲れてるんでしょ?ちゃんと休まないと駄目だよ。あたし明日まで休みだし、どっか行く予定もないから泊まっていきなよ。
お家が気になるならにーにー…あ、地元の方言で兄って意味なんだけど、にーにーに明日来て貰って送らせるから。ね?」
あたしがそう言うと、洸さんは心底驚いた顔をした。
そんなに変な事を言っただろうか。
拾ったもんをポイ捨てする方がどうかしてると思うのだが。
「…ありがとう」
ちょっと硬直はしたものの、洸さんは申し訳なさそうに、でもようやく嬉しそうに微笑んだ。
「立てそう?」
「あぁ」
流石にお風呂は手伝えないので、支えて立って貰いお風呂場に案内する。
「にーにーのだけど、サイズは合うと思うんだ。ちゃんと洗ってあるし、あ、下着は新しいのだから」
「何から何まで、ありがとう」
「いーえ。辛くなったら声かけてね、中に入るから」
「………あぁ」
着替えを渡してお風呂に入って貰ってる間に、にーにーに電話した。
『はぁ!?男を拾ったぁ!?』
「うん、怪我して熱出してたの」
『俺も自分の事言えんけどよ、るー、お前やっぱり相当やっさ』
「いちいちとやかく言わんでよにーにー。で、明日時間ある?」
『どーせ暇だから今から差し入れ持って行くさぁ、美空も引っ張ってくから待っとれ』
「わーい、ありがとにーにー。美空ねーねーにもありがとーって言っておいて?」
『おー、んじゃ後でなー』
ピっと電話を切る。
「電話をかけていたのか?」
丁度お風呂から出てきた洸さん。
うわぁお。
「にーにーの服がにーにーの服じゃないみたい」
あらまこの人ハンサムさんだったのね。
昨日は必死だったから全然気付かなかった。
「これからにーにーが差し入れ持って来るって。あともう一人にーにーの彼女さんも来るよ。お医者様だから診て貰えると思うよ、良かったね」
「普通怒るものじゃないのか?」
「なんで?」
「…いや、何でもない」
何が言いたかったんだろ?ま、いっか。
とりあえずまた布団に戻るよう促す。
「ちゃんと寝ないと治らないよ?ほら」
「重ね重ね、申し訳ない。本当にありがとう」
「大丈夫だよ。おやすみ、洸さん」
「あぁ…おやすみ、琉那さん…」
すとん、と寝入ってしまった洸さんの額に、また冷えピタを貼る。
『情けは人の為ならず』
おじいがよく言ってた言葉。
あたしもにーにーもおじいが大好きだったから、今でもおじいの教えを守ってる。
それでちょっと大変な事になっちゃったりもするけど、人を疑うより人を信じて馬鹿呼ばわりされた方がずっといい。
あたしはそう思う。
「るー、あけてくれー」
「琉那ちゃん、あけてくださいます?」
「あ、今あけるねー」
洸さんが寝てから30分。にーにーと美空ねーねーが来た。
「今度は人を拾ったそうですわね?」
「あ、あはは…」
「お前はほんと拾い魔だな」
二人の呆れた顔。うう、毎回迷惑かけてる自覚はあるんだよ…。
「で、倒れていた方は何処ですの?」
「あ、あそこに」
「「洸(洸様)!?」」
二人の声がハモった。
「ちょ、え、何で洸がここに!?」
「すぐ診察致しますわ。琉那ちゃん、状況を説明してくださるかしら」
知り合い、なのだろうか?
二人の気迫にしどろもどろになりつつ、昨日から今日にかけての状況を説明する。
「…やっぱりあのまま拉致られたのか」
「こんなに傷だらけに…洸様…何てお労しい」
「拉致られた、って…そもそもにーにーと美空ねーねー、洸さんとどういう関係?」
「俺の友人兼勤めてる会社の社長。…まぁ、一週間前にクビになったけど」
「私の叔父が洸様の主治医ですの」
「へ…?」
社長。
社長。
「しゃちょー!?!?!?」
あたしの大声が、家中に響き渡った。