ようやく自己紹介
つんつん。
つんつん。
誰かが服を引っ張っている。
もー、何?眠いのに…って、
「ちょっと何あたし寝てるの!駄目じゃんっ、おにーさん看てるんだからっ」
慌てて顔をあげると。
「おにーさん、目、覚めたの!?良かった!」
昨日のおにーさんが、驚いた顔でこっちを見ていた。服の端が掴まれている所から見ると、どうやらあたしを起こそうとしていたらしい。
寝ているおにーさんの傍に近付き、冷えピタを剥がしておでことおでこをこっつんして熱を測る。
まだちょっと高いけど、うん、だいぶ下がった。
「うん、大分下がったね。あ、喋るのはちょっと待って」
口を開こうとしたのを制し、慌てて昨日の吸い飲みにポカリを入れて持ってくる。
「ポカリだよ。ゆっくりでいいからね」
そっと頭を支え、ゆっくりポカリを飲ませる。空になったので口から離し、頭を降ろした。
うん、もう大丈夫そうだ。
「おにーさん、何処か痛む所は?物凄く気持ち悪いとかはない?あ、声出すのまだ辛いなら」
「いや…大丈夫、だ」
あらいい声。
「良かった。でもあちこち打ち身とかあったから、まだ動いちゃ駄目だよ。今おかゆ作るから。状況説明はそれ食べながらするから」
そこまで言うと返事を待たずにキッチンに立つ。
味は落ちるけど早く出来るので、冷凍ご飯で即席の卵おじやを作った。これなら食べられるだろう。
「お待たせ。身体起こすよ、目眩がしたら言ってね」
ゆっくりと身体を起こし、クッションを背にあてて姿勢を保たせる。
「これで良し。あ、卵大丈夫?」
「あぁ」
ならオッケー。
軽く醒ましてお茶碗を持たせる。
「いただきます、っと」
呟いて有り難く朝ご飯を食べた。
男性にしてはあまり進んでないようなのは、やっぱり具合が悪いからなんだろう。
ゆっくりとだが匙を口に運ぶのを見ながら話し始める。
「食べながらでいいから聞いてね。昨日の夜、おにーさんはすぐ傍の公園で倒れてたの。
意識もなくて怪我もしてて、本当なら救急車呼ぶべきだったんだろうけど、あたし持ち合わせがなくて。
でも、警察呼んで待ってたらおにーさんもしかしたら死んじゃうかもって思って。で、うちに運んだの。
急に熱があがったりしたら流石に救急車呼ぼうと思ってたから起きてるつもりだったんだけど、寝ちゃってごめんね。」
「いや、気にしなくていい。その…助けてくれて、ありがとう」
おにーさんはちょっと会釈しながらお礼を言ってくれた。
身なりもいいし、どうやらホームレスじゃないっぽい。
「何処か連絡する所ある?ちょっと待ってね、携帯持ってくるから」
「いや、私は独り身だ…特に連絡する者はいない。」
「でも、多分色々持って行かれちゃってるよ?カードとか止めなくていいの?」
「家に帰らないと連絡先が判らない。それに全て指紋認証仕様だ…使えないだろう」
なら安心だ。
「あ、そうだ、ここが何処だか気になるよね。住所は」
「その前に」
「はい?」
「助けてくれた恩人の名を、教えてくれないか」
恩人って。
いやん照れるじゃないの。
「あたし、島袋琉那。」
「私は、咲坂光だ。」
あたし達は互いの顔を見て、くすっと笑った。