第七章 二人だけで…
英二と明日香、そして弥生と慎太郎、淳。
いつもと同じく過ごしていた。
伸二の事件から4ヶ月たっていた。
英二は、いつものように家で明日香と何気ない日々を過ごしていた。
「おい!何か楽しい事ないかな?」
明日香に甘えるように英二は寄り添った。
多分、やる事が目的だろう明日香は、そんな英二を好きだった。みんなの前では、強い男でいるが、明日香の前だけでは甘えた英二が見えるからだ。
でも、その日は違った。
「もう!あんまり、くっつかないでよ」
いつもとは違う明日香の態度に英二は戸惑った。
「あっそ」
そう言うと、反対方向を向きスネ始めた。
「ちょっと!子供みたいにすねないでよ。これから大変なんだからさ。」
「ん?」
英二は意味が分からなくなって明日香を見た。
「しょうがないな。驚かないで聞いてよ。実は出来たのよ。」
「ん?」
意味がいまだにわからない英二。
「だから、出来たのよ。子供が。英二と明日香の赤ちゃん。」
何を言ってるのか、すぐには理解が出来なかった。
でも、すぐに笑顔になり明日香を抱きしめた。
「まじ?まじ?」
「うん。まじ!初めは体調不良かと思ったけど、弥生と一緒に病院に行ったら、3ヶ月目だってさ」
英二はまた強く明日香を抱きしめた。
「俺、働くよ。無理してでも働く。だから、産もうな」
明日香は、返事と同時に英二を抱きしめ返した。
次の日、さっそく慎太郎や淳にも報告した。
やはり驚いた。でも、幸せそうな顔の二人を見てると喜んだ。
「じゃあ、さっそく親達に挨拶したのか?」
慎太郎が聞くと、肝心な事を忘れていたかのように英二は明日香と顔を合わした。
「ヤッベ〜。そうだったな」
英二はまだ明日香の親と対面した事がなかった。
さっそく、明日香は親に話したい事があるからと英二と会う約束を取り付けた。
一週間後、その日は来た。
慣れないスーツを来て、明日香と会うとさっそく爆笑された。それもそのはずだ。
いつも、今時の若者という感じの服しか着ない英二が、ビシッとスーツ着てきたからだ。
まぁそれぐらい、真面目な証拠だ。
免許を取ったばかりの明日香の運転で家に向かった。
「本当に大丈夫?」
明日香は心配していた。
「まかせておけって」
なぜか自身満々の英二だったが、家の前に着くと、胃が痛くなり緊張してきた。玄関で深く深呼吸をすると、明日香と一緒に中に入った。
一見、普通の二階建ての家だが、英二にとっては、かなり豪邸に見えた。
奥に案内され普通の部屋より少し広めの応接間に行った。
また深呼吸をして、ふすまを開けた。
中には、父親と母親が並んで座ってる。息がつまりそうな空気が流れた。
「失礼します」
おじぎをしながら、父親達の前に座った。
明日香が恥ずかしそうに、英二に手を差し伸べながら
「こっちが、鎌田英二さん。」
英二も照れた。
すると同時に、父親が話しかけた。
「英二君だよな?噂は聞いている。そこら辺では、有名じゃないのか?」
英二と明日香は、何を言ってるのかわからなかった。
父親はさらに続けた。
「恐喝した金で遊んで。女、飲酒、喫煙。盗み等と警察からも一目置いてる。しかも、今は留年してるみたいだな」
英二は本当の事を言われて、黙った。
「ちょっとお父さん!失礼じゃん!いきなり、そんな事言って。今の英二は変わったんだから。」
明日香は、父親に怒鳴った。英二はすぐに、明日香を止め、正座をした。
「たしかに、俺は周りから見たら悪いことをしてきました。でも、今は明日香と出会って一緒に過ごしてる内に、真面目になる決意です。
絶対に苦労はかけません。お願いします。結婚させてください」
床に頭を付くように下げた。
「駄目だ」
父親は、厳しい口調で答えた。
明日香も正座した
「お願い。お父さん。お母さん。本気なの。しかも…お腹に子供もいるのよ」
両親は驚いた。
同時に、父親は立ち上がり
「ふざけるな!まだ十代じゃないか?しかも、こんなチャラチャラした奴の子供なんて…絶対に許さん。子供はおろす。」
そう言って部屋を出た。
母親も黙ったまま出ていった。
明日香の家を出て、二人でたまり場へ行った。その行く道。
「ごめんな。俺がもっと真面目になってれば…」
英二は、さすがに落ち込んでいた。
明日香は何も言う事が出来ず黙ったまま歩いた。
たまり場に着くと、慎太郎と淳、弥生がいた。
「どうだった?」
弥生は心配そうに聞いた。
「全然ダメ。話も聞いてもらえなかった」
弥生達はがっかりした。周りに重い空気が流れ、それぞれ何も話さないまま帰った。
それから一週間後。英二は仕事を探していた。一人街を歩いていると、ばったり明日香の母親と出会った。
「英二君だったよね?今いいかな?」
母親と喫茶店に入った。
挨拶に行ったきり、何の変化もないまま出会って、また重い空気が店内に流れ始めた。
「この前はごめんね。うちの人が怒鳴ったりしてさ。」
この前は、話もしなかった母親は優しい口調で言った。
英二は少し緊張がほぐれ、笑顔で答えた。
「話しとは?」
英二は、もしかしたらと思い聞いた。
「明日香の事なんだけどさ、あの子、一人娘だから、うちの人は可愛がってるの。でも、明日香が決めた人ならって、前から決めてた。
英二君は明日香の事、本当に愛してる?」
英二を確かめるように母親は聞いた。
「もちろんです」
英二は強く言った。
「明日香のためなら何でも出来る?」
「はい!絶対に」
しばらく母親は黙った。
「じゃあ、あの子のために死ねる?」
「はい。明日香のためなら辛い事も出来ます。」
英二の言葉はウソじゃなかった。
また静まり返った母親は、にっこり笑い
「なら、別れて」
英二の周りが一気に静まり返った。
それもそのはずだ。英二は結婚を許してくれると思ったからだ。
母親は再びしゃべり出した。
「あの子は私達の宝なの。今が大事な時だって知ってる。
早く結婚すればするほど辛くなる。親ならば、娘にはしあわせな安心な結婚をして欲しいから。
さっき、明日香のためなら何でもするって言ったよね?
なら、明日香のために別れてください」
英二は真っ白になった。でも、母親の言う事は当たってる。だから、何も言う事が出来なかった。
「三日間だけ待つわ。」
母親は、そう言うと出て行った。
途方に暮れながら、英二は明日香と会った。
どこも行く所もなくて、たまり場に向かった。
ドアを開けようとすると、中から声がした。慎太郎と淳だ。
「しっかし、あの英二が結婚とはね。嬉しいけど…」
「やっぱ、まだ十代だし、親なら反対するよね。オレでもするよ。別れさせるね」
何気に言った淳と慎太郎の言葉に二人はショックだった。
たまり場を後にして、近くの公園のベンチに座った。
二人は黙ったままだった。
明日香は泣きそうな声で聞いた
「十代って結婚しちゃダメなのかな?若いからって、愛し合ったらダメなのかな?」
英二は悔しかった。(もし、若くなかったら。もう少し大人だったら…俺が真面目にしていたら…)二人は、泣きそうな気持ちだった。
みんなに祝福されたい。みんなが羨ましがるような結婚したいのに…
やりきれない気持ちだ。
英二は、少し考えた。そして、口を開いた。
「明日香、全部捨てる事出来るか?俺たちだけで、どっか行こうか?」
明日香は、少し黙り答えた。
「ここで、みんなに祝福されないなら、英二と二人だけでいたい。」
二人は駆け落ちを決めた。
次の日、朝早くからあるだけの貯金と荷物を持って、二人は電車に乗り行ってしまった。
その日の学校では、英二達がいなくなったのが知れ渡っていた。
もちろん、明日香の両親と英二の祖母は学校に来ていた。
英二と明日香は、全てを捨ててまでも二人でいることを選んでしまった。