第五章: 子供
明日香と付き合って、3ヶ月!
毎日が楽しくて、英二は、女遊びもケンカも止めていた。
周りは、その変化ぶりに驚いたが今の英二が好きだった。
たまり場には、いつものメンバーで賑わっていた。
そんなある日。
いつものように、たまり場へ来ていた英二達は、今の状況が掴めてなかった。
ぼーぜんと立ち尽くす英二と淳と慎太郎とケイ。
目の前には、1人の女性がいる。
何やら、ものすごい形相で英二達を睨みつけている。
「あの〜、何でしょうか?」
ケイが恐る恐る聞いてみた。
女性は、しばらく英二達を睨み続けると、
「噂で聞いていた通りね。人間のクズだわ」
思いもよらない言葉が帰ってきた。
英二は、聞くと同時に
「何だと?いきなり入って来て、ケンカ売ってんのか?」
と、女性の前に出た。
それでも、怯まず女性は
「すぐに暴力に走り、未成年者のくせに喫煙、飲酒、その上淫らな男女関係。近所でも有名な鎌田英二…はっきり言って、犬以下ねえ。」
と、英二に薄ら笑いで言い返した。
さすがに、切れる目前の英二は更に、前に出て睨みつけた。その時、たまり場のドアが勢いよく開き、弥生と明日香が入ってきた。
「お母さん!」
英二達は耳を疑った。
「弥生ちゃん。ダメですよ。こんな所へ来ちゃ。」
何と、英二達をさんざん言った女性は、弥生の母親だった。
「何でここにいるの?仕事じゃないの?」
弥生は、少し戸惑いながら聞いた。
「あなたの噂を聞いてね。こんなゴミ箱みたいなところへ出入りしてるって聞いたからさ。
さっ、帰りましょう。いつまでも、こんな場所にいたら、死んでしまうわ。」英二は切れた。
「おい!弥生の母親だか知らねーけど、言っていいことと悪い事があるだろう。」
それを無視して、弥生の母親は弥生を連れて出ていった。
そばにあったイスを蹴ると英二は、
「あ〜!何なんだよ。弥生の母親だからって…ムカつく」
イライラが収まらない英二を見て、明日香は
「しょうがないよ。弥生のお母さん、議員だもん。自分の子供が、悪い道に行ったら恥ずかしいんじゃない?」
全員黙った。それは当たり前な事だったからだ。
何日か過ぎ、あの日以来弥生は、たまり場に来てなかった。母親が行かさないのだろう。そんなある日に、事件が起きた。
英二達が学校にいると、英二のケータイが鳴った。
着信:明日香
「おう。どうしたんだ?」
「どうしたじゃないよ。大変だよ。弥生が学校辞めたのよ。」
電話の声は周りにいたケイ達にも聞こえた。
すぐに学校をでて、明日香と合流した英二達は、弥生の家へと向かった。
チャイムを鳴らすと母親が出て来た。
「何の用?」
「弥生が学校辞めたって聞いて来たんです。弥生と話しさせてください。」
明日香は、必死に言った。
弥生の母親は、明日香だけを見て、
「明日香ちゃんだけ入って。」
英二は、また切れた。
「俺たちはダメなのかよ。俺たちも仲間なんだよ」
「あなた達みたいな人と付き合ってるから、こんな事になったのよ。早く帰りなさい」
訳も分からず、英二達は追い返された。しばらくして、明日香がたまり場に戻ってきた。
「どうだった?」
英二は聞いてみた。しばらく黙って、明日香は、深刻な顔をして
「…弥生さ、妊娠してるんだって…」
その言葉を聞いたとたんに、英二達は驚いた。
「誰の子?まさか、あの元カレ?」
明日香は、静かにうなずいた。
「元カレの方と、連絡が取れないみたい。弥生のお母さんは、降ろすように言っていてさ。だから、学校辞めさしたんだって」
英二は、だんだん怒りが込み上がってきた。
(妊娠したからって、弥生の気持ちはどうするんだ)
そう思うと、無意識に、弥生の家へ向かった。その後に続き、ケイや慎太郎、淳と明日香も向かった息を切らしながら、弥生の家に着くと、チャイムを鳴らした。
やはり、弥生じゃなく母親が出て来た。
「また来たの?あまり、しつこくすると警察呼ぶよ」
英二は、今度は怒らずに深々と頭を下げながら言った。
「お願いします。弥生と話をさせてください」
「もう、あの子とは関わらないで!」
そう、言うと母親はドアを閉めようとした。
「待ってよ!」
明日香が、止めた。
「私なら入らしてください」
そう言うと、家の中に入って行った。
英二と慎太郎と淳は、ずっと家の外で待っていた。
弥生の部屋の前で、明日香はゆっくりノックした。
「弥生?明日香だよ。部屋にばっかり入ってないでさ、外に出てきて」
弥生は黙っていた。
明日香は、ドアの前に座ると、ゆっくりと喋り出した。
「弥生、覚えてる?小学校の時に初めて会った時の事…」
部屋の中で、弥生は静かに聞いていた。
「初めてさ、会った時私泣いていたね。何で泣いていたのかは、忘れちゃったけど弥生が急に現れて、アメ玉くれたよね。
ただ、もらっただけなのに涙が止まってさ、それから2人でいつも一緒にいたっけ?
怒られる時も一緒。笑う時も一緒だったね。そして、一緒に成長してさ、今もこうやって喋っていてさ。何か不思議だよね!
それから、英二や淳や慎太郎達に出会って。また楽しい事増えて来たね。
これからも、楽しくなるよ。
夏になったらさ、みんなで花火しようよ。河原でさ、沢山買ってきて。また、英二がバカな事するんだろうね。川に飛び込んだり。あいつは本当にバカだからね。
そして〜冬にはクリスマスパーティーしてさ。雪降るかな?今年。
これからさ、忙しくなるね。
あっ!夏に向けて水着買いに行こっか?弥生も欲しいって言ってたじゃん。楽しみだね〜。」
明日香が独り言のように喋っていると、ドアが開き、弥生が出て来た。
涙を流しながら。
明日香は、ゆっくり弥生を抱きしめた。
「またさ、みんなで笑っていようよ。弥生の気持ちを全部出してよ。
何度でも、私は言うよ?弥生は一人じゃないってさ。」
明日香の胸で、弥生は泣きじゃくった。一方、外の方では英二達が母親を説得していた。
「早く帰ってちょうだい。警察呼ぶよ」
相変わらず、英二達をイヤな目で見ていた。
その時、ドアが開き明日香と弥生が出て来た。
英二達は、弥生の姿を見ると安心した顔になった。
「弥生ちゃん。ダメですよ。外に出て来ちゃ。」
弥生を中に連れ戻そうと母親は、弥生の手を掴んだ。
その手を振りほどき弥生は言った。
「お母さん。ゴメンナサイ。私…産みたいの」
母親は驚いた顔をした。
「何言ってんの?あなたはまだ、子供なのよ?しかも、父親もいない子供なんて恥ずかしいじゃない」
それでも、弥生は首を横に振り、英二達の前に行った。
「弥生ちゃん!お母さんの言うことを聞きなさい」
そう言って、弥生の顔をビンタしようとした。
寸前の所で、明日香が間に入り、母親のビンタは明日香に当たった。
「!!明日香」
英二はすぐに、近寄り明日香を見た。明日香は、顔が赤くなってるだけだった。
「弥生ちゃん。これ以上、お母さんを恥ずかしがらせないで」
その言葉を聞くと、英二は切れた。
「おい!てめぇ〜バカじゃねぇか?自分の子供の気持ちもわからねぇで、自分自身の心配ばかりしやがって。
母親じゃねぇかよ。
じゃあ、てめぇ誰だよ?
誰が、弥生のおしめ変えた?誰がミルクあげた?
弥生が、風邪引いたら誰が、そばにいた?弥生が、一番笑顔を出した相手は誰だよ?
てめぇ誰だよ?てめぇ誰だよ?
てめぇは、母親だろうが!」
あまりにも、でかい声で切れてる英二に誰も何も言えなかった。
少し、涙目の母親は下を向き黙ってた。
「お母さん。お願い。私…産みたいの。お母さんとこの子と一緒にいたいの」
涙を流しながら弥生は言った。
少し弥生を見つめ、母親は弥生の頭をなで始めた。
「心配なのよ。あなたも私と一緒みたいな人生送るんじゃないか?って。」
すると、慎太郎や淳、明日香も前に出て来て言った。
「大丈夫です。私たちがいます。これからも全力で弥生も子供も守ります。」
母親は、少し英二達を見つめながら、笑顔を出した。
「初めてだね。弥生ちゃんが私に、刃向かうこと。
こんなにいい友達がいたなんてさ。
弥生を見守ってください。」
そうして、頭を下げた。
「じゃあ、産んでもいいの?」
弥生は恐る恐る聞いた。
母親は何も言わずに、家に入ろうとして、後ろを向きながら言った
「早く、準備をしなさい。今日は、お祝いするよ。初孫が出来たからね」
英二達は、見つめ合って喜んだ。
その夜、弥生の家で遊びまくり、かなり夜遅くになったので、英二は明日香を近くまで送る事にした。
「弥生、嬉しそうな顔してたね。」
明日香は一歩前に出て、笑顔で言った。英二は、それを見て、微笑んでいた。
急に明日香が隣に来て、英二の手をにぎり、笑顔で言った。
「私も、子供欲しいな。」
一瞬にして、英二の顔は赤くなり、照れながら
「馬鹿やろう!」
と横を向いた。
二人は、手を握り合いながら、夜の道を歩き続けた。
幸せな顔をしながら…