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第四章 初めての気持ち

英二は自分の気持ちに気付いた。夢で終わるか?現実に出来るか?

季節は巡り、4月。高校三年になった英二達は、たまり場で進級のお祝いをしていた。

弥生にケイ、慎太郎に淳、そして明日香とメンバーが集まり、楽しく飲んでいた。ただひとりを残しては…

「おいおい、そんな落ち込むなよ!」

「そうだよ。みんな変わらないよ。」

みんなが慰めているのは、奥で一人で飲んでる英二だった。

「うっせぇよ!俺は…」

「別にいいじゃん!ダブってもさ」

英二を必死に慰めていた。

そう、英二は出席日数が足りなく、もう一度二年生をすることになったのである。

「ちくしょう!もう暴れてやる」

かなりショックだったみたいで、さっきから一人で飲み続けていた。

「でも、すごいじゃん。タブってもさ、生徒会長なんだよ」

そう!何と、罰ゲームで負けた英二は、生徒会長に立候補し、見事当選したのである。

「そうそう、めったにいないよ。ダブりで、金髪でケンカ好きで女しか興味ない生徒会長はさ」

淳が英二の肩に手を置きながら、言った。

「てんめぇ、バカにしてんのか、誉めてんのか、はっきりしろ」

そう言って、淳にプロレス技を駆け出した。

英二は、変わらない仲間と過ごす時間が何より好きだった。そんなある日、英二は生徒会の仕事で遅くまで学校にいた。

「ったく、まだ終わんねえのかよ」

そう愚痴をこぼしながら、山積みになった紙を片付けていた。

もう、生徒は残っておらず英二しかいなかった。

ケータイを見ると、着信が残ってた。

着信:祐介

(珍しいな)

明日香と別れた祐介は、英二達とは離れたものの、英二とは普通に接していた。とりあえず電話をしてみた。

「祐介か?どうしたんだ?」

「英二、今大丈夫か?話があるんだけど…」

少し、暗い声で返ってきた。

二人は、一時間後に居酒屋で待ち合わせした。

居酒屋といっても、英二達の先輩が経営してる所で、落ち着いて飲める場所だ。奥の座席に向かい合わせで座ると、英二は切り出した。

「で?話って?面倒な事はイヤだぞ?」

「いや…俺さ、明日香と別れて、色々考えたんだ。何でこんな事したのかさ。毎日明日香の事だけを考えてさ。いつの間にか、本当の気持ちに気付いたんだ。明日香が好きだってさ。悔やんでも無理かもしれないのにさ。」

英二は戸惑った。祐介の浮気で、明日香がどれだけ傷ついたのか知ってるからだ。

「お前は、どうしたいんだ?」

祐介を見ると、

「出来れば戻りたい。今度こそは、大切にする。」

そう真剣な目で言った。

少し、沈黙が続き、英二は再び祐介と明日香を結べようと思った。

その夜、英二は明日香に電話した。

「もっし?英二君?どうしたの?」

いつもなら、すらすらと話せるのに、この日は違った。

「あ…いや…お前よ、祐介の事まだ好きか?」

自分の言葉に辛く胸が痛んだ。

「何で?」

しばらく黙り、英二は祐介の気持ちを明日香に言った。

明日香は、黙った。

「勝手かもしれないけどよ。もう一度信じてみろよ」

英二は必死に明日香に祐介を進めた。

「何で英二君が言うの?英二君は、どうした方がいいと思う?」

胸の鼓動が早くなった。言葉が出て来ない。

「英二君?」

黙ってた英二は、

「祐介よ、お前の事めっちゃ好きなんだ。俺としては、応援するよ。祐介は友達だしさ。…お前もよ」

何故か、汗が出てきた。人をくっつけるのが苦しいのは、英二にとっては初めてだったのだ。

「…意味わかんない。だから、何で英二君が言うのよ。バカみたい」

明日香は、怒ったような口調で言った。

「バカとは何だよ!いい加減に付き合えよ。祐介の気持ちも大切にしろ!」

なぜ、怒ってんのかわからず、怒鳴り散らした。

「そっちこそ、人の気持ちとかわかるの?そんなに偉い人間なんだ。」

明日香も負けじと言い返した。

「あっそ、じゃあてめぇは、一生気持ちがあやふやなままでいろ!」

「そっちこそ、意味なく電話で切れないでよ!そういう態度だから、たぶっちゃうんだよ」

明日香と英二は、いつの間にか言い合いをして電話を切った。

一人でイライラしながら、英二はベッドで寝ていた。

(何だよ!あいつ…)

次の日、たまり場で明日香と英二は顔を合わした。だが、口は聞かなかった。

「明日香〜、これから買い物付き合って〜」

何も事情を知らない弥生が言った。

「ごめん。今日、少し用事があるからさ。」

明日香は、申し訳なさそうに断った。

「ん?さては男だな?」

バッと明日香の顔が赤くなった。

それを見た英二は、近くにあったイスを蹴ると、外へ出ていった。

「最近のアイツ荒れちゃってねぇか?」

ケイと慎太郎は英二の態度に違和感を持っていた。

それから、3日たっても、英二はたまり場には来なかった。噂では、毎晩飲み続けて女と遊んでるらしい。まっいつもの英二の生活だ。慎太郎達は、気にしないでいた。

明日香と祐介の事は、みんな知らされていた。反対をしていた弥生もたまり場には来なかった。

さらに、一週間が過ぎた夜。久しぶりにたまり場にメンバーは集まった。だが、祐介と明日香、そして連絡さえ取れない英二はいなかった。慎太郎達は、少し寂しそうにしていた。突然、淳のケータイが鳴った。

「もしもし?先輩?お久しぶりです。えっ?英二が?すいません!今、迎えに来ます」

電話の相手は、居酒屋を経営してる先輩からだった。毎日、お店に来ては酔いつぶれてる英二を引き取ってくれという電話だった。

淳は英二を迎え、ひとまずたまり場に戻ってきた。

寝かしつけると、淳達は

「ったく、何で、こんなになるまで飲んでんだよ!」

愚痴をこぼすと、弥生はそっと、英二を見た。

「やっぱり、好きだったんだ。」

慎太郎と淳とケイは弥生を見た。

「女のカンだけどさ、英二は明日香が好きだと思う。」

三人は、驚いた。まさか、英二が恋?女はsexとしか考えない奴が?

そう思うと、思わず爆笑しあった。

その声で、英二は目を覚ました。

「てめぇ〜ら、うるせぇぞ!」

そして再び、眠り始めた。

淳達は、笑うのを止め、英二をよく見た。所々に傷がある。たぶんケンカだろう。

その傷を見て、

「でも、初めて見るな。こんな情けない英二は。案外、マジかもな。祐介の二股がわかった時、真っ先に祐介を殴ったのは、コイツだしさ。」

メンバーは、英二の気持ちに気付いた。

でも、その事は口にしなかった。

しばらくして、英二は起きた。

「あったま痛ってぇ!水をくれ」

弥生は、持っていたお茶を英二に渡した。

「大丈夫?」

英二は、お茶を飲むと何かを思い出したように黙った。

淳達は、何も言わずに、英二に酒を出した。

「まっ飲めよ!飲んでさ、忘れろよ。たまにはよ、弱い鎌田英二も、かっこいいぜ」

そう慎太郎は言った。

英二は、何故か涙が出た。メンバーにきづかれないように、後ろを向き酒を一気飲みした。

初めて気付いた気持ち。もう届かない気持ち。

英二は初めて人を本気に好きになった事に気付いた。朝まで飲み明かした、英二達は、そろって学校を休んだ。

次の日、英二は一人で街に行った。まだ、気持ちに整理がついてないらしく、ただ歩くだけしていた。

いつもの裏道に行くと、四、五人ぐらいの別の高校の奴がたまってた。

無視しようとしたら、

「おい!てめぇ〜昨日の奴だな?」

急に囲まれた。

よく見ると、一人は昨日かつあげした奴だった。

英二に仕返ししようと待ち伏せしていたのだ。

「あ?だから何だよ?やんのか?」

そう言うと、英二は目の前にいた奴を殴りつけた。

だが、一人の英二にかなうわけなく袋叩きにあっていた。

「おまわりさ〜ん。こっちで〜す」

遠くから警察を呼ぶ声がして、英二以外は逃げ出した。

英二は、地面に倒れ、声のする方を見た。

「明日香?」

立っていたのは明日香だった。

「さっき見かけてさ。無我夢中でウソついちゃった。」

ハンカチを出し、英二の傷に当てた。

急に、英二は明日香の手を払い

「余計な事すんじゃねぇよ。」

冷たく、言った。

明日香は下を向き、黙った。

「さっさと行けよ!彼氏が待ってるぞ。」

英二は傷ついた体を起こした。

「でも…ほっとけないじゃん。傷だらけだよ?」

心配する明日香を見て、

「てめぇ〜には、関係ねぇよ!」

「あるよ!私は…」

何かを言いかけた明日香は、また下を向いた。

英二は、その様子を見て、急に壁に明日香を押し付けた。

「私は?何だ?好きなのか?俺の事!じゃあ嬉しい事してやるよ」

そう言って、無理やりキスをした。

明日香は、英二を突き飛ばし、涙目になりながら

「さいってい」

そう言うと走って行った。

英二は、自分がわからなくなっていた。近くにあったゴミ箱を蹴ると、上を向き叫び続けた。

まるで気持ちを殺そうとするかのように。

英二は、一人たまり場にいた。

先ほどの出来事を悩んでいた。

なぜ、あんな事したんだろう。答えはなかった。

「くそ!」

そばにある雑誌を投げつけた。

「荒れてんな」

声がする方向を見ると、祐介がいた。

「何だよ!わりぃかよ。」

「別に…」

二人は黙った。

英二は複雑な気持ちだった。好きな奴の彼氏と一緒にいるのが苦しかった。

祐介は、ゆっくり英二に近づくと、

「あのよ…さっき明日香が来た。明後日、引っ越すんだとよ。場所はわからないけどよ」

英二は驚いたが、何も言えなかった。

「いいのかよ?」

祐介に聞くと、ふっと笑って、

「俺も一緒に行くよ。ちゃんと彼氏としてな」

胸がしめつけられた。

黙って、たまり場を出ようとすると

「逃げんのかよ!俺は知ってるんだぜ。英二が明日香を好きな事」

英二は、立ち止まり

「ばかじゃねぇか?俺はsexしか興味ねぇよ!」

と言って、出ていった。

2日後、英二達の高校と弥生達の高校は、合同で生徒総会で体育館に集まっていた。

この日、祐介と明日香は休んでる。引っ越すためだった。

「見送り行きなよ。」

弥生は英二に言うが、

「馬鹿やろう!俺は今日生徒会長として、挨拶があるんだよ。んな事で行けるかよ!」

いつもなら、サボる英二だが、今日は真面目に出ていた。たぶん、何かをしてなきゃ落ち着かなかったんだろう。

先生方からも、(今日1日だけは真面目な生徒でいてくれ)と頼まれていたからだ。

生徒総会は順調に過ぎて行き、英二が挨拶する時間になった。

アナウンサー

「続きまして、輪等高校 生徒会長 鎌田英二さんおねがいします」

ビシッと制服を着けた英二が出て来た。

挨拶を始めようとすると、体育館のドアが勢いよく開いた。私服姿の祐介が息を切らし立っていた。

会場はざわめき始めた。

「祐介!」

弥生達も立ち上がり祐介を見た。

祐介は英二のもとに歩きながら、

「てめぇ〜、何してんだよ?もうすぐ行っちまうんだぞ!

こんな事してる場合か?」

英二は何を言っているのかわかった。

だから、黙っていた。

先生方に捕まれながら、祐介は叫んだ。

「明日香は、お前が好きなんだよ!俺は、振られたんだ!お前は、どうなんだよ?英二!」

英二は、立ち尽くした。

祐介は、そのまま外に出された。

「え〜、ハプニングがありましたが挨拶を続けてください」

司会の人が言うと、英二は続けた。

「俺は、見た目は悪い。はっきり言って、会長とか似合わないと思う。でも、なったからには、しっかり最後までしようと決めたんだ。」

会場は、またざわめき始めた。

「俺…でも、もっと大切なものがあると気付いたんだ。ケンカしかしなかった俺でも。女はsexする事しか愛せなかった俺でも。こんなに人を好きになったんだ。初めてなんだ…だから、ごめん。会長の仕事より大切なものがあるんだ」

そう言うと、舞台から降りた。

先生方は止めに入ったが、慎太郎やケイが間に入った。

「早く行け。」

英二は走った。まだ間に合う。そう思い、明日香の家に走った。

明日香の家に着くと、ちょうど明日香は荷物を積んでいた。

「英二君?」

息を切らし、明日香の前に立ち、英二は気持ちを伝えた。

「俺…お前が、どんなに遠くに行っても、変わらないから!ずっと好きでいるから。初めてなんだ。人を本気で好きになった事。」

明日香は、突然の事で驚いた。

しばらくして、英二の姿を見て笑った。

「何?その格好!英二君じゃないみたい。」

英二は自分の真面目な姿を見て恥ずかしがった。

「ドラマみたいだね。」英二は、明日香を見つめた!

「でも、英二君何か勘違いしてないかな?」

「は?」

「引っ越しって言っても、すぐそこだよ。新築建てたんだ」

そう言いながら、少し離れた新しい家を指した。

「は?」

まだ状況がつかめない英二は、固まった。

「まっ!いっか。荷物運ぶのを手伝ってよ。」

英二は自分が恥ずかしくなって、

「馬鹿やろう!何で俺が…」

英二の言葉をかき消すように

「可愛い彼女の言うことが聞けないの?」

と、明日香はからかった。

英二は顔を赤くしながらも、何も言わずに荷物を車に運び始めた。

荷物を運び終え、学校に二人で戻ると弥生や祐介、慎太郎にケイ、淳といつものメンバーが待っていた。

「ったく、世話かかせんなよ!」

「こんなドラマ見たことあるよ」

と、明日香と英二を祝福した。

この後、それぞれ、先生方に怒られたのは間違いない。

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