思わぬ拾い物
賊共が訳も分からず、すごすごと引き上げ、暫くすると、彼等の親玉が若い衆を引き連れて引き返して来た。頭を掻き掻き語り始めた。
「高槻様程のお方が、何用で旅にお出でで…。」
すると高槻某は飽きれた顔をして、
「その方に聞かせる事では無い。」
「…。」
「殿。最前より邪魔が入り申して。今直ぐ追い払いますので。」
すると清麻呂は、何か興味を覚えて、無下に追い払う事も無かろうと促した。
「このお方はのう。清麻呂様とおっしゃる、お偉い殿様じゃ。お上の大切なご用で宇佐八幡迄長旅じゃ。よって若輩乍、我輩が身辺をお守り申し上げようと云う訳じゃ。」
すると近江山の権三とか申す男、ばったりとひざまづくや、
「お願いでござります。どうぞ、この権三めを哀れと思いご一同のしんがりにて、お使い下され。」
「あっはっはっは。」
「高槻の…」
「清麻呂様。」
「そなたに任そう。」
「あ、有り難き幸せに存じまする。」
都を離れる早々に思わぬ拾い物をした清麻呂だった。
薄暗い山道の両側は、鬱蒼とした薮が何処迄も続いて居た。
時々山鳥が重苦しい鳴き声を立てていた。
「遠い。」
「…。」
「この道で間違い無いじゃろか。」
「三郎殿は旅慣れて居る。大丈夫であろう。」
来る日も来る日も旅の空では、どんな強靭な心を持つ者でも萎えてしまう。
都では平穏な暮らしが待って居るで有ろうに。
果たして、このあてどの無い旅が何時迄続くので有ろうか。
そんな時、思い出すのは、帝の切ない大御心。
清麻呂へのご期待であった。
それを思い出しては、衿を正すのは清麻呂であった。