夜明けの光芒
天平宝字八年、称徳天皇は再度御位にお着きに成られました。
帝のお悩みの最たるものに以前より、帝に近づいては身の回りから政ごとにまで口を挟む不遜な人物が居た事で有る。
帝が女性である事に、付け込んで、遠慮と云う事を知らない。
永い時代の流れの中には、皇室の権威の衰退せる時期が有るものらしい。どんな時代にも身命を賭け、大御心に添い奉らんとする忠義の徒は必ず居るもので有る事は、後の歴史が証す事に成ります。
濃紺の空は星の輝きや月の光もやがて色褪せ、間もなく夜明けの光芒に一面照り輝いて来た。
屈強そうな従者を十五人程従え、身に余る程の期待と使命感を帯び、清麻呂は旅立った。
数日前、屋敷を尋ねて来た田崎某を介して、お上の並々成らぬ期待を察しては清麻呂成らずとも、立たざる負え無いであろう。
「旦那様。」
「夜明けにございます。」「うむ。」
「何やら得体の知れぬ者が旦那様のお屋敷を窺って居た様子で御座ります。」
「うむ。」
当時は後の時代と違い、旅人が気ままに歩ける状況では無かった様で有りますし街道の整備も進んでは居なかった。
一行が三日目、最早都の域を離れる頃、当てにしていた宿所への路を急いで居ると暮れかかった路の先に灯火が見えた。
「殿、如何なさりまするか。」
「臆する事は無い。」
路を塞いで居たのは野武士の如き(野武士と云っても当時は武士そのものが未だ日本社会に台頭しては居なかった。)集団が街道の獲物を窺って居た。
「止まれ。」
「何者かっ。」
すると集団の親玉らしき中年の男が、だみ声で恫喝して来た。
「それは俺達の言い分よ。」
「誰の断りも無く、此を通す訳にゃ行かん。」
すると甲高い笑い声が響いた。
「はっはっは。近江山の権三。」
「ぬっ。だ、誰じゃ。」
「はっはっは。このわしの声を忘れたかや。」
「えっ。そのお声は高槻様では…。」
「その方は未だ、そんな事を致して居るのかや。」
「へい、面目有りません。」
「お前達にも、日々の生計が有ろうがな、何時までも因果な商売を致して居るものでは無いぞよ。」
「ははっ。平にご容赦を。」「早々に去れ。」