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口惜しや
「口惜しや。」
「御意。」
「田崎様。」
「そこでじゃ…」
使いの田崎某は語った。
帝は真実を知るべく宇佐八幡に使いを立てるべく
側近の尼僧法均を遣わそうとお考え為されました。
法均は元の名を広虫と申され、帝の信認篤いお一人で有った。
「清麻呂殿の姉上様には打ってつけではござりましたが、
法均様も、ちと荷が重たいとの事、
お若い清麻呂殿に白羽の矢と云う事にござります。」
清麻呂の目頭をはらはらと流れ落ちる物を見た。
「嗚呼、申し訳無い。この清麻呂がもう少しお役に立てれば、
賊のすき放題にはさせないものを…。」
「御所の中にも道鏡ずれに色目をくれる、
うつけ者も居るやも知れず、
清麻呂殿の参内には及ばずと云う、み心と考えられよ。」
清麻呂は目を上げると、
「私に為すべき事は…」
使いの者は清麻呂の言葉に勢いを得て、
「おう、聞いて下さるか。」
「帝辺に侍り奉る我等に二心は有り申さん」
「良い心掛けじゃ。」
客は深夜まで何事をか語り残して帰られた。