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3日目 ~ドキドキの大演説~

――朝だ。私はいつの間にか眠っていたようだ。

 外が何やら騒がしい。叫び声や物が壊れるような音などが、ひっきりなしに鳴っている。

 何が起こったのか一刻も早く知りたいが、周りには誰もいない。

 

 私が途方に暮れていると、微かに妖精の羽の音がした。リーシャであった。

「リーシャ!どうしたの?」

「追われているの。どこか隠れ場所は無い!?」

「それより外はどうなっているの?」

「もう戦争のような状態になっているわ……」

「どうして!?」

「私にも分からない。今朝プーケの死体が発見されて、それを私がやったという事になっているらしいの。それで私とマーヤの派閥同士で争いが起こってしまったのよ」

「どうしてリーシャがやった事になったの?」

「私の引き出しの中に血のついたナイフが入っていたの。誰かが私を陥れる為に入れたんだわ!」

「ナイフ……」

 私は考えた。

「人間をさらった際に誰かがくすねたのね。よくある事だわ」

「私、犯人が分かったかもしれない」

「誰!?誰なの!?」

「教えてもいいけど、ここから出してくれない?」

「それはできないわ」

「どうして!?」

「勝手に牢屋から出したら、罪に問われるわ」

「でもこのままじゃあなたは殺しの罪で捕まる事になるわよ?」

「!?」

 リーシャは驚いた顔をした。

「その様子を見ると、殺しの罪は相当重いようね」

「……殺しは無条件で死罪になるわ……」

「だったら早く疑いをはらさないと!」

「……そうね……分かった。出してあげるわ」

「ありがとう!私も疑いを晴らすの協力してあげる!

 ………あ、でも出たくても牢の鍵が無い!」

「必要無いわ」

 リーシャは目を閉じて集中した。そして右手をかかげると、その腕がみるみる鎌のようにするどい刃物に変化した。

 そしてその鎌で、大きな木の格子を切り落とした。

「すごい!そんな力があるなら衛兵も倒せたんじゃ……」

「無理言わないで。すごく集中力がいるんだから」

「もしかしてマーヤがニキータを牢から出したのもこの力かな」

「そうかもね。今までも沢山妖精が死んだケースがあるけど、死体はどれも鋭利な刃物で殺されていた……

 って、そんな事より早く真犯人を教えてちょうだい!」

「ええ、犯人は多分ニキータよ」

「ニキータが!どうして分かるの?」

「一つは私がさらわれた時、プーケが何かニキータの秘密を知っているような会話をしていた事。つまり口封じの為の殺しね。そしてもう一つは私がここに閉じ込められた時に、マーヤが来て、もうニキータを助けても意味が無いような事を言っていたの。多分牢屋に入れられた事によってニキータの存在価値が無くなって、用済みになったって事だと思うの。

 そうなるとニキータのキツい性格を考えると、必ず誰かを恨むと思う。最初は私の所に来るかなと思ったけど、プーケが死んだと聞いてきっとそうだと確信したの」

「なるほど、確かに牢に入れられたのは間接的にはプーケのせいよね……」

「でもそれを言った所で、疑いが晴れるとは限らない。だからリーシャはここに居て。私がみんなに話してくる!」

「話すってどうやって?」

「まだ何も考えてないけど、何とかなるでしょ!」

「あなたって、かなり適当な性格なのね……」

「リーシャが固すぎるのよ。じゃあ、また呼びにくるから!」

 私は役所の牢獄を出て外に出た。

 

 妖精達はテーブルやらハンマーやらを宙に浮かせて争っていた。

 今までの均衡が崩れたように争いあう妖精たちを見て、私は我慢できなかった。

 彼女たちの野蛮さに、では無い。彼女達は恐らくさらった人間の文化を色濃く受け継いでいる。話す言葉が人間のものである事からもそれは明白だ。その人類が歩んできた争いの歴史を、美しい妖精たちが繰り返す事に我慢できなかったのだ。

 私は3階に向かった。3階には離れ小島のようにポツンと魔法の力で浮いている小島があったのだ。

 恐らく妖精の集会所のようなものだろう。そこにジャンプして飛び移ると、思った通り、1階から5階まで見渡す事ができた。

 私は何も準備していなかったが、思っている事を伝える為、ありったけの声を出した。私はクラスでも一番の大声の持ち主なのだ。

「みんな聞いて!」

 しかし、妖精の動きは止まらない。

「血のついたナイフが引き出しにあっただけで、リーシャのせいにするなんておかしいわ!誰かが仕組んだ罠よ!」

 妖精達はまるで聞く気は無いようだ。もう彼女達はリーシャの事で争っているようでは無かった。彼女達はただ争うキッカケが欲しかっただけなのだ。

「どうして聞いてくれないの!」

 私は肩を落とした。

「私は貴方達に、人間と同じ歴史を繰り返さないで欲しいだけなの……」

 その言葉を聞くと、半分ほどの妖精が動きを止め、こちらを向いた。

 私はビックリして少し恥ずかしくなった。彼女たちは人間を嫌ってはいるけど、人間の歴史には興味を持っているのかもしれない。

 私は気をとりなおして、思っている事を口に出した。


「貴方達がやっている事は人間の世界でも、もう何千年も何万年も続いてきた事なの。相変わらず今も地上ではみんな争っているけど、それはまだまだ勘違いしている人が多いってだけ。でも少しずつ分かってくる人も増えてきたの。

 みんなが一つになる事を目指さない限り、戦争は絶対に無くならない。戦争ではどっちも『自分が正しい』と思っているの。でも正しいなんて言葉で表せるような事じゃない。人殺しだって状況が変われば簡単に正当化できるんだから。

 全体の為を思って誰もが行動したら、絶対に争いは起こらないわ。争いは常に個人や、個人の属する国や団体に関わっているんだから。自分達だけの国や団体を尊重するという考えを無くさなければならないの。

 その為には意見の違う者に耳を傾ける事は絶対に必要なの。排他的な態度では分かり合うことはできないわ。私たちに必要なのは、意見の食い違いを受け入れて、全ての人を尊重する事なのよ!」


 私は学校で習った歴史と語彙を最大限に駆使して演説をした。学級会の発表より何百倍も多い群衆の中で。体中が火照っていた。

 いつしか騒がしい音は止んでおり、妖精は争うのをやめていた。ただしそれは私の意見を聞いて、というよりは争う拍子を崩されたから、という感じであった。

 私の言いたい事は全部言った。

 その後、役所の衛兵に見つかってすぐ別の牢屋に入れられたけど、これで『死んでも死に切れない』という事はなくなったわ。もちろん死ぬつもりなんて無いけど……

 

 そして夜になった。結局リーシャも見つかって、牢屋に入る事になったみたい。

 でも入れられた場所が離れているから会話はできない。それに会話できた所で、私には彼女を救う事はできなかったのだから、恨まれても仕方無かった。

 もう私を助けてくれる人は完全にいなくなった。

 一つだけあるとすれば、今日私が話した事を理解してくれた人だ。

 その人達が、ひょっとして助けてくれるかもしれない。そう思った。

 私にはもうこれ以上深く考える力も無かった。今日も水しか飲んでいないからだ。人間はここでは暮らしていけない。体が弱ったら殺されて終わりだ。

 明日中には何としても妖精達に私の意見を理解してもらった上で、生きて帰る手段を考えなければならない。


 そう決意したところで私は眠りに落ちた――

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