「戦力外」と鑑定士を追放したパーティが迷宮最深部で詰みかけていたので、ついでに古竜ごと黙らせてやった
## プロローグ:荷物持ちの解雇通告
「はっきり言う。お前、もういらない」
Bランクパーティ《黎明の剣》のリーダー、ガイウスはギルドの酒場の真ん中で、俺に向かってそう言い放った。周りの視線が一斉に突き刺さる。
(人前で言うことか、それ)
俺、ユーリ・アーレンスの職業は「鑑定士」。魔物のステータスや魔法の構造を視る仕事だ。戦闘力はゼロに等しい。剣も振れないし、魔法も撃てない。パーティの中では長年、荷物持ちと斥候の下働きを兼任してきた。
「ユーリ、あんたずっと後ろで指差してるだけじゃない。私たちが命懸けで戦ってるのに」
魔法使いのレティシアが腕を組んで鼻を鳴らす。剣士のガイウス、聖女のフィオナ、そして勇者――と呼ばれてはいるが実際はただの脳筋剣士――のダリオ。四人は顔を見合わせ、うんうんと頷いていた。
「最近見つかった迷宮、《竜眠の墓所》に挑む。お前を連れていく余裕はない。今までご苦労さん」
ダリオがそう言って、革袋に入った小銭――俺の三年分の取り分の、明らかに端数だけ――を投げてよこした。
(律儀に金だけは払うんだな。せめてもの良心か)
俺は袋を受け取りながら、内心で盛大にため息をついた。パーティを追い出されるのは正直、ショックというより「ああ、やっぱりか」という諦めに近かった。三年間、俺が事前に鑑定していた魔物の弱点情報のおかげで、彼らは無傷でここまで来られたはずなのだが――そんなことに気づく者は誰もいなかった。
「達者でな、雑用」
捨て台詞を残して、四人は意気揚々とギルドを後にした。
俺は一人、空になった酒場の席で、手元の小銭を数えながら呟いた。
「……さて、これからどうするかな」
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## 第一章:視えすぎた真実
酒場を出て、俺は宿の自室に戻った。ベッドに寝転がり、天井を見つめる。特にやることもないので、暇つぶしに自分自身を鑑定してみることにした。鑑定士は自分自身にもスキルを使える。今更ではあるが。
「【鑑定】発動」
視界に、見慣れたステータスウィンドウが浮かび上がる。
```
┌───────────────────────────────┐
│ ユーリ・アーレンス │
│ 職業:鑑定士 │
│ Lv.34 │
│ HP:120 MP:9,840 │
│ 攻撃:12 防御:8 │
│ │
│ スキル:【完全鑑定】Lv.MAX │
│ 隠しスキル:??? │
└───────────────────────────────┘
```
(隠しスキル……? そんな項目、今まで見たことないぞ)
三年間、毎日のように自分を鑑定してきたが、この表示は初めてだった。恐らく、鑑定士としてのレベルがある一定値を超えたことで、新たな項目が解放されたのだろう。
「詳細表示、頼む」
念じると、隠しスキルの欄が展開された。
```
【トレース・リフレクション】(EX)
概要:対象の魔法・スキルを「完全鑑定」した瞬間、
その構成式・魔力回路を演算し、
使用者自身のスキルとして再構築・行使可能にする。
制限:一度でも鑑定した対象に限る。
熟練度:∞(理論値上限なし)
```
俺はしばらく、文字列を三度読み返した。
(……待て。待て待て待て)
これはつまり、俺がこの三年間で鑑定してきた――魔物の固有スキル、仲間の必殺技、道中で見た敵性魔導士の禁呪。その「全部」を、自分のスキルとして使えるということじゃないのか?
「いや、そんな馬鹿な」
半信半疑のまま、俺は昔メモした鑑定記録を引っ張り出した。三年前、ガイウスが会得したばかりの奥義《剛撃・断雲斬》。当時、俺はその構成式を興味本位で丸ごと鑑定していた。試しに、その名を思い浮かべながら剣を握る真似をしてみる。
体の中で、何かが「カチリ」と噛み合う感覚があった。
「――《剛撃・断雲斬》」
呟いた瞬間、俺の右腕に見覚えのある魔力光が纏わりつく。ガイウスが得意げに披露していたものと、寸分違わぬ軌道だった。
「……マジか」
俺は思わず声に出して笑ってしまった。
三年間、「戦力外」「雑用」「荷物持ち」と罵られ続けた鑑定士は、実は――視た瞬間に、あらゆる力を自分のものにできる、とんでもない化け物だったらしい。
(もっと早く気づけよ、俺)
自分自身への盛大な突っ込みを入れながら、俺はニヤリと口角を上げた。
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## 第二章:救難信号
翌朝、ギルドが騒がしかった。理由はすぐに知れた。
「《黎明の剣》が《竜眠の墓所》最深部で消息不明!緊急救援依頼が出ている!」
受付嬢が悲鳴じみた声で叫んでいる。俺は聞き耳を立てながら、内心で小さく舌打ちした。
(あの人たち、俺がいなくなった途端これか……)
《竜眠の墓所》は、古竜級の魔物が眠るとされる危険度Aランクの遺跡だ。俺が同行していた頃は、事前に道中の罠と魔物の弱点を全て洗い出していたから、四人は「自分たちの実力」だと勘違いしたまま無傷で進めていた。鑑定なしで最深部に挑むのがどれほど無謀か、彼らは理解していなかったのだろう。
救援依頼のボードには、報酬とは別に「生存者救出優先」の但し書きがついている。誰も彼もが尻込みして、依頼を受ける者がいない。
俺はしばらく、ボードの前で腕を組んで考えた。
正直、あの四人を助ける義理はない。三年間の恩を、最後の最後で銭勘定と捨て台詞で返された身だ。
「……でもまあ、寝覚めが悪いのも嫌だしな」
それに――と、俺は自分の右腕を見下ろす。この力が本物なら、試してみたい相手としてはこれ以上ない大物だ。
「この依頼、俺が受ける」
受付嬢はぽかんとした顔で俺を見た。
「え、ユーリさん……お一人でですか? あそこは古竜級ですよ?」
「大丈夫。ちょっと、鑑定しに行くだけだから」
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## 第三章:視るだけで終わる戦い
墓所の最深部にたどり着いたとき、《黎明の剣》の四人は虫の息だった。
床には巨大な魔法陣、その中心に鎮座するのは全長二十メートルはあろうかという漆黒の古竜――《万獄竜アズグロス》。ガイウスの鎧は半分砕け、レティシアは魔力切れで気を失いかけ、フィオナの回復魔法も底を尽きかけている。ダリオだけが辛うじて剣を構えているが、その手は震えていた。
「な……なぜお前がここに……」
ガイウスが呆然と俺を見上げる。
「鑑定しに来た、って言ったろ」
俺は軽口を叩きながら、古竜へと視線を向けた。
「【鑑定】」
```
┌───────────────────────────────┐
│ 万獄竜アズグロス │
│ 種族:古竜 │
│ Lv.180 │
│ 弱点:雷属性/心臓部の逆鱗 │
│ 固有スキル: │
│ 【暴獄の咆哮】【竜鱗障壁】 │
└───────────────────────────────┘
```
(弱点まで丸見えか。ずいぶんサービスがいいな、お前)
古竜が咆哮を上げ、俺目掛けて漆黒の炎を吐き出す。ダリオが「危ない!」と叫んだが、遅い。
俺は炎をまっすぐ見据えたまま、静かに告げた。
「――《聖盾・絶対結界》」
フィオナが披露していた防御術式が、俺の眼前に光の壁を展開する。炎はその表面で霧散した。
「なっ……」
フィオナが目を見開く。それは彼女の切り札のはずだった。
「悪いな、三年前に一度視てるんだ」
俺はそう言いながら、次の一手を組み立てる。頭の中で、これまで鑑定してきた膨大なスキルのログが高速で再生される。魔物、盗賊、賢者、勇者――視てきたもの全てが、今この瞬間、俺の手札になっている。
「じゃあ、返すぞ。お前の弱点」
俺は右手を古竜へと向け、これまで鑑定した無数の雷属性魔法の中から、最も出力の高い一つを構成式ごと引き出す。かつて宮廷魔導士が実験中に垣間見せた禁呪――しかし今の俺には、ただの「視た記憶」に過ぎない。
「【トレース・リフレクション】――全展開」
視界にステータスが浮かぶ。MPの残量が一気に流れ込むように消費されていく。だが構わない。
「必殺・――《雷罰・審竜天誅》」
天から降り注ぐ紫電が、古竜の逆鱗目掛けて一直線に落ちる。轟音とともに、《万獄竜アズグロス》の巨躯が痙攣し、力なく崩れ落ちた。
沈黙。
墓所の奥に、静寂が舞い戻る。
「……は?」
ダリオが間の抜けた声を漏らした。
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## 第四章:スカッとする後味
「い、今のは、何なんだ……お前、鑑定士だろう……!?」
ガイウスが震える声で俺に詰め寄る。俺は軽く肩をすくめた。
「鑑定士だよ。ただ、視た力を自分のものにできる、ってだけの話」
「そんな馬鹿げた……!」
「馬鹿げてるのはそっちだろ」
俺は静かに、しかしはっきりと言葉を返す。
「三年間、俺が事前に鑑定した情報でお前らは無傷で進んできた。俺がいなくなった途端これだ。“戦力外”はどっちだよ」
反論できずに黙り込む四人。フィオナが涙目で口を開いた。
「ご……ごめんなさい、私たち……」
「謝罪はギルドにでも報告しといてくれ。俺はもう、お前らのパーティに戻る気はない」
俺は踵を返し、墓所の出口へと歩き出した。背後で四人が何か叫んでいたが、振り返る気にはならなかった。
――数日後、ギルドには一つの噂が駆け巡った。
「《竜眠の墓所》の古竜を単独撃破した鑑定士がいるらしい」
「Aランクパーティが束になっても敵わなかった相手を、たった一人で……」
その男の二つ名は、いつしかこう呼ばれるようになった。
**《視るだけの深淵》ユーリ**
俺はギルドの隅で、その噂話を聞きながら一人苦笑いを浮かべた。
(二つ名、もうちょっとかっこいいのなかったのかよ)
心の中で盛大に突っ込みつつ、俺は次の依頼票へと手を伸ばす。もう荷物持ちでも雑用でもない。俺は、視た力すべてを自分のものにする、正真正銘の最強の鑑定士だ。
これから何を視て、何を我がものにするのか――それを決めるのは、他の誰でもない、俺自身だ。
窓の外は、抜けるような青空だった。
**――完――**
お読みいただき、ありがとうございました。
「視るだけで奪う」鑑定士という、地味だけどチートな設定を書いてみました。
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